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そのタイミングで、処分しようとしていた手帳からあるインディアンレストランの名前を見つけた。瞑想の集まりで知り合ったトロント在住のインド人夫婦に勧められて書き留め、そのまま忘れていたものだった。ネットで検索してみると「南インド料理」のレストランだという。一気にインドの記憶が熱気を持って蘇った。昔、ムンバイで出会った日本人女性に導かれるまま、電車とバスを乗り継いでインドを南下したことがある。南に向かって一昼夜走り続けるバスの中で、南インドの食べ物はおいしい、と聞かされた。南に行けば行くほど自然も豊かになり、作物も豊富に収穫できる土壌にあっては、料理文化も発達するのだなと想像した記憶がある。南インドの小さな町の食堂で食べたドーサ(Dosa)の美味しかったこと。当時日本円に換算すると50円ぐらいだっただろうか。その舌の記憶に導かれて、モントリオールには1軒しかないという南インド料理のレストランに出かけた。 『Thanjai』はオレンジラインのPlamondon駅、Van Horne通り側の出口を出てすぐのところにあった。土曜の夜の時間帯はインド人らしき家族でいっぱいだった。モントリオールで、こんなにも同民族ばかりが集合している光景は珍しい。しかも1グループが7人、8人という3世代に渡る家族が目立つ。最初はおとなしく入り口で佇んで案内が来るのを待っていたが、こちらからアピールしないとテーブルにつけないことがわかった。二人客のせいか店の隅っこの極小テーブルに行けと言われたが、もっとスペースがある大きなテーブルを片付けてもらってそこに落ち着いた。やれやれ、店のスペシャリティのドーサ(dosa)のメニューだけでも、3ページに渡る。甘いキャンディのようなアクセントで話す店の女の子に相談したら、すぐにポイントが整理された。ドーサは、米とレンズ豆の生地をクレープ状に薄く焼いたものに様々な具を巻いたもので、私はフレッシュコリアンダーのペーストとポテトのマサラがたっぷり入ったコリアンダーマサラドーサ($9.50)を頼んだ。南インドでは伝統的な食べ物だというヴァダ(Vada$5)、パニールバターマサラ(Paneer butter masala$10.50)、ライス($4)とパロッタ(Parotha$2)というホームメイドパンも頼んで、お腹の様子を見ることにした。 前菜として出てきたヴァダ(Vada)は、玉ねぎ、グリーンチリ、カレーリーフを混ぜ込んだレンズ豆でできた薄い塩味のドーナツのようなもの。一緒に出てくるココナッツのサラサラしたソースにディップせずに、まずは一口そのまま食べてみる。ふわふわでサクサクでなんともいい風味。初めての食感。もう一度食べたい味だ。 そして店のスペシャリティ、大きなドーサが小さい皿のマサラと一緒に出てきた。具が詰まっているセンター周辺はそのまま切り分けて食べ、外側の皮が単独でパリパリになった部分は、3種の趣の異なるマサラやチャツネにつけて食べる。そのうちのひとつ、南インドのダルスープ(豆のスープ)がなかなか良い。単独で頼んでみたくなる真っ当なダルスープ。コリアンダーペーストは色は鮮やかで綺麗だったが、コリアンダーの風味はほとんど感じられなかった。中にスタッフされたポテトペーストのトロトロ感と外の皮のパリパリ感がいい。いろんな食べ方ができるドーサ、別のドーサも食べてみたくなる。
・イドリ(Idly)$6〜$9というライスの粉から作った真っ白い蒸しパンのようなおやつ ・ウッタパン(Uttapam)$6〜$8というドーサを厚くしたようなパンとマサラの組み合わせ ・南インドのダルスープ
Thanjai(インド料理) 4759 Van Horne Ave (514) 419-9696
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取材・文:稲吉京子 | |||||||||||||||||
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