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フレンチの料理人の友人に頼んで、やっとの事でLe Moussoの予約を取ってもらった。去年の後半に立ち上げたLe Moussoは、水曜から土曜の各夜34席しか予約を取らない。何度も電話をかける辛抱強さが必要だ。かといって、もったいぶったレストランではなく、オーナーシェフのMousseau氏は誰の挨拶にも気軽に応じてくれる。サーバーはTシャツ姿で、地下のキッチンも客に大きく開かれている。 ここでいただけるのは、7種類の皿で構成されたコースのみ。$65。このコースに合わせて勧めてくるのが、数種類のナチュラルワインが試せるコース$50。一皿ごとに違うワインが楽しめる。スペインのカヴァから始まり、ポルトガル、スペイン、イタリア、フランスなどのワインが最後のデザートが出るまでグラスに注がれる。もちろんグラスワイン、ボトルでも頼める。
次に出てきたのはWAGYUと銘打たれた皿。基本のコースではこれが最初の皿になる。表面だけ火を通した和牛のたたきにキャビアが乗っている。ストレートに勝負してくるWAGYUと相反する立ち位置で、広がりのある風味のクリームの煮詰めが同じお皿に用意されている。CALMAR(イカ)という皿がWAGYUに続く。これが面白い。ペラっとした白い四角い布がすり鉢状のお皿に盛られている。そこに鉄びんを持ってきたサーバーが「出汁」を注いでくれる。イカのすり身(と卵白が混ざっていると予想)でできたこの白いペラの下にマッシュルームの超薄造りが小山を作っている。出汁は黒く、干したキノコ系の匂いが強い。各部分をそれぞれ味わってもいいが、白いペラ+マッシュルームの薄造り+キノコ出汁3点が合わさると味に立体感が出る。続くはOMBLE。英語ではアークティックチャーと呼ばれるケベック州の北部でも採れるホッキョクイワナ。この皿にも鉄びんから色鮮やかなビーツの汁ソースが注がれる。ホッキョクイワナの横に4種類のジェリービーンのようなジュレが寄り添う。魚は緩く火が入れられ、柔らかくとろける。それぞれのジュレと組み合わせて別世界を味わった後、全部を混ぜて至福の一口で締めるという手もある。さらに、ライ麦のガレットがついてくるので、その上であらゆる組み合わせの可能性を試したい。 さらにピークは続く。次の皿はVOLAILLE。オプションでトリュフを乗せるかどうか選べる。$10/2gとある。電子計りをテーブルに持参しているサーバーの説明がよく聞き取れず、頼んでしまうことになった。刻んだレタスの下に隠れていたVOLAILLEとは、いわゆる鶏肉だが、鶏肉とは思えないほど柔らかくジューシーに仕上げてある。同行した友人いわく、フランスではどこのフレンチレストランやビストロでも使っている低温調理法が、こういうテクスチャーを可能にするという。一度真空処理するなど火を通す前の手順は色々選択肢があるらしいが、その後の60度そこそこの温度で長く調理する方法は、肉の殺菌をしつつ柔らかく肉を仕上げる目的でよく使われる。コース料理を出す店でレタスの刻みが出たのには少し驚いたが、ほろほろと柔らかく口の中で溶ける鶏肉と結局は良く合っていた。レタスとトリュフに隠れた鶏肉の向かいに一点ぽてっと置かれた色鮮やかな緑のソースは、目を喜ばすピンナップのピンのような役目を果たした。きっちり2g測ってすりおろしていくれたトリュフは、サーブしてくれた青年同様、あってもなくてもいいような印象がしたのは、ワインが回ってきたせいかもしれない。
Le Moussoはもはや、食事をしに行く場所ではないのかもしれない。食べる食事ではなく、体験する食事。驚き、緩み、イメージし、批評し、触発されるエンターテイメントの場なのかもしれない。こちらの感性をも試してくるこのアート体験に3時間、こんな冬のアクティビティもモントリオールならでは。 Le Mousso(New American料理) 1023 Rue Ontario E (438) 384-7410
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取材・文:稲吉京子 | ||||||||||||||||||||||||||||
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