演劇作品の中に目新しいジェスチャーの採用を見る昨今。TNMで上演中の"Kean"では、マイムをふんだんに使った演出が際立っている。なるほど主人公キーンを演じるJEAN ASSELINは、70年設立のマイム劇団Omunibus設立者。例えば、キーンが片ひざを軽く叩いて掌を顔に近づけるジェスチャー。このしぐさをするたびに、反響音が意図的に流される。これはワインを飲み干すしぐさの比喩。誇張的かつ象徴的な振りには形式美があり、歌舞伎の所作さえ思わせる。

 ところで振付指導には、アートを社会貢献に結びつける、カナダの代表的な振付家兼ダンサーMARGIE GILLISが加わっている。"Kean"にはMARGIE GILLIS、分野は違えど映画「かたくり家の人々」(三池崇史監督)にコンドルズの近藤良平が振付指導。演劇だけでなく映画にも派生しているこの傾向、見逃せない。また、誇張されたキーンの人格同様、本質だけ抽出した演出はジェスチャーだけでなく衣装をも駆使している。特にゾンビのごとく研ぎ澄まされた長い爪をたずさえた貴族たちの様相。それは彼らのある種残酷で、飾り立てた存在を体現している。視覚的な比喩手法で、古典時代のできごとを現代的に仕立て上げた華麗な作品だ。

Tue.9.10 - Thr.10.10.2002 Tue.-Fri.8:00pm Sat.3:00pm/8:00pm

「デュマの息吹き(原作)、サルトルの天分(脚本)、デュボワの血気(演出)」が集結した話題作。その題材は19世紀、イギリスで一世を風靡したシェイクスピア俳優キーン。サロン隆盛の当時、特権階級のお墨付きを頂戴していた彼は、その一方的な賛辞の中で閉塞感を抱くようになる。そしてそこから抜け出そうと、反逆者ぶりを発揮し始める。あくまで別階級に安住する貴族たちが、役者を玩具のように扱っていた時代が浮き彫りになる。TNMでは、今シーズンから各上演作品の監督を迎えてのトークを観客向けに公開。

<演目>Kean<劇場>Theatre du Nouveau Monde (84 St-Catherine West x St-Urbain, metro Place des Art)<原作>ALEXANDRE DUMAS<シナリオ>JEAN-PAUL SARTRE <演出>RENE-DANIEL DUBOIS<料金>$18-$39 <写真>(c) Yves Renaud

Tue.9.24 - Sat.10.19.2002 8:00pm

モントリオールのOmunibusを始めメキシコ、パリからのマイム劇団が寄り集まって繰り広げる、マイムフェスティバル。それぞれの創作を公演した後、共同制作を披露。「マイム=マルセル・マルソー」という公式が浮かぶという方は、ぜひ、この小フェスティバルに足を運び、見直してみて欲しい。あくまでマイムというテクニックを使った、親しみやすい現代演劇作品だ。

<シリーズ枠内無料イベント>Mon.10.7 8:00pmの有料ショー後:マイムテクニックデモンストレーション (Espace Libre)Tue.10.15 6:00-7:30pm: マイムパフォーマンス、加仏メキシコ共同制作"Latitudes croisees"紹介 (Espace Libre)Mon.10.7 12:00pm: D-E-S-T-I-N-A-T-I-O-N (Place des Arts裏広場)"DESTINATION"各文字を背中にまとった11人による幻想的なパフォーマンス

<演目>シリーズLes voies du mime: Interieurs femme, Galeria de Moribundos他<劇場>Espace Libre (1945, Fullum x Ontario ; metro Frontenac)<劇団>Omunibus, Teatro Linea de Sombra(メキシコ), Theatre du Mouvement(フランス)<料金>$20(学生・シニア$15)<写真>作品"Latitudes croisees"より

Tue.9.17 - Sat.10.12.2002 Tue.-Sat.8:00pm Sun.3:00pm/8:00pm

劇場に入ったとたん、観客は水の世界に迷い込む。客席を二手に分けるステージ空間全体が、海岸に打ち上げられた海賊船のように仕立て上げられているのだ。実際、客席から見下ろす舞台は水で覆われている。そう、この物語は人間の体を「まとった」人魚Mlle Eileenと保険外交員Clarenceの出会いから始まる。100余年生きてきたEileenは幾度となく、いつか衰え「死」の訪れる肉体を交換してきた。「今回の体はなじまない」などという発言も彼女ならでは。人間の心と体の関係とは?そんな普遍的なテーマを潜めながらも、ニューオーリンズ生まれのこの作品のこと、あくまでポップなノリで舞台は展開していく。各登場人物の個性に加え、当fmcサイトPEOPLEシリーズでも紹介した西川園代による照明のパフォーマンス性や、ライブ音楽、装置、衣装等、見所満載。

