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La rose des Sables(チュニジア料理)
メシュイアはまろやかで、最高にクセになる。
(2019/12/15)
レストラン
レストラン外観
メシュイア。このレストランでは、ツナを加えているのでその下にトロリと潜むパプリカの焼きサラダが見えない。ちなみに、チュニジアの缶ツナはなかなか。かなりマグロの味と身が確認できる良いものだと思う。
チュニジアンタジンと言っても、蒸し鍋のタジンではなく、チュニジアのキッシュ。濃厚で味のまとまりがある。
羊肉のタジン。チュニジアの人は羊肉が好き。力強い味。
チュニジアのオリーブオイルは、フィルタリングをしていないのか、個性的でワイルドな味のものが多い。
チュニジアを歩いていると出会う典型的な風景に、道や軒先きに商品を広げているお皿屋さんがある。カラフルさについつい買いたくなる。
パリのビストロのようなこじんまりとしたレストラン。
隣のテーブルのお客さんと肩が触れ合うような生き生きした雰囲気。
 日本史が苦手という理由で、大学受験で世界史を選択した。それほど得意な科目でもなかったので、便宜上覚えただけの情報はすっかり消え去ったが、瓶にこびりついた古いステッカーのごとくいつまでも忘れない情報のカケラがある。「カルタゴ陥落 紀元前146年」。繁栄を極めていた海洋国家のカルタゴの街は、ローマ軍との第3次ポエニ戦争で陥落した。二度と復活させまいと街を徹底的に破壊し、火を放ち、塩をまいたという話とセットで覚えていた。ただ、そのカルタゴが、今のどの国に位置しているのか考えたこともなかった。

 それが、友人の口から聞いた「カルテージ」とか「カルタージュ」という街の名前に興味を惹かれ、Wikiを調べてみると、なんとcarthage=Carthāgō(ラテン語)だと気づいた。「BC146年、カルタゴ陥落」のカルタゴか!「プラトー」が哲学者「プラトン」、「ソクラット」がソクラテスのことだと気付いた時の目からウロコの感覚に近く、忘れ去った記憶の糸を紡ぐような感動があった。そんなこんなでチュニジアを訪れることになり、それ以来チュニジア料理や文化には少々贔屓目ではある。今日は、このページの10月号で「近々報告」と予告した通り、行きそこなったチュニジア料理のレストランLa rose des Sablesのについて紹介する。

 まずは予約なしで行ったら、いっぱいで入れなかったので、翌週の週末の夜に予約を取って出直した。テーブルに置かれたメニューにお目当のチュニジア料理を探すが、見当たらない。

 どうやら、この季節だけのコースメニューのようだ。メディアの名前を冠したメニューで、タイアップ企画なのか、コンクールにでも参加しているのか、とにかくイチ押ししているコースであることはわかる。ただ、私が食べたいと思っているものがない。目のつかないところに山積みになっているアラカルトのメニューを持ってきてもらう。隣のテーブルの年配の夫婦も、ハッとした様子で「アラカルトメニューがあるなら見せてよ」と便乗してきた。

 メルゲースやクスクスはチュニジア料理店で食べなくてもいい。モロッコ料理やアルジェリア料理でも食べられるし、自分でささっと作ることすらできる。私がはずせないのは「メシュイア」という野菜料理やチュニジア独自の煮込み料理だ。地味な前菜的な食べ物だけれど、チュニジアのお母さんや地元のレストランで作るメシュイアはまろやかで、最高にクセになる。

アラカルトから頼んだのは以下の通り。
前菜:
■Salade Mechouia(メシュイア・サラダ)$7.99
■Tajine tunisien(チュニジアン・タジン:チュニジアのキッシュ)$7.99
メイン:
■Tajine s l’agneau(羊肉のタジン)$23.99

 メシュイアは野菜料理なので、サラダに分類されることが多いが、パプリカやピーマンを炭火で焼いて、トロトロになるまで切り刻む前菜料理だ。伝統的な段取りがあり(そのせいで美味しくなるような気がするが)、グリルした後、熱いうちに焦げと一緒に皮や芯を取り、両手に大きなナイフを持って右手と左手を交差させ、自分の方に腕を引くように動かし、また手をクロスさせた位置から同じ動きを素早く繰り返して野菜を切り刻んでいく。まんべんなく細かくなったら、オリーブオイルとハリッサなどを中心に混ぜこみ、味を整える。時間をかけて用意されたメシュイアは、それだけでパンとワインが延々とすすむ。Le Rose des Sablesのメシュイアには、ツナが入れ込んであり、がっつり心を掴んでくるボリュームと滑らかさがある。私が知っているメシュイアとは少し違ったが、バゲットを追加してお皿を拭いたほど悪くない。

 チュニジア風タジンは、とんがり帽子のポットで蒸されてくるタジンではなく、キッシュのような卵料理だ。いろんな食材が融合して完成度の高い味。これも、私がチュニジアで食べたものとはかなり違ったが、各家庭で入れる物も作り方も変わると聞いていたので、驚きの違いを楽しんだ。

 そしてメインの羊肉のタジンは、野蛮さという縦糸と繊細さの横糸が長い歴史の中で織り交ぜられて出来上がったチュニジアの織物のような印象。それってどんな味?と聞かれると困るが、チュニジアの人々が好きな味だな〜という味だ。肉食中心の人は満足するのではないかと思う。

 チュニジア料理は、イタリアとはまた違ったやり方でオリーブやオリーブオイルを美味しいと思わせる種の料理だと思う。この店の食事はその印象を後押しする。さらに、嬉しいのはワインの持ち込みができる!12月の集まりの季節、ちょっといい雰囲気のLe Rose des Sablesにワインを持ち寄れば、普段は口にしないような領域の話に花が咲くかも!

La rose des Sables(チュニジア料理)
1815 Rue Beaubien E
最寄り駅:Beaubien


取材・文:稲吉京子