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Sai Gwan(広東料理)
よく知っている「チャイニーズフード」とはちょっと違う。
(2019/2/15)
レストラン
エビの蒸し餃子を頼んだら、間違って出てきた焼売$6.99。
小籠包$6.99。親しみのある味。この時期にはぴったりのおやつ。
自家製の幅広い玉子麺、エシャロットとピーナッツソースのベジタリアンメニュー$6.99。
ビーフの細い玉子麺$7.99。独特の香りと味。深いというか、何を入れているんだろうと思わす。
空心菜の炒め物$10.99。味が濃いので、3〜4人ぐらいで食べるのがちょうどいいかも。
Hot pot rice - チャイニーズソーセージ$10.99。このチャイニーズソーセージも独特。釜飯+ビビンバっぽい食べ方。
Hot pot riceにほとんど野菜が入ってなくて、直球でずっしりくる味だったので、空心菜の残り物を混ぜたら少々和風に。
店の作りや雰囲気には期待しちゃいけないよ、と友人は言っていたけれどその通り。チャイニーズランチが好きな人には一人でも入りやすいし、ひっそりと静かな感じでおすすめ。
 もう2年になるだろうか。食べ歩きが好きなイタリア人から聞いていた広東料理のレストランがある。自家製の玉子麺がうりで、麺の種類が豊富で、みないな話だった。ただ、場所がチャイナタウンだとわかった途端、この情報は二度と閲覧されない棚に分類され、すっかり忘れてしまった。 それを突然思い出すことになったのは、René Lèvesqueの通りで車が動かなくなった時のこと。

 気温マイナス15度の日だったけれど、家から目的地まではドアtoドアのはずだったので、手袋もしてなければコートの下は綿のシャツ。助けを待っている間、体は冷え切って眠くすらなってきた(気がする)。こういう時は本能的な欲求が強くなるのか、これが終わったら、すぐ近くで何か温かいものを食べよう!なんてことばかり考えていた。チャイナタウンはすぐ隣。そこで、2度と閲覧されないはずの情報が引っ張り出されることになった。かつて友人が言った店の名前をサイゴンと私が聞き違え、広東料理なのにサイゴンなの?と聞き返したたせいで、店の名前はしっかり覚えていた。さて、新しいバッテリーを持って到着し、車を直してくれたジュリアンを誘って、私はガタガタ震えながら「Sai Gwan」に向こうことになった。

 名前を頼りに検索して行き着いたお店は、思ったより小さくひっそりしていた。玉子麺の店かと思っていたら、飲茶もやっているようだ。とにかく熱々なものを数種類頼もうとメニューを開くと、「キャッシュオンリー!」の文字。そうでした、チャイナタウンはカードが使えない店がまだまだある。再び現金を引き出しに外へ。

 現金をたっぷり引き出して、再入店。ジュリアンには壁に貼られている写真から、興味のあるものを指差してもらい、私はメニューの活字を読むには消耗しきっていたので、勘で頼むことに。サバイバー気分の私たちが一気に頼んだのは…

エビの蒸し餃子 $6.99
小籠包 $6.99
空心菜のソテー $10.99
牛肉の細い縮れ玉子麺  $7.99
青ネギとピーナッツソースの幅広い玉子麺 $6.99
Hot rice pot - チャイニーズソーセージ $10.99

 注文を受けてから作りますとメニューに書かれているわりには、小さな蒸籠に入った蒸し餃子と小籠包はすんなり出てきた。小籠包というと、ついディンタイフォン(鼎泰豐)のアレをちょっぴり期待してしまったが、全く様子が違う可愛いプチ肉まんのようなものが出てきた。肉汁は厚めの皮にすっかり吸われているから出てこないが、口の中でハフハフするほど熱々で、これはこれでいい。台北の路上で親子がリアカーで売っていた朝ごはんに似ている。サバイバーの口には程よいスターターとなった。エビの蒸し餃子は、オーダー間違えで焼売になって出てきたが、気持ちはサバイバーなので、もうなんでもありがたい。

