演劇色の強い作品というのはコンテンポラリーダンス枠にも見られる。が、やはり本家本元は違う。演劇作品はなんといっても政治色が強い。今なお見られる反「体制」的なもの、あるいは安保闘争時代のエネルギーを回顧するものなどはいかにも演劇の世界だ。先月のTheatres du monde枠内のFRANK CASTORF監督による ”Endstation America” は、まさにそんな匂いのする作品だった。理想を負うがゆえに味わう喪失感からはどの時代の人間も逃れられないものか。ところで「政治的」という表現にはもうひとつの意味がある。それは議論をかもし出すということ。議論とまでいかなくとも、考えさせられるテーマを突きつけてくる。だいたい、演劇とコンテンポラリーダンスがコラボレーションすることでその差がせばまってきているなど、妄想に過ぎなかった。決定的に違う。観劇後に何が残るか、それだけでも随分違う。ダンスにおいては感性の反応する部分が多い。一方の演劇ではことばがことばを触発する。どちらも人間や社会などを反映する虚構の世界ではあるが、アプローチの仕方が異なる。そんな違いがますますおもしろくなってきた。

 さて、年間を通して大小フェスティバルが散りばめられている街モントリオール。夏本番に向け、まずは恒例フリンジフェスティバルをお楽しみください。ほぼすべての劇場が6月から8月末までシーズンオフに入る。その間に、モントリオールに点在する約30を数える劇場の個性に目を向けよう。48年設立のTheatre Rideau Vertが現存する最老舗。古さという点ではTheatre de Quat'SousとTheatre du Nouveau Mondeがそれに続く。ひたすらエキセントリックなTheatre de Quat'Sous、正統派に見えて時代性にも敏感なTheatre du Nouveau Mondeの2劇場を紹介したい。
■Thr.6.13 - Sun.6.23.2002

今年もフリンジフェスティバルの季節がやってきた!インディペンデント系演劇・ダンス作品を一挙公開。プラトー地区10余のスペースにて、40近くのカンパニーにより繰り広げられる。地元からはもちろん、海外から参加するパフォーマーも多数。ダンス部門には日本からの常連 SHAKTI、長内真理が登場。 SHAKTI(写真右)はオスカー・ワイルドの戯曲 ”Salome” を題材とした作品を公演。

<イベント>Montreal Fringe Festival<劇場>プラトー地区複数<詳細>オフィシャルサイト・無料プログラム参照
Theatre de Quat'Sous(160席)

赤く塗られた壁が前衛的な劇場。猫の額ほどのロビーに入るとすぐ右手に係員一人入って満杯の感のあるクローク。目前の、二人並べば少々窮屈な階段を上りきると、すぐそこに扉があり切符を切ってくれる。劇場に入る。むき出しの壁に、ところどころ錆びたトタンをつぎはぎした天井。舞台、一階観客席、バルコニー席の3部分の天井が山型をしている。3つの家を組み合わせて作られた劇場なのだ。すべてのパーツがミニチュア化されているものの、それぞれの機能を十分に果たしている劇場。内装からして政治的なエネルギーに満ちている。ここで上演される作品がこの劇場の雰囲気に呑み込まれるか、はたまた呑み込むか、そんな駆け引きも見ものだろう。1955年に設立された劇団Quat’Sous は10年後の1965年にこの劇場を本拠地とするようになる。この劇場にしてこの芸術監督あり、と納得させられるのがWAJDI MOUAWADの存在。2000年より当劇場の芸術監督を務めている。プログラム編成に限らず、脚本、演出、コンセプト等を通し、数々の上演作品に関与している。今、この人の名前は地元舞台芸術界で最も頻繁に聞かれる名前ではないかと思う。近年のダンス界へのコラボレーションも目立っており、コンテンポラリーダンス作品をも当劇場に毎年招聘するなど、行動派だ。

<芸術監督>WAJDI MOUAWAD<場所>100 des Pins Est (x Coloniale, metro Sherbrooke)<詳細>オフィシャルサイト

Theatre du Nouveau Monde(845席)

TNMの半世紀に及ぶ歴史は、モントリオール文化の歩みをも物語っている。51年、劇団設立。当初は本拠地もなく、第一回公演は現存する劇場Le Gesuを借りてのモリエールの代表作 “l’Avare “(守銭奴)。砂漠状態だったケベックアートシーンでのこと、60年におけるケベックの静かな改革を前にして文化的な目覚めをうながすできごとだった。劇団初代の芸術監督であるJEAN GASCONは66年に15年関わったTNMを去る。自己文化、古い議論、古いテーマに固執する政府の姿勢への批判も込められた辞職であり、その後英語系の劇団に協力するようになる。72年には現在の建物をTNMが劇団として獲得。84年から85年には劇団経営状態が悪化し、公演休止を余儀なくされる。その後も「演劇は生活と政治の中にある」という精神を掲げ、LORRAINE PINTAL, RENE RICHARD CYR, ROBERT LEPAGEら当時の若手監督に門戸を開いてきた。97年に来芸術監督として迎えられたLORRAINE PINTAL曰く、「演劇は闘争を導くため、そして困難を乗り越えるためのものである」。また、「当劇場はより難しい観客を呼び寄せることを目標としている。それは演劇界の専門家であり、文化的シーンになじみの少ない大衆でもある。大衆文化はTNMが念頭に置く重要な理念の一つだ」ともいう。9月からの来シーズンにはアレクサンドル・デュマ、ポール・クローデル、シェイクスピアといった世界的に有名な作家たちの作品が目を引くが、例えば先シーズンの最後を飾ったのは地元の権威とも呼べる作家MICHEL TREMBLAYによる作品だった。ジュアル(joual)と呼ばれるケベック俗語でつづられ、モントリオール街角の物乞いやミュージシャンなどを題材とした話は地元民の絶大な人気を誇る。モントリオールで一番スタンダードともいえるこのTNMでさえもMICHEL TREMBLAYが演じられるということは、特筆すべきだ。

