レストランは、美術館1階からの吹き抜け。見上げるとレストランスペースが窺える。 帰りは美術館のギフトショップに寄って幸せ度アップ!Musée d’art contemporainの入り口から入り、一番奥の階段から2階へあがったところにある。入場無料。
1皿目:鴨のスペック。真空にしてレモン汁などと漬け込んだ梨が下に隠れている。組み合わせの意外性、遊び心満載。
2皿目:鱈とキノコと63℃で調理された卵。黒いのがイカスミのマッシュポテト。描かれた絵のようで、目にも舌にも美味しい。
崩した卵と黒いポテト、濃厚なもの同士の絡み合いが起こる2皿目の終盤。パンのお代わりは必至。
帰りは美術館のギフトショップに寄って幸せ度アップ!
 「芸術」の秋、「食欲」の秋である。両方一緒に満たしてしまうレストランがPlace des-artsのMusée d’art contemporainの中にある。Le Contemporain。以前、Musée des beaux-artsにあるレストランを紹介したことがあるが、あちらが熟達、コンサバとするならば、こちらは精鋭、フレッシュという香りがする。こちらも、レストランだけの利用が可能だ。

 ベスト・オブ・ザ・ベストの季節の地物を仕入れ、最高の食事を創り出すというのが、Le Contemporainの哲学である。ケベックを代表する芸術家Jean-Paul Mousseauの孫にもあたるオーナーシェフAntonin Mousseau-Rivardが、美術館の中にレストランを構えて4年が経とうとしている。その間、美術館の一部とする機能上、レストラン独自の宣伝を一切してこなかったにもかかわらず、確実に美術館を訪れる客の胃袋をつかんできた。現在では、Place des artsで開催されるショーやイベントにやってくるグローバルな客層で、夜の部の予約は埋まってしまう日も少なくないという。Mousseauといえば、1948年に反体制、反宗教を掲げるLe Refus global (Total Refusal)を宣言した16人の若き芸術家のひとりである。新しい領域を切り開いていく血と独自のセンスは、若きオーナーシェフAntonin Mousseau-Rivardの生み出す料理の中に息づいているようだ。

 ランチ、ディナーいずれも、ア・ラ・カルトはなくプリフィクスメニューとなっている。ランチは1つ目の皿と2つ目の皿、デザートの3コースから成り、ディナーは5コースとなる。ディナーはより選択肢が多くなるというが、ランチの選択肢だけでも十分バラエティにあふれている。2皿目のメニューに値段が表示され、どれを選ぶかで値段が変わってくる。料理法や組み合わせる食材、見せ方を毎日少しずつ変えながら、メニューが変化していくため、後で再び同じ物を食べたくても叶わない可能性が高いという。食事は、一期一会のアートということなのかも知れない。

 私が今回頼んだのはこれ。
1皿目:真空漬けにした梨と鴨のスペック(塩と香辛料で薫製後、熟成させた加工肉)
2皿目:鱈とロブスターマッシュルーム、ストロファイル(キノコの一種)のポワレ、イカスミのマッシュドポテトと温泉卵添え($31)
デザート:リンゴのテリーヌとバターミルクのアイスクリーム

 遊び心にあふれ、舌があっちこっちに向かうような一皿目だった。ケベック芸術に例えるならJean-Paul Riopelleの絵。色やドットや線があちこち飛び散り、そのテクスチャーまでを味わうよう。 鴨のスペックの熟した旨味に、自然の甘酸っぱさが際立つ歯ごたえのある梨、黒こしょうのかかった甘いメレンゲ、スパイスでコーティングされたナッツ、熟成の進んだヤギのチェダーを組み合わせてある。水玉が飛び跳ねるような心弾む一品。

2番目の皿は、間違いなくPaul-Émile Borduasの絵。白と黒の美しい対照と融合。ぎゅっと身のしまった鱈を、歯ごたえと香りのいいキノコや、ピューレに近い舌触りの墨色ポテト、崩した卵からとろっと流れ出る卵黄を絡めて食べる。とろけるようなイカスミのポテトと崩れた卵を最後に少し残し、それをお代わりの薄切りパンですくい取って食べると、満ち満ちた気分になる。見事な対照と融合。パンはLa Fabrique ArhomaOntario x Papineauの角)のカンパーニュ(おそらく)で、どんな食事にも合う主張しすぎないしっとりした舌触り。

