夏の夜、野外で観る喜劇はなんとも爽快。例えば、Theatre du Nouveau Monde の若い役者たちによるモリエール作品。劇場を飛び出して、一面につたのからまる壁を背景として観る。屋根もなければ扉もないので、開演30分が過ぎてもまだ客を受け入れることができる。そして数々のハプニング。上演中に観客席の子供の持っていた風船が割れ、驚く主役。思わず、「主役、とられちゃったよ」と頭をかく。また、通りにパトカーのサイレンが響くと、台詞を止めて通り過ぎるのをひたすら待つ。少しばかりリズムにのって体を揺らしつつ。そんな即興シーンを誰よりも楽しんでいたのは役者たちだろう。

この仮設劇場、演技の展開する中央スペースは砂地で、それを観客がコの字で囲む。出番を待つ数分間、役者が観客に混ざって座り込んでみたりもする。探し人をしつつ、観客たちに「どっちに行った?」と聞くこともある。観客を物語に巻き込む効果は抜群。かくいう私も「即席医者」に突然ひざ下を軽く叩かれ、「うーん、反応がいまひとつ遅いなァ」とかっけの検査をされたのだった。

脚本はモリエールの「いやいやながら医者にされ」がベース。ドラッグストアJean Coutuの名前を出すなど、地元らしいユーモアを盛り込んでいた。後述のサーカス劇も含め、この夏、大衆が幅広く楽しめる公演スタイルを再認識した気がする。観終わった後に、「楽しかったわよぉ!」と演技者の肩をポンッと叩きたくなるような、そんな親しみ深い作品たち。後にこのイベントの政府援助金が凍結されたというニュースを知ったが、パーク・ラ・フォンテーヌ恒例のシェークスピア公演に加えて、モリエール喜劇を家族で楽しめるこの野外公演Moliere en plein air、ぜひ続けていって欲しい。
■Tue.8.13 - Sat.8.24.2002 8:00pm

1888年から89年、トリノ。やきもち焼きが高じ、妻に愛人がいると激しく思い込むErvart。妄想の果て、何者かの策略かとまで考え、言動がおかしくなる始末。同じ頃、あるたくらみをもっていた哲学者ニーチェ。さらに動物偏愛するスパイ、引用好きな精神分析家、貪欲な役者、無責任な妻、「スペイン雌馬Failldola」…個性的な面々が絡み合うブラックユーモア。梅毒にかかっていたというニーチェに当作品の発想を得た作家HERVE BLUTSCH。彼と監督MICHEL BERUBEは2年の間交信を続け、ともにイオネスコを彷彿とさせるこの作品を育んできた。BLUTSCHが登場人物の肉付けに関するアイディアを寄せ、BERUBEが舞台上で動かす。そんな共同制作でできあがった作品。BERUBEは新しい才能の発覚と、注目されている役者・監督だ。

<演目>Ervart ou les derniers jours de Frederic Nietzsche<劇場>Usine C (1345 Avenue Lalonde x Vigitation, Metro Beaudry)<演出>MICHEL BERUBE<脚本>HERVE BLUTSCH<劇団>la Compagnie a NumerO<料金>$24、学生・シニア$20

■Tue.8.6 - Sat.8.31.2002

テラスを開放して演劇公演。「お天気悲劇」と言われるこの作品の由縁は?

<演目>Jocelyne est en depression<劇場>Theatre d'Aujourd'hui (3900 Saint-Denis x Roy, Metro Sherbrooke)<演出>OLIVIER CHOINIERE<劇団>ARGGL (Action repetitive grandement grandement liberatrice)
<観劇後感>

観 劇 日:Wed.7.17.2002
場   所:Ecole nationale de cirque
写   真:CHRISTIAN TREMBLAY
劇   団:Les 7 doigts de la main (SHANA CARROLL, ISABELLE CHASSE, PATRICK LEONARD, FAON SHANE, GYPSY SNYDER, SEBASTIEN SOLDEVILA, SAMUEL TETREAULT)

 屋内でパフォーマンスをする人の多くが、いつかこんなミニサーカスを実現したいと思ってきたのではないだろうか。さらに新しい「ヌーボー・シルク」創作カンパニーとして先陣をきったLes 7 doigts de la main。

 冷蔵庫の扉が上演スペースへの入り口。そこから入ると、Les 7 doigts(7本の指)たちのロフトが目の前に広がる。ほぼ満杯の観客席でコーヒーを配って歩く人がいる。何かおもしろいものが始まるという予感が、舞台と客席との境目がほぼ見えないこの空間にあふれている。公演が始まった。ロフトの片隅、ソファで新聞を読んでいる青年がいる。カウンター式キッチンあり、食卓あり、テレビにサロン、浴槽ありのよくあるロフトだが、ひとつ違うのは、高い天井からブランコや籠椅子がぶら下がっていることだ。そう、これから繰り広げられるのはサーカス。でも、住人たち男女7人の服装は下着だったり、裸だったり。生活をかけあわした、顔の見えるサーカスだ。

