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Parisa(ペルシャ料理)
地元に愛される食堂。
(2017/7/15)
レストラン
イランの野菜スープAsh e Reshteh。豆と6種類のハーブのスープにパスタが少し入っている。ハーブたっぷりのとろみのあるベジタリアンスープで美味しい。
今日の前菜はBorani Esfanaj:ほうれん草とニンニクのヨーグルトディップ。ニンニクの匂いはほとんど感じないほどスッキリした味。ピタに包んで頬張りながらのおしゃべりは楽しい。ワイン持ち込みOKのお店なので、ナスのディップなどを別に頼んでワインを開けるのもいい。
Jujeh:マリネしたチキンの串焼き、サフラン+バーベリーライス、グリーンサラダ、グリルしたトマト(真っ黒!)のメイン。バーベリーで炊いた赤いライスやサフランライスの彩りが楽しい。焼きトマトが結構良いソースになってくれて、チキンとライスをジューシーにまとめてくれる。焼きトマトを追加したいところ。
カルダモンの香りのお茶。お腹もスッキリする。
ひっそりと佇む店。地元に愛される食堂のよう。
ほとんどのグループ客はワインを持ってやってきていた。
 マネージメントの職を得て、バンクーバーに居を移したイラン人の友人アツサが戻ってきた。バンクーバーを尋ねるよう、彼女に何度も誘われていたのに、ちっとも出向かない私に業を煮やした形で飛んできてくれた。待ち侘びた夏、プールで水に浸かりながらカクテルで乾杯しようと誘うと、女性用のプールかと聞かた。そもそもモントリオールに男女別々のプールがあるんだろうか。男の人たちと一緒にプールに入るなんてあり得ないから、とにかく無理というのが彼女の言い分。女性が自転車を乗る姿は、男性の性欲を刺激するので控えましょうというお国柄の彼女には、確かにプールは無理だったかーと思い出す。その代わり、アツサにはペルシャ料理の店に誘われた。以前イラン人同士で何度か行ったことがあり、イランの食卓には欠かせないシチューや串焼きものが手頃な値段で食べられるらしい。

 De l'Égliseの駅から、おしゃべりしながらぷらぷら歩いて行く。数年前に比べ、モダンなお店や飲食店が増え、随分華やかになったとアツサは驚く。そんな通りとはちょっと離れたところに、昔のまんまでやってますという佇まいでParisaはある。飾り気はほとんどなく、カジュアル夕食といった雰囲気のビーチサンダルの5人家族がすでに食事をしていた。いつもの癖でア・ラ・カルトメニューを見ていると、アツサはコースにしましょうという。コースの構成は、(1)Ash e Reshtehというペルシャの伝統的なスープ、(2)日替わりの前菜、(3)6種類の中から選択するメイン、(4)カルダモンティー。メインは選ぶものによって$28〜$35の間で価格が変わってくる。プラス$5でデザートつきにもできる。

 アツサはビーフの脇腹肉の串焼き($33)に決めそうな感じだ。テーブルに来たウェイターに、私はラムのスネ肉と野菜のトロトロ煮込みシチュー($34)と告げる。と、「では私もそれにするわ」とアツサ。同席者となるべく同じものは頼まない習慣のある私は、とっさに「私、やっぱりマリネチキンの串焼き($28)にするわ」とオーダーを翻す。と、「では私もそれにするわ」とアツサ。そこでやっと共感を大切にする文化なのかと理解し、別々のものを頼む野望は捨て、二人とも同じものを食べることにした。

 最初の伝統スープというのは、3種類の豆と6種類のハーブのとろみのある深緑色のスープで、あまり食べたことのない味わい。ミント、パセリ、リーク、コリアンダー、青ネギ、タイムといった6種のハーブがたっぷり入っていて美味しい。今日の前菜は、Borani Esfanajというほうれん草とニンニクのヨーグルトディップ。温めたピタパン付き。暑い夏にはぴったりの涼しげなディップでしつこくない。さらっと食べてしまった。

 さて、メインはJujehと呼ばれるマリネしたチキンの串焼き。それに、サフランとバーベリーで炊いたバスマティライス、グリーンサラダ、グリルしたトマトが付いてきた。綺麗な黄色のサフランライスと、バーベリーで炊いた真っ赤なライス、その上にバーベリーの実も散らしてあり、彩りが楽しい。バーベリー(イラン名ゼレシュク)というのは、メギ科の落葉低木になる赤みのある実。鶏肉や白身魚に合わせて使われ、甘みと酸味が楽しめるイラン料理には欠かせない調味料。真夏の食欲がない時など、ご飯の上に炒めたバーベリーをまぶして食べることもあるという。

 鶏肉は焼き加減もマリネ加減もよかったが、あまりペルシャ料理という感じはせず、ライスもさっぱりとしていた。焦げ目のついたトマトと合わせて食べるとジューシーになって美味しい。もっと焼きトマトがあってもよかったぐらいだ。辺りを見回すと、チキンの串焼きが結構な頻度で運ばれて行くので、万人が食べられる安全メニュー的な存在になっているのかもしれない。アツサが言うには、イランではこういう食べ方ではなく、前菜、シチューや串焼きを始め、蒸し料理や焼き料理などが何皿も出るのが普通らしいが、カナダ人の要望に合わせていくと、一皿に肉と付け合わせが盛られる味気ないプレート食になっていくと言うことだった。

 最後に、カルダモンの香り高いお茶で締めくくる。彼女がまだモントリオールにいた頃、彼女が淹れてくれるお茶が美味しくて何度もアパートに通った。イランのお菓子や、貴重な本物のサフラン、愛らしいローズペタルなどを大事そうに戸棚から出してくる愛らしい姿が思い出される。今や、バンクーバーの企業で何十人もの部下を持ちバリバリ仕事をこなすカナダ人女性になったなと眩しい眼差しを向けると、実は実家のあるテヘランに帰ることにしたのだという。一旦イランに帰国すると、女性一人で国外に気軽に出るということが難しくなるため、今回は最後に私に会っておこうという意図の訪問だったようだ。普段から「じゃあまたね」の挨拶もそこそこに突然電話を切る彼女は、イヤなことはイヤ、アホなことはアホ、間違っていることは間違っているとその場ではっきり言える女性だ。今夜は、そんな彼女を飲み込んでしまう文化全体まで一緒に味わったような気がした。

Parisa(ペルシャ料理)
4123 rue de Verdun
最寄り駅:De l'Église, Verdun


取材・文:稲吉京子