南インドといったらドーサ(Dosa)。コリアンダーのフレッシュペーストとポテトのペーストが包まれたドーサ。10ドル前後で種類は30種類以上あっただろうか。一緒についてくるマサラやチャツネをつけると、まったく違う方向に味が広がる。
インドのチーズといえばパニール(Paneer)。どのインド料理屋に行ってもパニールマサラを頼まずにはいられない友人が頼んだのは、やっぱりパニールバターマサラ($10.50)。アカディ界隈のものよりはスッキリ垢抜けしているが、どっちが美味しいかという判断は下せないとのこと。
伝統料理のヴァダ(Vada$4.95)。ほんのり味がついたサクサクふわふわの塩味ドーナツ。グリーンチリやカレーリーフをレンズ豆の粉と和えて揚げている。ココナッツのソースがついてくる。もう一度食べてみたい初食感。
週末の夜は家族連れで賑わう。
 インド熱にやられている。最近時間さえあればがっついて読んでいる本がある。インド共産党マルクス主義が起こる60年代を学生として過ごしたインド人たちが登場するジュンパ・ラヒリの小説だ。いつものズンバのクラスで、インド系のチャランチャランする曲がかかれば密かに盛り上がってしまうし、街でも地下鉄でも登場人物のスバシュやガウリを探してしまう。

 そのタイミングで、処分しようとしていた手帳からあるインディアンレストランの名前を見つけた。瞑想の集まりで知り合ったトロント在住のインド人夫婦に勧められて書き留め、そのまま忘れていたものだった。ネットで検索してみると「南インド料理」のレストランだという。一気にインドの記憶が熱気を持って蘇った。昔、ムンバイで出会った日本人女性に導かれるまま、電車とバスを乗り継いでインドを南下したことがある。南に向かって一昼夜走り続けるバスの中で、南インドの食べ物はおいしい、と聞かされた。南に行けば行くほど自然も豊かになり、作物も豊富に収穫できる土壌にあっては、料理文化も発達するのだなと想像した記憶がある。南インドの小さな町の食堂で食べたドーサ(Dosa)の美味しかったこと。当時日本円に換算すると50円ぐらいだっただろうか。その舌の記憶に導かれて、モントリオールには1軒しかないという南インド料理のレストランに出かけた。

 『Thanjai』はオレンジラインのPlamondon駅、Van Horne通り側の出口を出てすぐのところにあった。土曜の夜の時間帯はインド人らしき家族でいっぱいだった。モントリオールで、こんなにも同民族ばかりが集合している光景は珍しい。しかも1グループが7人、8人という3世代に渡る家族が目立つ。最初はおとなしく入り口で佇んで案内が来るのを待っていたが、こちらからアピールしないとテーブルにつけないことがわかった。二人客のせいか店の隅っこの極小テーブルに行けと言われたが、もっとスペースがある大きなテーブルを片付けてもらってそこに落ち着いた。やれやれ、店のスペシャリティのドーサ(dosa)のメニューだけでも、3ページに渡る。甘いキャンディのようなアクセントで話す店の女の子に相談したら、すぐにポイントが整理された。ドーサは、米とレンズ豆の生地をクレープ状に薄く焼いたものに様々な具を巻いたもので、私はフレッシュコリアンダーのペーストとポテトのマサラがたっぷり入ったコリアンダーマサラドーサ($9.50)を頼んだ。南インドでは伝統的な食べ物だというヴァダ(Vada$5)、パニールバターマサラ(Paneer butter masala$10.50)、ライス($4)とパロッタ(Parotha$2)というホームメイドパンも頼んで、お腹の様子を見ることにした。

 前菜として出てきたヴァダ(Vada)は、玉ねぎ、グリーンチリ、カレーリーフを混ぜ込んだレンズ豆でできた薄い塩味のドーナツのようなもの。一緒に出てくるココナッツのサラサラしたソースにディップせずに、まずは一口そのまま食べてみる。ふわふわでサクサクでなんともいい風味。初めての食感。もう一度食べたい味だ。

 そして店のスペシャリティ、大きなドーサが小さい皿のマサラと一緒に出てきた。具が詰まっているセンター周辺はそのまま切り分けて食べ、外側の皮が単独でパリパリになった部分は、3種の趣の異なるマサラやチャツネにつけて食べる。そのうちのひとつ、南インドのダルスープ(豆のスープ)がなかなか良い。単独で頼んでみたくなる真っ当なダルスープ。コリアンダーペーストは色は鮮やかで綺麗だったが、コリアンダーの風味はほとんど感じられなかった。中にスタッフされたポテトペーストのトロトロ感と外の皮のパリパリ感がいい。いろんな食べ方ができるドーサ、別のドーサも食べてみたくなる。

店でいちから作っているというパロータ(Parotha$2)。リッチな仕上がりなので、組み合わせるものを考えた方が良さそう。さらっとしたものと合わせると良いかもしれない。狙いはダルスープあたり。
 さて、自家製チーズのパニールのマサラ(Paneer butter masala)は、一緒に行った友人の好物という理由で頼んでみた。ぱっと見、インド人にも見えないこともないこの友人によると、アカディ駅付近のインド人街にひしめくカレー屋さんで食べるパニールのマサラと比べると、きちんとした品の良い仕上がりだという。どちらが優れているかという比較は見当違いで、好みの問題だそうだ。量はたっぷりあり、ライスと合わせてかなり満足げな様子。一緒に頼んだパロッタというパンは、頼まなくてもよかった品になった。かなりヘビーなパンなので、ドーサともパニールマサラともかち合ってしまい残念なことになった。あれこれ頼まず、あっさりしたダルスープと合わせてシンプルに食べるのならよかったのかもしれない。あっけなくお腹いっぱいになったため、以下の3つの南インド料理が次回の課題として残った。

・イドリ(Idly)$6〜$9というライスの粉から作った真っ白い蒸しパンのようなおやつ
・ウッタパン(Uttapam)$6〜$8というドーサを厚くしたようなパンとマサラの組み合わせ
・南インドのダルスープ

遠慮せずにどんどん希望を伝えた方がいい!
 久しぶりに思い出したのは、インドは地域ごとの料理法や味付けがあり、それを「インド料理」というくくりに押し込みきれない広がりと深さがあること。日本人が思い描く「インドカレー」という食べ物は存在せず、地域の特徴を生かしたスパイスを使い独自の作り方で料理されたものを、私たちは勝手に総称してカレーと呼んでいる。旅行中、インド最北部にあるカシミールの山間から宝石を売りに来ていた男の子3人と出会った。地面がむき出しの床に、3人が寝起きするベットがひとつだけあり、キッチンもないような一間だけの小屋だったけれど、それは美味しいチャパティや「カレー」を作ってくれた。彼らは「カレーではない」と言っていたが、あれが日本人が言う「カシミールカレー」だったのだろうか。

Thanjai(インド料理)
4759 Van Horne Ave
(514) 419-9696
Plamondon

取材・文:稲吉京子
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