先月、“La traveree” (横断)という作品を観た。オンタリオ通り東部にあるTheatre Prosperoの地下、50客席ほどのスペースでのことだ。JEAN-FRANCOIS CASABONNE作の不条理劇。ローレンシャンを通ってモントリオールまでというルートをとる現代巡礼だ。ケベックアクセントを自然に使いつつ、ベ ケットやイオネスコを想起させる洗練された言葉あそびも加えた好作だった。

 この作品を観て新たに注目するのは、ケベック州の人々のカトリック教に対する関わり方だ。60年代前までは政治と結びつき、彼らの精神世界形成に大きな 影響力を与えていたカトリック教。それが静かな革命期ごろからその権威が低下し、現在では若者にカトリック教の影を見ることはほとんどいない。

 先月号で紹介したANTOINE LAPRISEも、その名も「聖書」という作品を創った。演出家・俳優・劇作家ALEXIS MARTIN も、今の興味のひとつはカトリック教など宗教だという。WAJDI MOUAWADからも宗教の話は自然と出てくる。彼らはいずれも30代だ。もちろん、宗教が哲学の一部だということを思い起こせば、テキストに重点をお く劇作家たちが、文学との関わりから宗教に注目することは普遍的な態度だろう。一方で、いったん人々からカトリック教が切り離されて以来4半世紀が経と うとしている今だからこそ、自分たちのアイデンティティに関わるカトリック教を客観的に見直しているのではないかと思う。
Fri.1.3.2003 7:30pm, Sat.1.4, Sun.1.5.2003 3:00 & 7:30pm

Les Sept doigts de la mainとはまた別の渓流で、新たなサーカスアートカンパニーが昨年1月、誕生。その初作品が新年早々、Usine Cにて上演される。州立サーカス学校卒業生MARK PIEKLO, LAURA SMITH, NICOLAS LAURIAULTの3人がカンパニー発起人。フランスやアメリカからのメンバーもおり、国際色豊か。ところで、このカンパニーが振付家PIERRE-PAUL SAVOIEを芸術監督として迎えていることは見逃せない。大規模なダンス作品を創作し続けているSAVOIE1997年の作品“Poles”など、 バーチャル映像を融合した傾向が目覚しい。年齢層関係なく楽しめる、舞台芸術とサーカスの融合。必見。

<演目>Element Cirque Fetes(現代サーカス)<劇場>Usine C (1345 Avenue Lalonde x Vigitation, Metro Beaudry)<劇団>Element Cirque<演出>PIERRE-PAUL SAVOIE<料金>$15(学生$1212才以下$8)

Fri.1.7 −Thr.1.23.2003 8:00pm

作品「十二夜」。公爵、貴公子、麗しのマドンナ、そして道化たち。悲恋と誤解としかけなど盛りだくさんのシェイクスピア喜劇のパターンが、観る者を爽快 な気分にさせてくれる。オリヴィア姫に恋焦がれる公爵オーシーノが、劇中描き続けるオリヴィアの肖像画。物語が終わる頃には完成し、壁一面を覆う。オー シーノの傍らでバイオリン弾きが奏でる音色の物哀しさ。そこに余興として割り込んでくる道化と音楽師たち。物語の核は、オリヴィアとオーシーノそして実 はヴィオラが男装しているセザーリオの三角関係。いつもながら劇場TNMの舞台装飾は豪華だが、私が見たどれよりも洗練されていた今作の装飾。画家RICHARD MORINによる。天井まで覆う壁のグレー・ベージュトーン。アトリエで絵を描く人々の作業服もほぼ同色。抑え目のトーンが照明の力を借り、舞台全体を 輝せていた。

<演目>La nuit des rois<劇場>Theatre du Nouveau Monde (84 St-Catherine West x St-Urbain,metro Place des Art)<原作>シェイクスピア<演出>YVES DESGAGNES<料金>$18-$39<写真>GILBERT DUCLOS

Tue.1.7 - Sun.1.18.2003 7:00 & 9:00pm (+ 3:00pm for Wed/Sat)

先夏フリンジフェスティバルで好評を博した作品を中心に、新進カンパニーによる5作を一挙上演。作品“JOB”(Jerome Saibil & Eli Batalion, Foque dans la tete Productions制作・演技)は、ヒップホップ・ミュージカル。ストリートダンスが舞台芸術に歩み寄り、新たな融合表現法を生んだ。大人も子供見 て楽しめる質の高さは保証付き。これを機会に、英語系殿堂的存在のTheatre Centaurにご家族で足を運んでみて欲しい。“Is Shakespeare Dead?”(Keir Cutler制作・演技)は、シェイクスピアを題材にした一人芝居。ウィットにきいた台詞と間の取り具合が魅力。

<イベント>The Wildside Festival<劇場>Theatre Centaur (453 St-Francois Xavier x Notre-Dame)<料金>$10(学生・シニア$8

Tue.1.14 - Sat.2.8.2003 8:00pm

ヴィヴィにルル、クリクリは、血も心も苦境も夢も分かち合う3人兄妹。アルコール依存症の父と無気力の母と暮らすこの子供たちの生活は、どんづまりに あった。そんな兄妹はそろって夢想するのだった。「大きなトラックがカーブを切りそこねて、自分たちの家を粉々に砕くんだ」と。苦難から解放されるた めのに空想に逃げ込む子供たち。MARTIN POULIOTは詩作の他、朗読もする作家だ。感情のほとばしるポエジーを堪能したい。