<芸術監督>LORRAINE PINTAL<場所>84 St-Catherine West (x St-Urbain, metro Place des Art)<詳細>オフィシャルサイト
<観劇後感>

観 劇 日:Fri.5.10.2002
劇   団:Societas Raffaello Sanzio(イタリア)
演   目:Genesi From the museum of sleep
劇   場:Theatre Denise-Pelletier

 前衛的パフォーマンスの集大成。シュールレアリズムがたどり着くところまで行って、まざまざと人間の本質を見せつけてくれるに至る。何か内臓を棒で突っつくような生々しさを古典的な空気で緩和し、それが幻想、果ては天国の様相さえ帯びるようになる。…狂気なまでの感情。それは欲望であったり、羨望であったり。それを目覚めさせてくれるのがこの作品だ。大劇場のステージでここまで実験的な作品を発表するものか、と驚いた。と同時に、これまで密室的スペースで観てきた前衛パフォーマンスを大舞台で観る醍醐味を味わうことができた。

 さて、「創世記」をテーマとしたこの作品は3幕に分かれており、それぞれに黒、白、赤というテーマカラーが設定されている。聖書に書かれた内容をビジュアル化するだけで、それはひとつの壮大なるドラマになることは間違いない。ところが、ROMEO CASTELLUCCIのシナリオはそんな正統なものではなかった。

 第1幕「はじまりに」における「天地創造」はマリー・キュリーの研究室で起こる。ラジウム発見に天地創造を結びつけた。冒頭は暗闇の舞台を大地の怒涛のようなものものしい音が包んでおり、ビッグバンを思わせるものがあった。服装などでベル・エポックの雰囲気を具体的に表すかたわら、下手奥で不定期に回転するベッドや天上からぶらさがる2本の導線、火や水を使ってのオーガニックな演出。アダムとイブらしき人類たちも登場。ラストは背の2メートル近くある痩身の悪魔が暗示をかける。

 第2幕は子供たちが主役。「アウシュビッツ」と名付けられている。うさぎの身ぐるみ姿の子供たちがかかとの上げ下げなど意味のない同じ動きを繰り返す。そこへ真っ白な燕尾服を着た山高帽の少年がおもちゃの列車に乗って登場。左手を水平に掲げ、ある方向を指し示す姿に独裁的な匂いがする。案の定、彼の上着の背中左上部分に黄色いダビデの星が光る。そして彼の指示どおり、舞台の一角で一人の首が裂かれる。ROMEO CASTELLUCCI曰く、アウシュビッツで行われた子供を使っての人体実験を題材としたものだ。白をまとった天使のように見える子供たちを使うあたり、それをやられたらグウの音も出ないといったところ。

 そして第3幕。こちらは聖書らしい「アベルとカイン」というタイトル。カインがアベルを絞首するシーンには赤ん坊がしゃっくりしているような声がバックに流れる。1、2幕の抽象的な音声とはうってかわり、3幕ではバロック風の音楽が使われる。舞台に2匹の犬が放されていて、何か匂いがするのだろう、床を嗅いだりしながら始終のんびりと歩き回っていた。その存在は愛や憎悪に右往左往する人間の横に並べられてなおさら、無垢さを象徴するものだった。

 いったい、ROMEO CASTELLUCCIはこれらの刹那的表象に行き着くまで、どれだけの文献を繰り、思考を重ね、空想にふけったことだろう。イメージが浮かぶにまかせ、日々のセンセーションを書き留めると彼は言うが、単にインスピレーションに支えられた創作ではない。裏づけとなる教養・研究があるからこそ説得力がある。この大作には多くの要素が盛り込まれており、その奥深さにはまり込むような感を憶える。それに加え、素材への執着。「素材の巡礼者」と自ら呼ぶほどに造形アーティストとしてのこだわりは大きい。劇団設立以来、約20年が経つ。政治的理由のためイタリアでの作品発表には障害がいまだあるという。そんな彼らの作品はロシア、ドイツ、フランス、アメリカにて日の目を見ている。本質をえぐる現実感をもちながら高貴な美がそれを覆う彼の作品を観る悦びをまた味わいたいものだ。

取材・文:広戸優子
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