店の入り口。日が暮れた頃いい雰囲気になる。
 センスのいいアンドリューが、散歩中にみつけたという新しいタパスレストランを教えてくれた。St-Laurent通りをRachel通りの角で西側に折れたところにあるBoca Iberica。ポルトガル料理を中心に、スペインのタパス(バルやカフェなどでワインと一緒につまむ小皿料理)のコンセプトを織り交ぜた感じだ。開放感のある店内は、来た人の目的やテーマに合うよう、いくつかのセクションに別れる。インディアンサマーを楽しむテラス席、きりっとした長いバーカウンター、組んだ足がひときわきれいに見える背の高いテーブル席、窓ぎわのデート席、奥に行けば平穏なテーブル席がある。いつもよりお洒落して行っても浮くことなく馴染むのに、くだけた感じでいられるのは、スペイン半島が醸すラテン度の高さからか。

タコのサラダ:みんな大好きなタパスの定番中の定番。日本人にとってはほっとする味。
干し鱈のコロッケ:コロッケを甘くみていたことを反省。干し鱈の可能性をひしひし感じるおすすめのタパス。
イカの詰め物:ワインがすすむタパスレストランらしい一品。こういうところでしか味わえない味。
ポークのフィレ+ポートワインソース:タパスをすべてすっ飛ばして、ワインとこのメインだけで完結するのも素敵!
ビスケットとクリームがふわっと混ざった上に、ヨークソースがかかる。アルコール類とは合いそうだけれど、少し甘すぎるかも。
広々した店内。テラス席、窓際席、グループ席などに別れる。
 暖かいタパス、冷たいタパス、メイン料理からなるメニューを眺めると、実に親近感がわく。というのも、日本人が大好きなタコ・イカをはじめ、なじみ深い魚介類が実にシンプルな料理法でメニューに並んでいるからだ。ポルトガル料理は、素材を生かした味付けが特徴で、スペイン料理ととても似ているが、より穏やかだと表現する人もいる。モントリオールでは手に入る魚介類に限りがあるため、ここのメニューは選びやすい簡素な選択肢になっているが、本国ではイワシ祭りがあるほどイワシが身近な食材であったり、イカ焼きや魚の塩焼きや炭火焼もあるらしく、日本人の味覚に合いそうだ。魚の中でも、バカリャウと呼ばれる塩漬けした干し鱈の消費量は並外れており、国を代表する国民的食材になっている。

 その干し鱈(バカリャウ)を使ったコロッケ(4個$5)、いきなり美味しくて参った。カフェのつまみや前菜などに必ず登場するだけあり、外はかりっと、中はいい感じにねっとりクリーミー。やみつきになる味と口当たり。ワインを飲みにきてもこなくても、必ず頼みたい一品。

 日本人なら当然頼んでしまうタコのサラダ($14)も、頼んで失敗なしの冷たいタパスだ。タパスを意識したコンセプトなので、少し塩気がきき過ぎの感じはある。ハーブやベビーリーフのサラダやトマトサラダ(各$5)、ポルトガルスープと名のついたスープや、本日のスープ(各$4)から始めるのもよし。暖かいタパスから、イカのfarcis(詰め物$9)も頼んでみた。小さいイカにポルトガル料理でよく使われるチョリソーが細かく刻まれて詰めてある。すでに十分小さいイカを、さらに小さく切り分けて口に入れると、じゅわっと芳醇な味が広がり、これを人とシェアする気が一瞬失せた。ワインを飲む為にあるようなタパスだ。ワイン好きも一目置くというポルトガルワインや力強いスペインワインと合わせてほしい。

 メインとしてオーダーしたのは、ポークのフィレのポートワインソース($24)。ポルトガル原産の糖度の高いポートワイン(ポルトガルの特定の地域において、樽の中で最低3年間熟成させたものだけがポートワインと呼ばれる。アペリティフやデザートワインとして飲まれる。)のソースが格別。フィレの質、焼き加減もよく、これだけ揃っていれば美味しくないはずがない。付け合わせのポテトもまろやかで、口に入れるととろける上品な味に仕上がっている。 今回頼めなかったが、カタプラーナ(Cataplana)はアルガルベ地方の郷土料理として有名で、次回は是非試してみたい。カタプラーナとは、熱伝導のよい銅製の鍋と上蓋が2枚貝のようにつながり、蓋を閉め左右にある取っ手部分を折り返すと、程よい密閉状態になるという伝統的な料理道具。日によって材料と値段が変わるので店の人に確認を。国を代表する食材バカリャウ(塩漬けの鱈を干したもの)も、コロッケであれだけ美味しいとなると、メインメニューの’ヴィンテージ’の干し鱈($25)ではどんなことになってしまうのだろう。

 かつては上流階級の特権であった肉料理のメインメニューも充実している。サーロインのコーヒーソース($21$)、ケベックラムのロースト($24)、ラムのあばら肉($36)などはよく好まれるそうだ。その他タパスの例としては、こんなものがあった。

 イワシのパテ($6)、マグロのタルタル($13)、鳥レバーのパテ($8)、あさりの白ワイン蒸し($14)、サフランとサンブーカ(リキュールの一種)ソースのホタテ貝(2個$12)、黒ソーセージとパイナップル($9)、ガーリックシュリンプ($9)、干し鱈を詰めたパプリカ(2個$10)

 「ついてくるパンはイマイチだわ」とスペイン半島系ホルモン全開のウェイターに言うと、「え、パン?まぁ、パンは脇役だからね(+ウィンク)」とな。確かに、このタパスとワインさえあれば、という気もしてくる。夏の終わり、まだまだお洒落して出かけられるうちに訪れたい。日が落ちる頃がおすすめ。

Beco Iberica(スペイン料理)
12 Rue Rachel O.
(514) 507-9996
Mont-Royal

取材・文:稲吉京子
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