<演目>Le bruit de camions dans la nuit<劇場>Theatre d'Aujourd'hui (3900 St-Denis x Roy, metro Sherbrooke)<脚本>MARTIN POULIOT<劇団>MICHEL BERUBE<料金>$25(学生$20

Tue.1.14 - Sat.2.8.2003 8:00pm

3人の独身女性が、とある記念日のため、レストランに寄り集まった。そして3人でおしゃべりが始まる。それだけ?そのとおり!そんな凡庸な状況から、脚 本のJOSETTETREPANIERはこの物語を始める。「他の劇場では見ることのできない作品」であることを基準に作品を選択する劇団 NTE(Nouveau Theatre Experimental)に招待されたこの作品。NTEのポリシーどおり、演劇の制作プロセスを重視した作品であると期待できる。少しでも多くの人が 劇場に足を運べるようにと設定した当劇団固定チケット料金18ドル。

<演目>Le Cours des choses<劇場>Espace Libre (1945, Fullum x Ontario, metro Frontenac)<脚本>JOSETTETREPANIER<劇団>Nouveau Theatre Experimental<料金>$18
<観劇後感>

観 劇 日:Sat.12.7.2002
シリーズ:Vacarmes - Cabaret perdu
演   出:DOMINIQUE CHAMPAGNE
場   所:Espace Libre
脚   本:FRANCOIS ARCHAMBAULT, CHRISTIAN BEGIN, DOMINIC CHAMPAGNE, STEPHANE CRETE, ANTOINELAPRISE, DOMINIQUE LEDUC, MARIE-CHRISTINE LE-HUU
音   楽:ANDRE BARNARD, PIERRE BENOIT, LUDOVIC BONNIER
劇   団:Theatre Il va sans dire
写   真:"Tu es belle" GILLES LAUZON

日本のミスタースリムカンパニーを思い出した。もっとも、私が公演を観ていたのは10年以上も前のことだが。俳優梨本謙次郎や布施博を輩出し た、1975年結成のロックミュージカル劇団だ。このタイプの一見、肩に力の入りすぎた感のある、メッセージ押し売り型の前衛作品は、意外に現在のケ ベック州では見られない。とはいうものの、決して否定的な感想をもっているわけではない。直接的なエネルギーで観る側を攻めることは、リスクを負う覚悟 のできたアーティストにしかできないことだ。そういう点で、私は演出・劇作家DOMINIQUE CHAMPAGNEを注目すべきケベック州の表現者の一人として見ている。

 さて、「ばか騒ぎ(Vacarmes):失われたキャバレー」と名付けられているだけに、歌あり語りあり、笑いあり涙あり、そして主張もありのスケッチが延々と続くこの作品。客席前方半分には 丸テーブルがいくつか設置されており、観客たちは劇中もドリンクを飲みながらショーを楽しむことができる。舞台奥両脇にはミュージシャンらがスタンバイ。舞台上の13人たちそれぞれが、クラウン風にフェイスペインティングをしたり、メキシコ帽や滑稽な衣装を身 に着けている。同じキャラクターのナンバーが繰り返し登場し、ロック混じりの裏拍子の音楽が流れるなど、まさにサーカス小屋の退廃的雰囲気をかもし出 す。DOMINIQUE CHAMPAGNEのユニークなところといえば、まさにこのサーカス色。その昔、サーカス劇団で働き、象の世話係からクラウン役を貰えるところまでいっ たという経歴をもつ。彼の追及するスタイル「音楽劇」(ミュージカルとは一線を引く)は、このサーカス経験が影響しているといえるだろう。

 ところで、このもの哀しい(私のもつ従来のサーカスに対する印象のせい?)ばか騒ぎには、多くのメッセージが込められている。「込められている」どころ か、放出しているのだ。この作品、実は非常に政治的な作品だ。「環境保護!絶滅種保護!米製品市場占有反対!」などなど観客に訴えかけ、中にはプラカー ド掲げて涙と怒りを交えて語るシーンなどもある。あくまでおもしろおかしく、そしてまじめに。そもそも、この作品ができたきっかけは、9月11日のテロ 事件。20人程度の作家、役者、音楽家、ダンサー、ジャーナリスト、映画人たちが集まり、それぞれの手法で脚本の一部をつくり、それを寄せ集めてできた メッセージ劇がこの作品なのだ。あまりに直接的な訴え方には閉口するが、そのエネルギーは観劇後も長く余韻を残していたから、やはり効果はあるものだ。

 最後に、政治的な演劇作品を生み出すDOMINIQUE CHAMPAGNEが、一方でTheatre du Nouveau Mondeの古典劇「オデュッセイア」に脚本で協力したり、シルク・ドュ・ソレイユの“Varekai”を演出するなど、いろいろな層のアーティスト や観客に触れている人であることを付け加えておきたい。

表紙写真:Le bruit de camions dans la nuitより
写真:FOLIO ET GRETTI

取材・文:広戸優子
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