ARCHIVE
シアターノート11。 (3/1/2003)
シアターノート
「アーティストがアーティストに贈った」作品をもとに実現した美術展そしてオークション。Theatre La Chapelleのギャラリーにて5月3日まで開催中だ。視覚芸術以外の専門家としての人生を歩みながら、美術作品を生み出してきた表現者たち。オークションにかけられる5作品は彼ら自身からTheatre La Chapelleギャラリーに寄贈された。制作や作品発表の場の提供を中心にアーティストたちを支える小劇場Theatre La Chapelleと、その活動を支援する以下5人の成熟したアーティストたちの関係が浮き彫りになる。  昨年末惜しくも故人となった振付家JEAN-PIERRE PERREAULTのリトグラフは、通常見る彼の作品とは異なり、カンバスが力強さで埋められている。ポルトガル詩人フェルナンド・ペソアを題材に、暖かくも人間の多面性を想起させる彫刻は役者PAUL SAVOIEの手による。役者HELENE MERCIERの作品《Ombre》はデッサン用木炭を使ったナイーフな作風をもつ。和紙とグアッシュ、墨汁を組み合わせたミニマルなTitaniaは振付家JO LECHAYの作品。そして、極端に長細い額が特徴の油絵を提供したジャズ系音楽家JOHN HEWARD、本にやすりをかけることによって素材感に注目した即興音楽家MARTIN TETREAULT。ちなみに、昨年はミシェル・トランブレが水彩画を寄与した。  作ったアーティストたちの専門もまちまちであれば、彼らが使った素材もそれぞれ異なるこの作品群。鑑賞がてらギャラリーに立ち寄るもよし、試しに競売に参加してみるもよし。参加方法は、期間中、ギャラリー設置の参加用紙に名前等と金額を記入し、箱に入れるだけ。遠方の方は、インターネット上(http://www.lachapelle.org/)でも参加可能。5月3日午後5時から最終競売会を開催。また、10ドルの寄付で、5つの中の一作品、あるいは来シーズンの同劇場無料観劇券が抽選で当たる。専門外のアーティストたちがその発想を視覚芸術で表した、世に見る機会が滅多にないであろう希少価値的存在の作品たちは必見。 ところで、先月号の「観劇後感」で紹介したEVELYNE DE LA CHENELIERE作《Au bout du fil》が映画化される。《Au fil de l'eau》というタイトルでEx-Centrisにて3月7日から20日まで上映。

◆Tue.2.18 - Sat.3.22.2003 8:00pm

1918年、戦中戦後にかけてのサスカチュワンの村ユニティ。恋焦がれる人の帰還を待ちながら日記を綴るベアトリスや彼女の姉妹を始め、あらゆる世代の人々の物語。マニトバで死人が多数出る病気が流行っているという噂が流れてくる。実はそれはスペイン風邪だったのが、正しい情報も得られず、ペストだという噂まで流れる有様だ。忍び寄る死の影に人々はおびえる。そのうち、一人、二人とインフルエンザは身近な人々の尊い命を奪っていく。舞台にいつも転がっているのは木製の棺おけ。そんな時代状況を思春期の少女の観察眼を通して語ることで、時には単刀直入に、時にはコミカルに綴っていく。一見印象の薄いテーマだが、計算された中に感情移入させていく高度な演出技術をPOISSANTは見せる。Théâtre PàP設立25周年を記念した、オタワのナショナル・アーツ・センタとの共同制作。役者たちが一瞬のうちにコーラス隊を組み唄い始めるなど、ミュージカルのように多くの観客を楽しませることのできるドラマだ。盲目の帰還兵を演じるSTEVE LAPLANTEの傍観者然とした演技が印象的。

◆Tue.2.10 -Sat.5.19.2003 (Mondays & some Tuesdays) 7:00pm

第25回即興演技リーグ。LNHならぬLNI。ユニークなこの発想は北米ならでは?なにせ演劇手法の一つ、即興の技をアイスホッケーゲームの要領で競いあうのだ。もちろん、各チームに分かれ、審判もいれば、反則もとられる。25年来存在するこのリーグ、テレビでも放映され、国民的に認知されているイベントだ。その昔にはロベール・ルパージュも出演し、異文化の特徴をつかんだソロ即興演技で優勝を飾っている。今年の出場者はSYLVIE MOREAU, STEPHANE ARCHAMBAULT, SOPHIE CADIEUXら。演劇人たちの発想の豊かさとカナダの人々の愛するアイスホッケーゲームをかけあわせたこのイベントは、世界ツアーをするようになって久しい。

<イベント>la Ligue nationale d'improvisation<劇場>Medley(1170 St-Denis)<料金>$16.10

◆Tue.2.25 - at.3.15.2003 8:00pm

アナとクリス。自分の理想の実現を相手に求めあう奇妙な愛の関係。対話をしたり、ともに踊ったりしつつ、互いを征服しようと試みる。この二人は膨れあがった「風笛(Cornemuse)」のように破裂寸前なのだ。アナとクリスは、いったい誰?さまざまな解釈を許す関係を象徴、精神、性の観点から描いた異色作。作家、演出家、役者であると同時にインド舞踊カタカリの専門家LARRY TREMBLAYの世界を堪能したい。動作に関して、振付家ESTELLE CLARETONが協力している。

<演目>Cornemuse<劇場>Theatre d'Aujourd'hui (3900 St-Denis x Roy, metro Sherbrooke)<演出>ERIC JEAN<脚本>LARRY TREMBLAY<料金>$25(学生$20)<写真>YVES RENAUD

