店の入り口。他にあまり目を引く店も、レストランもないので、密かに異彩を放っている。
 北に向かうエア・イヌイットの飛行機に一緒に乗り合わせたハンターから、こんなことを聞いたことがある。本当の肉好きは、最終的にジビエに行き着く。俺はムース(エラジカ)が一番好きだね。

 ジビエ(仏語:gibier)とは、狩猟などで捕獲した野生鳥獣の肉をさし、ウサギや馬の肉などもこれに入る。観光地として有名なCharlevoixのB&Bでも、金網で囲われた小さな小屋にいるウサギたちを指し、かわいいわね、と女将にいうと、「そうでしょ。もう少し太らせるわ」と返ってきた。ケベックでもヨーロッパのジビエ文化の名残はいろんなところに見られる。

 そのジビエのハンバーガーを食べさせる店がある。SherbrookeBerri Uqamの駅から10〜15分ほど歩くと、モダンアンティーク家具屋がぽつぽつ集まったAmherst通りがあり、Ontario通りとの角にあるMarche Saint-Jaqueという小さな店の寄せ集まりがある。その中の小さなパン屋のオリーブフォカッチャの焼きあがりを目当てに、この辺りをしばしば通りかかるのだが、来るたびに気になるレストランがCoo Rougeだった。あまりぱっとしない界隈で、ここは何屋さん?とのぞきたくなる雰囲気をソロでかもしだしている。外にときどき出ているメニューをみると、La maison du burger sauvage(野生バーガーの家)とある。そう言われると、店からはそれらしい男性たちが満足そうな顔をして出てくる。実は、ジビエだけでなく、普通のハンバーガーにも定評があるらしく、車を飛ばしてくる客もいるというのだ。

店内の一部。日曜恒例のビュッフェに集まる人々。
ムースのハンバーガー。ワイルドな味わい。当然、普通のビーフバーガーは美味しいだろうなと推測できる。
炭火焼きチキン胸肉と焼いたゴートチーズのサラダ。実際はもっと大きい印象。野菜もしっかり摂りたい人に。
ルイジアナ・チリビーンズ。味、ボリューム、値段、全てで安定している。理由なくすでに懐かしい。
奥のテラスがいっぱいなら、ぜひ玄関の窓側の席で。この窓もすぐに全開に。
 ハンバーガーには、ジビエを使ったデラックスハンバーガーと、ビーフやチキンの8ozハンバーガーとある。ジビエハンバーガーには、カンガルー、ムース(エラジカ)、バイソン、鴨の選択がある。定番ではない黒板のメニューには、馬やラクダの文字も見える。ウェイターのアレックスお薦めの、ブルーチーズのはいったチキンのハンバーガーLe Bleu($12)を頼んでみよう。ところが、サラダを頼む気は毛頭無かったにもかかわらず、炭火で焼いていると言われ、つい「チキンのむね肉のサラダ」に土壇場で心変わりしてしまった。注文したものの、「サラダ」の文字には信頼が置けないので、安全パイとして、ルイジアナスタイルのチリも追加すると、アレックスがにやっとした。いいチョイスだと自信満々に言ったとおり、サラダとフレンチライ、トルティーア、サワークリームの付いた、ひき肉いっぱいの辛過ぎないチリが出てきた。バーガーだけじゃないんだ、と思わせる。それは、店内のメニューの数を見れば明白で、メニュー数の多い店は、それだけ回転しているからメニューを増やせるわけで、成功している証だと聞いたことがある。レストランビジネスに適したとは言えない立地で、開店から12年動かずに今日までやってきたことを考えれば、バーガーやジビエ料理以外を楽しみにやってくる客層も厚いのかもしれない。そういう違った客層は、日曜の朝から午後までやっている、ビュッフェのブランチ($15)にも見られた。毎週変わるビュッフェには顧客がついているらしく、私がふらっと立ち寄った日は30席ほどの店内が2回転したという。メニューの内容は多国籍で、キッシュなどの家庭的な感じのする温かい料理から、パスタやバターチキン、アクアパッツァ風の大きな魚あり、肉料理、ギリシャ料理、アラブ料理も見える。雑多でとりとめがないようでもあるが、なんとも家庭的でむしろ好感が持てる。親しい人とほのぼのブランチには悪くない。デザートには毎週必ず焼くという人気のシュガーパイの他に、週変わりの焼き菓子があり、今日はアップサイドダウンパイナップルケーキだった。デザート系は甘そうだが、様々なカットフルーツもある。その甘そうな人気デザートを、淹れたてのコーヒーとともにほおばる十数人のケベコワ男性のグループが隣に座っていたが、野生獣の肉を食べている客とは少し違い、皆そろって美しく、虹色に輝いていた。