円柱状の建物の真ん中は吹き抜けになり、外壁に添うようにできたレストランスペースが楽しく、心地いい。
 実は、1皿目で迷った。こちらにしておけば良かったかな、と最後まで気になったのがこれ。

●サバのマリネに自家製フレッシュチーズ、クミン、Matzoh(マッツォーというイーストなどで発酵させていない正統派ユダヤ人が食べる薄いパン)
他の選択肢には、次の物があった。
●ズッキーニクリームのシフォンに、ハマグリの薫製、チキンの皮
●干し草を使って40℃で燻したサーモンのコンフィ、ビーツ、ブルーベリーのゼリー、ヤギ乳のヨーグルト、ハーブのケーキ

2皿目の選択で、サーバーのMarie-Éveにも個人的な好みを聞いてみた。「どの料理も最高だけれど、」と前置きしてから、「これなんか面白いと思うわ」と指差した2品がこれ。

●カリっと仕上げた血と脂のポークソーセージに、タマネギ、アップルバター、チェダーのビスケット、ウズラの卵($27)
●ホタテのキャベツ、子豚の生ハム、椎茸、パセリの根添え($35)
彼女の気負いや粧いのない姿勢が愛らしい。「こんな素晴らしいレストランで働けることを誇りに思う」と言う彼女のまっすぐさは、間違いなくレストランのプラス要素だ。
それ以外には以下のような選択肢があった。
●子羊のタルタル、フェタチーズ、蕎麦の実、ウズラの卵、白インゲン、マスタードの葉($27)
●牛のすね肉72時間熟成、キノコ、’ステーキハウス’サラダ、ウズラ卵のドレッシング($29)

デザート:リンゴのテリーヌとバターミルクのアイスクリーム、クイニーアマンのクルトン添え。マージョラムの葉が、口の中で憎い役割を演じる。
 最後のデザート、リンゴのテリーヌはPierre Gauvreauの絵。 絵の中に色々なものが入りこんでいて、かわいいギフトボックスのよう。飴色になった半透明の薄切りリンゴが層をなすしっとりテリーヌ。少し塩っぱい黄色がかったバターミルクのアイスは滑らか。カリカリに焼き上げられたクイニーアマンのクルトン。香り高いマージョラムの若葉。全く舌触りの違うものたちを、少しずつ混ぜて口に運ぶと、一口ごとに違った味わい、作風になる。私はcafé allongéeを2杯頼んで余韻を楽しんだ。

 ひとつ悔やまれるのが、ワインを頼まなかったこと。グラスワインも含め、ワインリストにあるほとんどのワインは、有機栽培の一種であるバイオダイナミック農法で育てられたブドウが使われている。リストにあるアスタリスク(*)が有機ワインを意味すると気づいたのは、2皿目が終わってワインリストの産地を読み込んでいたとき。ワインを輸入する国の添加物に対する規制にもよるが、オーガニックワインは酸化防止剤の添加量が少ない傾向にある。酸化防止剤による頭痛や身体の不快感を感じやすい私には、実に魅力的なワインリストだった。

美術館1階からの吹き抜け。見上げるとレストランスペースが窺える。
 最後に嬉しいニュース。Antonin Mousseau-Rivardの新たなレストランがOntario通りに開店予定だ。美術館併設のレストランという枠を出て、冒険的な方向性を伸ばすようだ。自由な発想の料理、バー的な要素も含め展開されるが、Le Contemporainの料理の正統性も失わずに行くという。
そのオーナーシェフからフロモン読者にメッセージをもらった。
「日本の方たちは、料理をするときの心を大切にすると聞いています。心のこもった料理というのは私たちも目指すところで、アートに対する思いと食材が混ざり合い、皿の上で表現されたものは、日本の方にも楽しんでもらえるのではないかと思います。」

 メトロでの帰り道、Peel駅に停車する電車の窓から、Mousseauがデザインしたセラミックのカラフルな丸窓が見えた。

Le Contemporain(フランス料理)(HP)
185 Saint-Catherine ouest
(514) 847-6900
Place-des-Arts
日・月:休業
火〜金(ランチ):12:0014:00
木〜土(ランチ):17:3020:00

取材・文:稲吉京子
過去のレストラン
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