Maisonneuve通りにある店の入り口。Berri-Uqam駅から2ブロックの近さだが、いつもひっそりしている。
 今まで、なんでもありのモントリオールの土地柄、様々な形態の食事処をひと括りにして、レストランとして紹介してきた。Toque!などの知名度の高いシックな場所をレストランの代表と考えるか、人々が気軽に集うSt-Hubertをレストランの最たるものとするかは各人にお任せするとし、今回は、話題性、エキゾチッックさなどから離れ、誰もがレストランらしいレストランだと感じるO'Thymを紹介する。

 開店→閉店の回転の早いダウンタウン、駅チカにして、今年で10周年を迎えるO'Thymは、こじんまりした感じのいいカジュアルレストランだ。店には看板らしい看板はなく、外に出ているメニューもないため、選ばれし者のみ入られよ的な印象もないこともないが、入ってみるといい空気が流れる。レストランをいくつも持ったオーナーふたりによって運営され、そのうちのひとりはシェフとして腕をふるう。ケベックではあまりfusion料理という言われ方をしないが、ここでは、国や文化に囚われず、地元料理やよく知られた世界の料理を、自身で進化させた創作料理を出す。注目されている新素材を取り入れ、なじみの料理に変化を持たせるのもうまい。プレゼンテーションの面でも楽しい工夫が凝らされたものが多く、行き過ぎない斬新さと安定感があり、まさにfusionという語がピッタリくる。厨房は地下にあるため、シェフの料理する様子は見えないが、一つの料理の形に安住せず、常に進化を試みるオーナーシェフの意気込みが感じられる。

天井の高い店内はすがすがしい。自分の気分のまま出かけ、受け入れられるのがうれしい。
 ウェイターが説明してくれる今日のメニューは、想像を掻き立てるが、集中して聞いていないと、2回3回とこちらから質問し直すはめになる。組み合わせる材料が月並みでなく種類も豊富なため、どんな一皿なのかが、すぐに頭の中で像を結ばない。味の系統すら判断がつかないものもある。英仏交えながらのフレンドリーなウェイターの説明に助けられた。頼んだ料理は以下の通り。

根菜類のスープ。パンがすすんでしまう。
フェタチーズ、キャラメル化させたナッツ、黄色のビーツの入ったグリーンサラダ。
豚脇腹肉にスクワッシュのピューレー、血のソーセージ、ワイルドマッシュルームサラダ。
スペルトのベットにグリルした鱈、味噌のソースと燻製の鰯のサラダ添え。
バイソンのリブに、ターメリックペーストのついた大根とフレンチフライ添え。
●根菜(カブ、パースニップ、ジンジャー)のスープ
さわやかにほだされる味。安心感があり、ゆっくり夕食を始めるにはこのスープから。

●フェタチーズ、キャラメル化させたナッツ、黄色のビーツの入ったグリーンサラダ
いろんな素材や味が盛り込まれ、一口ずつが違ったおいしさになる。全体が軽い酸味のある仕上がり。ラディッシュ、ザクロの粒などがちりばめられ、見た目も美しい。甘辛いナッツはいい味だが、少々堅すぎるか。

●豚の三枚肉にスクワッシュのピューレー、血のソーセージ、ワイルドマッシュルームサラダ
重そうな一皿だが、みずみずしいスクワッシュのピューレーと、ワイルドマッシュルームがいい後味を残すしっかり系の一品。

●スペルト(古代穀類)のベットにグリルした鱈、味噌のソースと燻製の鯖のサラダ添え
臭みなくかりっと焼かれた鱈は身がしっかりし、こっくりした味噌のソースと相まってそれだけでもかなりの味わいだが、その上濃厚な鯖の燻製サラダが主役顔負けの存在感。スペルトのプチプチした歯ごたえがいい。

●バイソンのリブにフレンチフライ添え
淡い酸味で炊き直火で炙った大根に、ターメリックのとろりとしたペーストが乗っかって出てきた。まるでふろふき大根のよう。これが、つまらなくなりがちな肉+ソース+ポテトという北米スタイルの皿にアクセントをつけている。アニスの自家製マヨネーズも新鮮。リブに絡められたソースが濃すぎる印象だが、フォークで突くと、ほろほろと身が骨から離れるほど柔らかく料理されている。

 今日のメニューには他に、蟹の生春巻き、大豆のピューレー、ココナッツミルクとメープルシロップのソースでという選択もあった。

 いずれの料理も、材料の組み合わせが定番にはまらず、これにはこの素材というおきまりのパターンに落ち込まないのがいい。メニューから創造していた味や見た目を裏切ってくる遊び心がある。満腹感から、デザートは頼めなかったが、運ばれていくデザートはスタイリッシュでセンスを感じる。隣席の男性は、ショコラムースに悶絶の声を漏らしていたのを特記しておく。

 ”apportez votre vin”なので、ぜひお気に入りのビールやワイン、シャンパンを持ち込んでもらいたい。暗黙のドレスコードなどなく、気持ちの盛り上がるフリースタイルでどうぞ。気合いの入ったフリフリもいれば、モロッコのお土産風ビーチサンダルもいる。ランチは火曜から金曜のみ。週末はディナーのみ。早い時間の予約はとりにくいので、早めに電話を。

O'Thym(フランス料理)(HP)
1112 Boulevard de Maisonneuve Est
(514) 525-3443
Beaudry

年中無休:18:00
火〜金(ランチ):11:3014:30

取材・文:稲吉京子
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