Square Victoria駅の改札から一番遠い出口、McGill通りとSt-Jaque通りの角から歩いて2,3分のところにある。
 毎年の初夏をブリンスエドワード島で過ごすイギリス人の友人がいる。いつもはハリファックス経由で島に入るのだが、今回は珍しくモントリオールに立ち寄るという。市内で食事をしながら10年ぶりに会おうということになった。ある店がすぐ頭に浮かんだ。

 ダウンタウンど真ん中の交差点に、いつ通っても魚を揚げる芳ばしい匂い漂う一角がある。揚げ物にあまり触手の動かない私でも匂いにつられ、fish and chipsと書かれた窓越しにレストランの中を覗いてみたりはしたものの、独りで揚げ物とビールという気分になれずに数ヶ月が経っていた。この友人来訪の知らせに、パチパチとパズルのピースがはまるように、モントリオールのフィッシュアンドチップスにトライするアイデアが浮かんだ。日本人にしたら、フランスに住む友達を訪ね、寿司屋に連れて行かれるようなものだが、 この機会を逃したら、私の口にフィッシュアンドチップスが入ることは一生ないのよ、と言ってみると友人は笑って快諾してくれた。

 「Brit and Chips」は、 オレンジラインのスクエア・ビクトリア駅からマギル通りを南に2ブロックという立地だが、季節もいいのでオールドモントリオールを東から西に抜けながら、メトロ2駅分を歩くことにした。夕方6時台後半に店に着くと、細長い店内には先客が3組すでに待っていた。厨房と客席を隔てるカウンター沿いに列を作り、15分ほどブツが揚ってくるのを眺めて待つ。イギリスでは、フィッシュアンドチップスのための機械システムがあるのだそうだ。この店の揚げシステムも十分機械化されているように見えたが、本場のシステムはこんなものではないらしい。

生ビール、1パイント($6)。ハーフパイント($3.5)もある。生ビールはきんきんに冷やさずに室温で飲むのがイギリス式だとか。
 席が空くまで待つ間、厨房一面にかかっている黒板を見て頼むものは決めておいた。メニューは迷うほどない。魚の種類、付け合わせとビールを選ぶだけだ。私たちは、付け合わせをチップス(揚げポテト)で頼む。サラダにもできるが、ほんの御印程度が運ばれて行くのを見て、ここでは潔くチップスでいく。そんなこともあろうかと、家で青汁を一本飲んできた。イギリスでのフィッシュアンドチップスの魚の定番は、cod(タラ)とhaddock(コダラ)だ。この店にはサーモンの選択もあり、カナダならではだね、と友人は笑った。他にはhake(メルルーサ)、sole(シタビラメ)がある。London PrideGuinessの輸入ビールはボトルや缶入りだが、ビールサーバーからグラスに注がれる生ビールはひとつだけ、Burgundy Lion Aleだ($3,50〜)。面白いところで、Shandyという少し甘みのつけてあるビールがある。地元では女の子たちに人気があるとか。パブでこれを1,2杯おごれば女の子の機嫌は良くなるんです、という。私たちは生ビールを頼んだので、エビのポップコーンというのをつまみに頼んでみる。いわゆる小エビのフライで、タルタルソースにディップして食べる。ソースなしでレモンを絞りかけただけで十分いける。衣がしっかり固くついているので、少食派は本命のフィッシュアンドチップスが全部食べられなくなる可能性大なので要注意。

魚もポテトも同時に揚げ上げられカウンターに乗せられるとすぐに、サーバーが席まで運んでくれる。
生ビールBurgundy Lion Ale以外のビールのチョイス。左側のLondon Prideは地元でも人気があるビールだが、生ではないのが残念。
客層は様々。ご近所さんから、オフィス帰り、デート、家族連れまで。忙しい店にしては、店員の感じがいい。
タンドリーポップコーンシュリンプ($6)、最も人気のおつまみ。フィッシュアンドチップスをしっかり1人前食べる人には、必要はないかも。
haddockとchips($12)。メープルシロップ風味で軽やかな口当たり。chipsなしなら$10。
codchips($12)。こちらは、Burgundy Aleを含ませた衣で揚げている。魚の味が引き締まるような印象。
 ビールが進む。その頃には、席を待つ列は無くなっていた。7時前後を外せば、待たずに座れそうだ。とそこへ、頼んだ魚とポテトにが運ばれてきた。魚は2切れずつあるので、友人と交換して食べ比べできる。どちらも淡白な白身魚で、語り合うほどの大きな違いはないが、魚の持ち味に合わせて、下味がつけてあるので、そのフレーバーの違いが楽しめる。haddockにはメープルシロップのほんのりの甘さと軽さが添えられている。codには、Burgundyビールで下味がつけてあり、少し大人の味。hakeは潰したオレンジの風味、soleにはサワークリームオニオンの風味という具合。日本のアイリッシュパブでフィッシュアンドチップスを食べてみたことはあるが、ザ・魚のフライ、という見た目と味で、そのまんまなんだなぁ、と思った記憶があるが、ここの魚は、少し透明感のある飴色になった衣に包まれ、フォーク一本でサクサクと一口大に切れてジューシーだ。ビールははますますす進む。

ー で、どうなの?