◆Tue.3.11 - at.4.5.2003 8:00pm 2025年、市民戦争勃発。ジョン・スミスは数々の戦争が残した名もなき死骸の身元確認作業に取り掛かる。赤十字が犠牲者たちの被害の痕跡を写真に撮ってまとめた一冊の本を片手に、ジョンはカメラマンとともに前線へと進む。しかし、記憶はテレビのようにあるときスイッチを消すようなわけにはいかない。北京の動物園の獣医である恋人のことも然り…。PHILIPPE DUCROSが中国滞在中に書いたこの作品は国際紛争に関する、人々やメディアの責任を問いかける。ブラウン管にリアルタイムで映る爆撃は、ある種のショーに成り下がってはいないか?戦争原因よりも映像に心を奪われてはいないか?ソファでみる戦争。「メディアこそが戦争だ。テレビはアヘンだ」…ところで、この作品にはタイトルのとおりボア(大ヘビ)が登場する。ただ、2025年は筆者の計算によると午年なのだけれど?

<演目>2025, l'annee du serpent<劇場>各地区Maison de la Culture (Plateau Mt-Royal, 872-2266)整理券要<劇団>Theatre du Grand Jour<脚本・演出>PHILIPPE DUCROS(写真)<料金>FREE

◆Tue.3.11 - at.4.5.2003 8:00pm

ボードビルの世界に新風を吹き込んだフランスの作家ジョルジュ・フェイドー(1862-1921)の3部作。得意の不倫をめぐる家庭でのいさかいを描く茶番劇。カミュ、ストリンドバーグ、コルテス、ミュラーといった個性的な作家作品を採り上げてきたBRIGITTE HAENTJENSが今回は軽喜劇に挑む。体が語る演出法に注目。HAENTJENSとは再度共同制作を重ねてきた照明デザイナー西川園代。先日BBSでお知らせした、西川氏のケベックのJacques-Pelletier賞の受賞はHAENTJENS演出《Antigone》によるもの。

<演目>Farces conjugales<劇場>Rideau Vert (4664 St-Denis x Mt-Royal, Metro Laurier)<脚本>GEORGES FEYDEAU<演出>BRIGITTE HAENTJENS<料金>$39.75

<観劇後感>

観 劇 日:1.26.2003
作   品:Chroniques
劇   団:Orbite Gauche
場   所:l'Union francaise
脚   本:SEBASTIEN GUINDON
演   出:NORMAND LAFLEUR

 なにせ一日で6作品まとめて上演しようという演劇マラソン、演じるほうも観るほうも耐久戦だ。休憩や食事時間も含めて9時間の長丁場。10人の役者たちは出ずっぱりではあるが、主役、脇役、端役など立場を作品ごとに入れ替える。友人が出演しているという、客席で隣りに座っていた役者稼業を営む女性は、「これは大変よ。台詞を覚えるのが」と感心(同情?)していた。

 誇張の演劇。それがこの一連の作品の印象だ。その誇張が、ひとりひとりの個性を浮かび上がらせるのに効果的だ。そして、えてして意識の浮遊しそうな観客の集中力を刺激する。1900年のパリから始まり、16年ダブリン、30年ローマ、48年ベルリン、66年モントリオール、そして2000年パシフィックまで各時代の各都市を描く。個人的なエピソードの周辺に、世界博のパリ、スターリンの時代のローマ、これまた世界博のモントリオールなど、各時代の視線の方向を映しだす。衣装や小道具、言葉づかいなどで時代を彷彿とさせる古典劇を得意とする正統派の劇団かと思いきや、モントリオール編ではサイケなフラワーチルドレンたちを好演するなど、その幅広さを見せる。時代考証に数年かけた上、独自のシナリオを作ったエネルギーあふれるカンパニーだ。

ローマ編は独裁政治に締め付けられた世情に係わらず、笑いに溢れていた。MARTIN VILLANCOURT演じるドナート・アモレートなる人気映画俳優のやさ男ぶりが見事。アクロバティックな動きも採り入れ、演技のリズムを刻むかのようだった。一方、ベルリン編は東西冷戦中、原子爆弾開発のスパイ戦を巡る研究者たちの話。一転してまじめなドラマが繰り広げられる。

一方で、生演奏が雰囲気づくりに一役かっていた。チェロやキーボードの他に、バンジョーもあり。全体的には単調になりがちなメロディーだったが、ちょっとした演技の間を埋めるようにささやくようなボーカルを入れることで臨場感を増す。ボーカルとキーボードのNATHASHA POIRIER自ら作曲と音楽監修を努めており、殊に彼女のアカペラには聞き惚れた。オペラ歌手など到底思い浮かばないその華奢な姿から、ひたすら薄い高音が発せられる。他にジャズ、アラブ風音楽と、多彩な音楽のボーカルすべてを一人でこなした。

2年間の創作ラボを経て完成したこれらの作品群。作品研究、時代考証、演技向上など、多彩なグループワークから出来上がった。1年に1、2作創作するカンパニーもあれば、じっくりと時間をかけて、見せること以上に創作過程を重視するカンパニーもある。テーマ探究に注ぐ純粋な熱意といい、研究者然とした知識といい、そんな演劇のあり方に最も魅きつけられる。

表紙写真:Cornemuseより
写真:FOLIO ET GARETTI

取材・文:広戸優子