Arepera
外の寒々しさから一転、店内の音楽、壁の色、人々はラテン一色。
Yucaのチップスとグアヴァジュース。おしゃべりのお供に。
ベネズエラを代表する食事Pabellon。南米の食べ物がいろいろつまめる。
アボカドとチキンのArepa。コーンのパンの触感と、アボカドのクリーミーさが絶妙。
マッシュルームのArepa。肉食の人も好きになる、しっかりした味。他にも試したい具がたくさん。
チーズとプランテインのデザート。少しのぞいている中は、暖かいバナナプリンのような層。初めてなのに懐かしい。
 衝動でレストランに入る時、勝算は3割程度。人といると判断力が低下し、気兼ね、もしくは捨て鉢になったりして、数字は2割以下まで落ちる。今回は、その2割に食い込んだ、入ってよかったわ♥と思わせるレストランAreperaの紹介です。

 Saint-LaurentFrencoで、チャイ用のスパイスを買い、当然Seagulにもと思ったが閉まっていた。おかげで、両手がちぎれる程買物をしなくてすみ、Saint-Laurentからduluthの通りを久しぶりに歩いてみる気になった。Mont-Royalの駅までは結構あるし暗いし寒いし、なんとなく演歌な気分になっていると、通りにVénézuélienneの文字をみつけた。ああ、あの「石油」の。

 小学校の頃、ベネズエラといえば「石油」と習った。ベネズエラときたら、「石油」と答える。その何年か後、家の法事だか大人の都合だかで行った親戚の家では、テレビでミスユニバースの選考をやっていた。父がこの子じゃないかー、と言っていた下ぶくれのオランダの女の子は選ばれず、ベネズエラ代表が選ばれ、あの石油の国には、こんな綺麗な人がいるのか、と子供心に強烈な印象を残した。そして、数年前、ここモントリオールで出会ったおしゃべりなジャーナリストがベネズエラ出身だとわかった時、やっぱり社会科の教科書のベネズエラと石油のくだりを思った。つまりは、「石油」という刷り込まれた情報以外、ベネズエラについてろくに知らなかった。

 「正解かも」

 入り口を開け、座る前からそう思ってしまう。日本海の荒波を思わす演歌なduluthから、くねくね踊る人たちで埋まるサルサなduluthに変わってしまった。厨房では、前に進み、下がっては踊るスタッフたちのこぼれる白い歯が見えた。コートを脱ぎながら、すでに楽しくなっていた。

人々と挨拶をかわす常連らしい隣のテーブルのフランス人に、ベネズエラの料理って、どんなのよ?と聞いてみると、Arepaというトウモロコシのパンに、いろんなものを挟んで食べるのがここのスペシャルだと教えてくれた。店の名前Areperaは、arepaを作る場所のことを言うのだ。挟むいろんなものとは、ビーフ、ポーク、チキンの他に、ツナ、サメ(!)などを中心にメニューには20種類以上があり、ベジタリアンやヴィーガンの具材も7、8種類はある。今日はあいにくサメが売り切れ。隣の彼はといえば、野菜のグリルのarepaを「いつものヨロシク」風に頼んでいた。arepaを単品で頼むと、小さなクレソンのサラダがついて$6.50〜$9。パン自体は大きくないが、さっくり口当たりがよく、私が頼んだマッシュルームのarepa($8)は意外にボリュームがある。

 みんな必ず注文するわよ、とお店の女の子にすすめられたのが、根菜yucaのチップス($5)。北米のポテトのような存在で、茹でたり、揚げたりしておやつや食事の添え物としてよく食される。味はシンプルで、ホームメイドのアボカドソースをディプするとなかなか。メニューのPabellonというのを指差してみると、「ヴェネズエラの国民的料理なのよ」とぷりっとした女の子が言うから、そのプレートも頼んでみた。ポークの薫製や、トマトで煮たビーフやサメ肉などのメインと合わせて、黒豆、白米、フェタチーズ、プランテイン(揚げバナナ)、arepaがついて$14。南米要素ふんだんのプレートで、お腹は相当いっぱいになる。こういうのを食べて育つと、ああゆうぷりっとした子になるのかなぁ。

 私のお腹も、ちょっと違うアングルでにぷりっとなっていたが、ひゅるり〜の外に出て行くことを思うと、チーズとプランテイン(バナナ)のデザート(6ドル)も頼むことにした。寒い気候では暑い気候より、体はカロリーを消費するわけですから。思ったよりあっさり、暖かく甘酸っぱい味は、なぜかすでに知っているような味で、なぜだか手を合わせてごちそうさまでしたと言っていた。

 気になるのが、店の壁にかかるEl Libertadorという人の家計図。これ、あなたの家計図?とオーナーのおじさんに聞てみたが、よくわからなかった。その代わり、別の気になっていた事項が明らかになる。グアヴァ、タマリンド、グアナヴォナといった、珍しいフレッシュジュースのメニュー、材料はいったいどこから来てるのかというと、コロンビアから果肉を輸入し、店で一手間加えてジュースにするそうだ。店で出す食事は、すべておじさんがひとりで作っている。朝7時頃から仕込みをし、お昼12時の開店に間に合わせる。デザートも全部手作り。じゃ、あの厨房できらきらしながら踊ってる人たちは…という疑問はラテンのリズムでぽんぽこぽーん。このレストランは、料理人をしていたベネズエラ出身のおじさんが1年前に始め、つい最近この近所にセビチェ(ceviche:南米料理、魚介類のマリネ)のレストランも始めたという。

 家に帰ってググってみると、家系図の人El Libertadorはシモン・ボリバルのことだった。南米数カ国を植民地支配から解放、独立に導いた英雄ボリバルは、ベネズエラの首都カラカス出身だから、今でもベネズエラ人の誇りなのだなぁ。モントリオールに移住して17年、「働けるときに働いておかないとね」と幸せそうにウィンクするベネズエラのお父さんと、ダイナミックな英雄ボリバルを安っぽく結びつけてしめようと思ったけれど、やめた。自国の文化を愛し、自国の英雄を誇りに思うシンプルさに、少し焦る思いがしたのはなぜだろうかなぁ。

Arepera(ヴェネズエラ料理)(HP)
4050 de Bullion (coin Duluth)
(514) 508-7267
Mont-Royal
Sherbrooke

Ceviches
152 Napoléon
(514) 419-6391

取材・文:稲吉京子
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