 身軽なPATRICK は縄ばしごを使ってあっという間に吊り籠椅子に落ち着く。それぞれがそれぞれのくつろぎ場所を確保しているあたり、生活感がある。群舞を織り込みつつ、一人一人が得意技を活かした芸を披露する。まずはクラウン的存在のPATRICK。3段ある階段の一部の形をしたクッションに体当たりしたり、逆立ち状態で上ったりする。それを見てはしゃぐ子供の声が、一層観客と演技者の距離を縮める。大柄な GYPSY は発声がよく、歌やしゃべりで笑いをとる。赤い垂れ幕を使って美しい宙吊り演技を見せたISABELLE の体の柔らかさは一級。対照的にがっしりした SEBASTIENがPATRICKとコンビでディアボロを見せる。ブルース調の唄を聴かせるSHANA はニコニコしながらの空中ブランコ。命づななしで天井からぶら下がった極太のチェーンに足をからめて演技するFAON。そしてラストは貴公子然とした SAMUELの腕バランス。足の長い丸椅子を使った、長時間にわたる見せ場だ。

 こうしたソロを見終わったころには、一人一人の特徴がしっかり頭に入り、彼らをごく身近に感じるようになっている。観客同士に加えて演技者たちとの一体感。笑わせて、技芸に驚嘆させるだけではなく、等身大の姿で観客に語りかけるサーカス。それはシルク・デュ・ソレイユとは一味違った感動を生み出す。そうじゃなくても、ステージもない300席程度のスペースでのこと、空中ブランコは観客の頭上をかすめるかというほど近くを通ったりする。そのスリルは格別。

 この作品の見事さの一つに、活きのいい現代アートの寄せ集めが挙げられる。カウンターキッチンの上部にやぐらが組まれ、最上部にDJがいる。舞台をほぼ天井近くから見下ろすかたちで、タンゴ、ブルース、テクノ、時にはラップ的な生声とマイク使いでライブ音を創りだす。また、ビデオのシンプルさは特筆すべき。ことに、ソロ演技で独自の詩を朗読するSAMUELの体の動きと画面上の彼の動きがオーバーラップする瞬間。次元感覚があいまいになった。ふと、目の前の彼は上半身裸で、スクリーン上の彼が白いシャツをはおっていることに気づき、ハッとする。「僕の場合は、詳細なストーリーボードを描いてから映像に手をつける手法をとっているんだ」とはビデオ制作したOLIVIER TETREAULTの談。その綿密さが「純粋な」トリックを生み、あのシンプルさに導くのだろう。

 さわやかさが目立つLes 7 doigts de la mainだが、彼らには確かな基礎と芸歴がある。SAMUELの場合、北米唯一のサーカス学校Ecole nationale de cirqueで約10年、さまざまな芸を学んだ。シルク・デュ・ソレイユでの演技等で日本滞在したこともある。シルク・エロワーズでも3年間演技した。「2年前から、独自のカンパニーを設立したいな、なんて皆で言っていたのが、この3か月で急きょ実現したんだ。シルク・デュ・ソレイユでは決められた振付や演出に従い、マスクをかぶった演技が必要とされていたからね。…Les 7 doigtsのもつ構想には限りがないね。なんたって7人がアイディアを持ち寄るから」とSAMUEL。自ら創作することでより革新的なスタイルをもつサーカスに挑戦する。彼に限らず他6人それぞれが、20年近く得意技を磨いてきた。そして皆、シルク・デュ・ソレイユはもちろん、ヨーロッパ、アメリカ等のカンパニーに加わって経験を彩ってきた。また、パリ、ベルギー、中国等で開催される競技会に参加、受賞もしている。

 大衆に愛されるサーカス。その演技者たちがどこか人間離れした対象に思えるときがある。彼らはそんな印象を払拭する。ヒューマンさをますます前面に出し、この演劇とも、コンテンポラリーダンスとも、サーカスとも言える新しい波を興しつつある。初の創作ということで、もちろんまだまだ構成等に改善余地はあるけれど、7人が寄り集まってできあがった想像力の産物は予想以上に巨大だった。来年春にかけての外国ツアーを計画中。もちろん日本もその訪問候補国の中に入っている。

表紙写真: Les 7 doigts de la main (CHRISTIAN TREMBLAY)

取材・文:広戸優子
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