はい、悪くありませんね。誰かのお母さんが作ってくれたのを食べてる感じです。

ー では、パブや店で食べるようなものとは一線を画すということなのか、やっぱり?

 というかですね、フィッシュアンドチップスの秘密は、それぞれの店(人)が持つ揚げ衣のレシピなんです。ただ小麦粉をつけて揚げるだけじゃない。その揚げ衣次第で、フィッシュアンドチップスの出来、評判が決まるといってもいい。だから、皆絶対そのレシピは教えないんです。好き嫌いは好みがあると思います。ただ、このチップスは、いただけない。イギリスだったら投げ返されるかもしれません。

 本場イギリスで様々なフィッシュアンドチップスを訪ね研究し、かつケベックの人々の好みにも合わせてこの店のレシピが生み出されたというから、イギリスで食べるフィッシュアンドチップスと違うがあるのも当然ではある。しかも、私はケベック州で食べられるポテトの揚げ物の中にしては、サクサクして上出来な方に入ると感じたので、どんだけ本場のチップスは美味しいのか?と聞くと、彼はこんなふうに続けた。

 イギリスでは、全ての料理が熱々の状態で給仕されないと文句が出るんです。作り直せと突き返されることも普通です。つまり、付け合わせは先にできていて、その後に仕上がる料理を待っている間に、先にできた付け合わせは熱々ではなくなるという状況は許されないのです。 そんな、大げさな。私も東京のレストランで、蟹棒鮨の一番端の切れに蟹肉が乗っておらず、真っ白な酢飯が丸見えで写真と違うと言って突き返したことはあるが、誰もがする行為ではない。

ー 一生に一度ぐらいそういう人と同席することはあるかも、っていう頻度でしょ?

 いやいや、イギリスでは皆突き返します。食べ物すべてが最高にホットでないこと、ビールは法律で指定された1パイントのグラスギリギリまでつがれていないとだめで、泡は指一本分以上はダメ、などの不満を堂々と表現することは、一般市民の権利なのです。

ー でも、ビールがキーン冷えてなくても、あまり気にしないって聞いたけど?

 はい、生ビールは室温で保存されたものをそのまま飲むんです。生以外のビールはもちろん冷やして飲みますけどね。 フィッシュアンドチップス以外にイギリス人が皆楽しむというサンデーローストがあるという。私は聞いたこともなかった。

ー ある地方だけとか田舎だけの習慣では?

 いえいえ、みーんな店でも家でも日曜になると作ります。メインはチキン、ビーフ、ポーク、マトンなどの肉類をポテトなどの野菜と一緒にオーブンでじっくりローストするのです。これは本当に美味しいですよ〜。 と友人は目を細めた。イギリスは食事の文化が国の歴史と比べてあまり育たなかったように見えるが、生活レベルで楽しみ方はいろいろあるようだ。ヨークシャープティング(プリンとは全く違うどちらかというとパン類に近い)が、ローストビーフに必ずついて出てくるのも、このサンデーローストで肉類をローストする間に出る肉汁を受けるようにして一緒に焼かれたという古い習慣と関係があるようだ。今では、生地の中にジャムなどの甘い詰め物をして、デザートとして焼かれるヨークシャープティングもあるようだ。

 食事のスタイルからか、店の雰囲気のせいなのか、食べ物と季節のせいなのか、実に気分がいい。人のざわめきの中で、半分腰掛け半分立ったような状態で、口に運ぶ熱々の魚の身と、サクサクのポテトの残りをビールで一掃して、また熱々とサクサクとおしゃべり、その全体の流れと気軽さが心地いい。覚悟していた食後の胃の重さや胸焼けは全く起こらず、髪の毛や服が油臭くなるということもなかった。 店を出ると、ビル群の向こうに夕焼けが始まっていた。暑すぎず寒すぎす、8時過ぎでも明るい。カッと熱い夏本番になる前に、仕事帰りのフィッシュアンドチップスと生ビール、この時期おススメです。

Brit and Fish(イギリス料理)(HP)
433 McGill
(514) 840-1001
Square-Victoria

月〜水:11:0022:00
木〜土:11:0023:00
日:11:0022:00

Cote-des-Neiges支店(5536A Cote-des-Neiges
取材・文:稲吉京子
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