ラテンダンスのクラスで知り合ったおかまちゃんに、イタリアンピザの店に誘われた。彼はオフィス街の新しいレストランやバーに精通していて、あの店はダメ!or オッケー!か大まかな判断をしたいときに頼りになる。ランチ時間帯はとにかく人で溢れてて、昼間の食事は予約なしではほぼ無理だと唇を尖らす。モントリオールの標準的なピザを知っているだけに、ピザをわざわざレストランに食べに行くと言う気がしない。う〜んと渋っていると、「そこのピザはまきで焼いてるのよ」と懐柔してくる。

友人が頼んだチーズなしのアンチョビのピザ($16)。生地が美味しいせいか、ソースだけのピザもいける!
ナポリピッツァの代表マルゲリータを頼んでピザの質を見極める($18)。ナポリピッツァに近い印象。
ティラミスなどのデザートも充実しているようだが、夜遅めだったので食後はカプチーノだけで。
雰囲気の良い席に座りたければ予約をおすすめ。店内は広く明るい。サービスには期待する必要も責任を感じる必要もなし。
ピザ窯から次から次へと窯から出てくるのを見るのは楽しい。それにしても、ワインボトルを窯の横で保存するとは!
薪で焼かれるピザ。ピザが窯に入っているのはほんのわずかな時間。
 石窯のピザっていう触れ込みの割には、それほどでもなかった経験の方がカナダでは多いし〜。私はアメリカンピザじゃなくて、薄い生地でソースがとろとろのナポリピッツァが好みだから〜とやんわり断ると、さっと携帯を取り出し店のピザの写真を拡大し、「生地はサクサクじゃなかったけどあなた好みの薄さよ!」とたたみこむ。あら、確かに見た目はナポリのピザに近い。実際ナポリのピザはサクサクはしていない。写真のピザはちょっと不恰好な見た目だけれど、具がごちゃごちゃ乗っておらずシンプル。ソースが付いていない縁は大きく膨らみ、センターのソースゾーンの生地はとても薄そう。これは試してみる価値はあるかもしれない!

 FiorellinoはオレンジラインのSquare Victoriaの駅から、2分ほど歩いたDe La Gauchetiere通りにある。店内は広くカジュアルな造りで、働くスタッフたちは皆若い。レセプションでは、当然予約はあるだろうという雰囲気で名前を聞かれたので、予約はしていないことを告げると、そんなに混んでいない水曜の夜だったが、店の中央のあまり居心地の良くない小さいテーブルに案内された。窓際の席や奥まった雰囲気のいいテーブルを確保したければ、夜も予約はしていった方が良さそう。私たちの隣のソファー席には、イタリア人らしい数人の男性たちが母国語で大いに盛り上がっていた。

ピザならそんなに良いワインじゃなくても十分楽しめる。グラスワインは$8
 私の席から、まきの山とピザが窯から取り出される様子が見える。メニューにはイタリア料理の前菜やパスタもあったが、初志貫徹でいきなりピザとワインを頼むことにした。私はナポリピッツァを代表するマルゲリータ($18)とトスカーナの白ワイン($8.5)を頼む。ナポリを発祥の地とするマルゲリータは、トマトソースとモッツァレラチーズとバジルだけのシンプルなピザだ。シンプルなだけに、味のごまかしがきかない。おかまちゃんはNapoliと名のついたチーズなしのアンチョビのピザ($16)と白のグラスワイン($9)を注文した。

 バッファローのチーズを使っているというマルゲリータが運ばれてきた。1回ですっと切れる生地は薄くしっとりしていて、ナポリピッツァの特徴のひとつでもあるソースの付いてないコルニチョーネ(生地の外縁)にも味わいがある。コルニチョーネをそのまま食べて美味しいかどうかが合格の私的基準だとおかまちゃんに言うと、彼も同感だと言う。トマトソースもチーズも生地とよく一体化して自然で悪くない。トスカーナのテーブルワインとも合っていた。おかまちゃんのアンチョビのピザを一口もらったが、思ったよりいける。チーズなしでもこれだけ満足感を与えられるのは、やはり生地や焼きの環境がいいからかもしれない。

 もちろん、うーんと唸らせる本場のナポリピッツァとは違うが、ケベック州内で食べてきたピザの中では、Fiorellinoのピザが最もナポリピッツァに近い印象だ。朝7時から夜11時までやっているし、思い立ったらメトロや仕事場からすぐに行ける立地は魅力だ。店のカジュアルな内装や簡素化されたサービスもむしろ心地良い。ピザしか頼まない客とわかると、一転して無表情になるサーバーや、偶然なのか皆ブロンドでピチピチのお揃いのTシャツを着ている女の子たちを見ても、店のあり方に一貫性を感じる。店と客という関係に中途半端な感情が絡まず、気遣いが生まれることもなく、これはこれで後腐れがなくて良い。使いやすい店の位置に収まりそうだ。

 早速、今夜食べたマルゲリータの写真をナポリ出身の友人に送った。返信のメッセージには「モントリオールのピザ事情にも希望の光が差してきたようだね」とあった。

Fiorellino(イタリアンピストロ)
470, rue de la Gauchetière O.
(514) 878-3666
Square-Victoria

取材・文:稲吉京子
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