<演目>Mademoiselle Eileen Fontenot pour les dix sous de liberte<劇場>Theatre d'Aujourd'hui (3900 St-Denis x Roy, metro Sherbrooke)<原作>ERIK CHARPENTIER<演出>LORENT WANSON<演出>JEAN-FREDERIC MESSIER<料金>$25(学生・シニア$20)<写真>Yves Renaud

Wed.10.2 - Sun.10.20.2002 7:30pm

ちょっぴりドジな妖精とケチなねずみが繰り広げるファンタジー。脚本、演出、装置そして音楽、どれをとっても力量に不足のない創作家たちが寄り集まった。2001年のChalmers賞受賞を始め、30年の歴史をもつ劇団Theatre de l'OEil。児童向け3D作品"La Force du Soleil"は海外でImax劇場や博覧会で紹介されてきた。劇場la Maison Theatreでは、シーズンを通して人形劇を始め、演劇、ダンス、音楽など子供の情緒を育む作品を取り揃えている。

<演目>La Felicite(5〜10才児対象人形劇)<劇場>la Maison Theatre(245 Ontario Est x St-Denis, metro St-Laurent)<脚本>SIMON BOUDREAULT<演出>ANDRE LALIBERTE<劇団>Theatre de l'OEil<料金>$17(子供$13
<観劇後感>

観 劇 日:Thu.9.19.2002
演   目:Le Shaga et Yes, peut-etre
演   出:DENIS LAVALOU
場   所:ESTELLE CLARETON, MARIE-JOSEE GAUTHIER, DENIS LAVALOU
劇   場:Theatre la Chapelle
劇   団:Theatre Complice

「ユミ、スドゥリナー。サガ」
ある朝を境に、彼女は "Shaga"語しかしゃべらなくなった。昨日までは仏語で会話していたのに。そんな彼女は無垢な態度でインテリ男と話し好きで高貴なマダムとの交流を今日も続ける。ここは、とある浜辺。3人は海辺のシャワー室大のおりのような箱の中に住んでいる。箱といっても「すのこ」状の木製で、風通しは随分よさそうだ。そこから出てきては他2人と対話し、またひっこむ彼女。

マルグリット・デュラスの稀な演劇作品。空想的で風刺的。そして何よりもことばに対する分析眼の鋭さが魅力。ある時、インテリが「鳥の夢を見ましたよ、それがしゃべる鳥(un oiseau qui parlait)でね…」とマダム相手にきりだす。

マダム「ああ、おしゃべり鳥ね(un oiseau parleur)

インテリ「いや、しゃべる鳥(un oiseau qui parlait)

マダム「おしゃべり鳥(un oiseau parleur)

インテリ「いや、しゃべる鳥(un oiseau qui parlait)

マダム「おしゃべり鳥(un oiseau parleur)

 さんざんこの掛け合いを続けた挙句、インテリがスルッと「おしゃべり鳥(un oiseau parleur)」と言って(=堪忍して)、話は何ごともなかったように進む。この調子で、デュラスは言葉のリピートややりとりを形式化する。同じことばをスピードやトーンを変えて連呼することば遊び。そんな実験では、ことばを道具として扱う。どんな舞台装置よりも、どんな衣装よりも、本質的な効果を担うことの可能な「ことば」という道具の存在感を思い起こさせてくれた。

 フランス5月革命直前の混沌の中から生まれた"Le Shaga""Yes, peut-etre"の2作。デュラス自身による演出でパリにて68年初演。「風通しのよい木のおりに住んで」自分のスタンスを保つ一方で、固定観念を抱きがちな個人主義者たちを風刺している。

 演劇色の濃いコンテンポラリーダンス作品でおなじみの振付家ESTELLE CLARETON、彼女の元演劇の先生でもあり、創作において密接な協力関係にあるMARIE-JOSEE GAUTHIERCLARETONからにじみ出る純粋さ、くせの強い役を複数演じきる役者GAUTHIERと監督でもあるDENIS LAVALOU、3人の息のあった作品。

表紙写真:Theatre du Mouvement "le Chant perdu des Petits riens"

取材・文:広戸優子
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