 さて、実際注文したものの検証。

 ムース(エラジカ)のハンバーガー($16):サラダ、フレンチフライつき。北アメリカサイズ。ジューシーでワイルドな味とは、こういうことをいうのかな。どこか癖があり、肉好き、ジビエ好きにしかわからない野生肉の深みなどが展開してそうな気はする。おそらく、普通レベルの肉好きには、基本の牛肉、レタス、トマト、ホームメイドソースのCoo Rougeオリジナル($10)やチキンのバーガー各種($12)で、十分いけるんじゃないかな、と推測。マスタードがすでに入っているで、苦手な人は言っておくといい。付け合せのボリュームも魅力。フレンチフライは、ケベック式の真っ白か真っ黒の味のないポテトにケチャップをディップして食べるポテトじゃなく、いい揚がり具合の味つきポテト。日本人好みではないかと。サラダも洒落てはいないが、しっかり存在感があり、ハンバーガーの付けあわせとしては優秀。個人的には高感度↑↑。

みなが食べた倒した後の、ビュッフェ。魚料理や肉料理。から、すぐになくなった様子。
 焼きゴートチーズと炭火焼鳥むね肉のサラダ($17):スライスしたバゲットの上でこんがり焼いたゴートチーズと、チキンのむね肉が乗った巨大なサラダ。人気メニューらしくバランスが取れているが、これでなきゃ、という感じまでではしない。量があるので、野菜を食べているうちに、せっかくの香ばしいチキンが冷めてしまう。むね肉好きや健康的にお腹いっぱいになりたい人にはおすすめ。繰り返すが、ここの野菜の量はうれしい。普段から「サラダ」と括られるものをメインとして頼む気がないのは、レストランで出てくる吹けば飛びそうなサラダや油まみれの野菜に納得いかないものがあるためだ。ここの野生的なサラダなら、気分や体調によっては、メインに選ぶ気にならないでもない。他のサラダ$5〜$14も試してみたい。

 ルイジアナ・チリ($10):ひとり1種類の食事で完結できてしまう内容のため、安全パイは必要なかった。しっかり味つけされたチリで、たいていの人の期待は裏切らないのではないか、と思う。私はもうずっと昔にアメリカで食べたチリを思い出した。こういう味はしばらく食べてなかったなぁ、という感じ。これにもフレンチフライとしっかりサラダが載っている。ベティ・ブルー(原題:37°2 le matin)のゾルグは、ビール片手にこんなチリをたべたかったのかなぁ。

 ここの魅力を一言で言うと、コストパフォーマンス。上記のムースのハンバーガーや鶏むね肉炭火焼きサラダは、たまたまジャンルの中で一番高いものになってしまったが、通常のものなら10ドル前後からある。質と量の見えやすいバランスでもって、直球勝負してきている感じがする。例えば、Mont-Royal通りとDuluth通りの角にある、尖がった靴にスリムなジャケット、ナイフとフォークで食べるハンバーガーレストランがある。セクシーさが重要視されるモントリオール文化に適う雰囲気作り、バーガーの味や見た目ではなかなか悪くないが、バランスやコストパフォーマンスの視点では、圧倒的にCoo Rougeに気持ちは傾き、ここの存在はますます貴重になってくる気がする。つまりは、ジューシーなハンバーガーがきっちり食べたーいという人の欲望にシンプルに答えてくれるハンバーガーではないかと思う。

店内の一部。デコレーションがなんとも独特。ケベコワジモティな路線。
 では、バーガーファンでない人はどうすればいい?とアレックスに聞くと、黒板メニューのサーモンタルタルはぜひいつか試してほしいと言う。ケーパーやハーブと焼き上げたティラピアもアロマティックで悪くないらしい。僕の好みでは、断然鴨のハンバーガーだけど、先週出していたカンガルーのステーキや馬の肉もなかなかよかったよ、とやっぱりジビエで締めくくった。カンガルーやラクダなどの肉は輸入され、それ以外は地元のジビエ専門業者から定期的に買い付けているため、定番メニュー以外のものはある時とない時があるため要確認。ビール、アルコール類は一般的な種類だが豊富。

 街ではTシャツ姿の人をみるようになった。Coo Rougeもそろそろ裏のテラス席を開けるという。モダンアンティーク家具のショップをはしごするついでに、テラスでハンバーガーらしいハンバーガーをどうぞ。

*ビュッフェ($15)は日曜の10時から14時のみ。日曜のみ、定番メニューは14時から、黒板のメニューは16時からオーダー可。

Coo Rouge(ジビエ・レストラン)(HP)
1844 Rue Amherst
(514) 522-4114
Sherbrooke
Berri-UQAM

取材・文:稲吉京子
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