 この2つのスターターが終わる頃にはちょうどよく、牛肉スープの細い玉子麺が登場。スープなのか麺なのか、両方なのか独特な香りと味だ。よく知っている「チャイニーズフード」とはちょっと違う。大陸的というか、土のような、モンゴルで食べたあれやこれやが思い出される。もしかしたら、これはかなり本格的な味なのかもしれない。これが広東の味なのかしら?とマダムに聞いてみたが、あまり英語は通じない。それでもジュリアンは満足そうだ。これからは一人で立ち寄るかもしれない、みたいなことまで言っている。

 私はベジタリアンの平べったい太い玉子麺をツルツルといただく。ソテーした青ネギの香りがいい。もう少しネギが入っているといいのだけれど、サバイバーなので文句は言えない。とにかく、麺のコシがいい。細麺や中太の麺を、自分の好きなスープに入れて自宅ラーメンにしたらいいかもしれない。麺だけ売ってもらえないだろうか、と聞いてみたが、通じなかった。

 空心菜のソテーが運ばれてきたあたりで、ようやく普通の人間に戻れた気がした。それまで、ジュリアンも私も、ものすごい速さで会話など全く弾まず食べていたが、野菜を口にしたあたりで我に戻った気がする。美味しく野菜が食べられる幸せ。白米を丼一杯頼みたくなる懐かしい味だった。チューボーの頃、かずみちゃんちでこういうおかずが出た気がする。かなり味付けがしっかりしているので、普段は野菜をあまり食べないジュリアンも、パクパクいっている。なんて野菜?と聞かれるほど気に入ったようだ。よく考えると、ジュリアンはサバイバーではないし、元来肉派なので、ただお腹が空いていただけかもしれない。

 あとは、写真を見て興味ありげにこれ何?とジュリアンに聞かれ、私もよくわからなかったので頼んで解決したHot rice potを待つのみ。これは、「できるまで25〜45分かかりますよ」という注意書きがあった品だ。

 最後にジャジャーンという感じで出てきた。なるほど。鉄鍋で炊いたご飯!釜飯風。だし汁で炊き込んでいないけれど、ご飯の上に乗せた具を、炊き上がった白米に混ぜ混ぜして食べる。ご飯を油分とソースで軽く焦がすあたりはビビンバっぽい。使い込まれたアルミの蓋や、鉄釜についた木製の取っ手が真っ黒くグラグラになっているのが、なんかとても泣ける。遠い昔にいろんなところで見たことあるけれど、もう決して自分の生活の中には存在しないもの。サバイバーには、いろんなことが走馬灯のように見える。

 そうそう、その釜飯風ビビンバテイストのHot rice pot、チャイニーズソーセージなるものの薄切りが乗っている。熱いうちに醤油を鉄鍋沿いに回し掛けてさっさと混ぜちゃって、と店のマダムが言っているのがジェスチャーでわかった。ビビンバのように、ご飯と玉子を石鍋の麺に押し付けて香ばしくするといいんだろうな、と思い手際よく混ぜたいけれど、例の木製の取っ手が今にも外れそうで、鉄鍋が動かないように支えられない。思わず素手て鉄鍋を押さえてしまって火傷。それでもなんとか混ぜ役を終えて、ジュリアンに食べてもらうことに。どう?と聞くと、「あ、これね、ベーコンご飯だわ」。南米系のベーコン+お米の組み合わせをイメージしたらしい。美味しいらしくガツガツ食べている。チャイニーズソーセージというのが、甘みがあり独特のスパイスの香り(六角かなぁ)がほんのりとする。このぐらい薄切りで十分な存在感。中国の独特の香りの世界が苦手なら、上に乗せる具は、牛肉のシチューやポークソテーなどもっとベーシックなものを選ぶといいかもしれない。

 現金を$200引き出しておいたが、実際に払ったのは$60。チャイナタウンでアルコール抜きで$100以上食べると判断していた自分に驚く。これもサバイバー特有の発想なのかも。

Sai Gwan(広東料理)
14 Rue de la Gauchetière E
最寄り駅:Champ de mars


取材・文:稲吉京子