暖かい雰囲気に誘われる本屋とビストロの入り口。駅から近いのが嬉しい。車も比較的とめやすい。
チッポリー二・オニオンスープ$9。前菜というよりメインとして注文したくなるボリュームと味わい深さ。今日は、ライ麦の厚切りパンが添えられた。
ガスペジのトラウトの薫製、酸味の効いたクリームと2年ものの梨のチャツネ付き$12。スマートに食事を終わらせたいときに。
子羊、チッポリーニオニオン、ズッキーニのオランダソース、人参と野生キノコを肉汁で27$。食べにきた人向けの本命といえる。皿の中のすべての要素が際立っているが、肉汁ソースが全部をまとめている。
ターキー、カリフラワーのロティ、エルサレムアーティチョーク、リンゴのゼリー、アイスサイダー(リンゴ酒)のフォアグラ$19。選び抜かれた食材の質がダイレクトに伝わる。一皿でいくつもの料理が楽しめる感あり。
 買ったばかりのMilan Kundera"La lenteur”を胸に抱いて、本屋の通路をくねくねっと奥に進む。目指すはBistro Olivieriの暖かい空間。Côte-des-Neiges駅を出て南にトコトコ行くと、ビストロを併せ持つ本屋Livrairie & Bistro Olivieriはある。本屋というより、雑誌屋のような印象が強いモントリオールの本屋の中にあっては、オーナーの名前を冠するOlivieriは、いまだに活字を通して文化を伝える役割を務めようとする希有な存在だ。その上、美味しい食事ができるレストランを袖に抱えているから、外出を控えたくなるこの真冬でも、わざわざ出かけたくなる場所になっている。ここでは、地中海料理にヒントを得た質の高い料理と、SAQには並ばない個人輸入で仕入れたワインのラインナップが魅力だ。

本屋の奥まで進むと、心地よいビストロと優しいスタッフ(イケメン!)に迎えられる。
本を買っても買わなくても寄りたくなる。注文は英語、フランス語どちらでも相談できる。
「存在の耐えられない軽さ」が代表作として知られるミラン・クンデラの本を買って、ビストロに持ち込む。事前に本屋にあるか電話で確かめ、取っておいてもらったからスムーズに受け取れた。
フランス語の本がほとんどだが、アート本や写真集を眺めに寄るのも楽しい。その後は、コーヒーやデザート、グラスワインなどでさらに充実感を。
その日のメニューは入り口の黒板に。お決まりメニューより廉価な傾向にある。平日は21時、22時まで、土日は15時半まで営業している。
 今日のメニューは店の入り口横に掲げてあるが、寒くて眺める時間が惜しかった。テーブルに持ってきてくれるメニューから選ぶことにする。メニューの紙質、レイアウト、選ぶフォントに始まり、真っ白いノリの効いたナプキン、ミニマルだけど暖かみのある椅子、明かりをうまく使った壁のデコレーション、目につくものがすべて心地よい。席につき、まだ開いてない本を脇に置いて一息つくと、子供のような嬉しさがこみ上げる。ダウンタウンにある大型書店の脇のスタバで、買ったばかりの本を開くのも悪くないが、それとは持ち込む世界のスケールが違う。スタバでは自分の世界がハートのあたりにほんのり灯る程度だが、Bistro Olivieriでは背中から生えた喜びの羽根がパタパタと震え、自分が世界を持ち込んだようになる。

 前菜は5品、メインは6品と多くはないが、似た系統はなくバラエティに富んだ選択肢を用意しているので、自分の気分に合うものが見つかるはず。しかも、前菜も選び方によっては、メインになるほどしっかりしたものもある。例えば、チッポリーニ・タマネギ(イタリア原産の平べったいタマネギ)を使ったオニオンスープ($9)はこの季節にぴったりなあつあつの食べるスープは、これだけでも1食になる十分なボリュームと味だ。地元ビールと薫製ベーコン、熟成した蜂蜜、Louis D’or(オーガニックの生乳から作られるケベックのチーズ。ナッツや果実の香りが特徴)と一緒に料理され、豊かで深い味わいのスープ。形をとどめながらもトロンとしたオニオンとよく絡まる。その一方で、持ち込んだ物語で胸がいっぱい、ワインと軽いつまみ程度の前菜がいい、という人には、ガスベジ産トラウトの薫製+酸味の利いたクリームと梨のチャツネ2年熟成添え($12)がすっきりはまるかもしれない。垂れるソースもスープもなく、ワインや本を片手に、背もたれに身体を預けたままいただける。

メインはこんなものを頼んでみた。

● ターキー、カリフラワーのロティ、エルサレムアーティチョーク(キクイモ)、リンゴのゼリー、アイスサイダー(リンゴ酒)のフォアグラ。$19
● 子羊、チッポリーニオニオン、ズッキーニのオランダソース、人参と野生キノコを肉汁で。$27

 女性の拳ほどの大きさのターキーは、ヘルシー感かつ期待以上のアピールと満足感があった。その弾力は肉の良質さを語り、ソースがかかってない部分でもしっとりして十分旨みがある。ソースは斬新な部類ではないが、誰もが食欲をそそられる安定感がある。また、同プレートに添えられたカリフラワーのペーストが、主役を食うほどの存在感。香り高いフォアグラもつき、1つのメイン皿で2度も3度も楽しめ、気分が高揚する。

 子羊の方は、運ばれてくるのを見たときから罪作りだった。見事なボリューム、暖かみのある彩りと食材、テーブルを席巻してしまう芳しい香り。まさにアタリ!肉の味が良いのは言うまでもなく、付け合せの黄色いマッシュポテトのようなズッキーニソースに鎮座するローストオニオンが取り込んでくる。さっきまでの本への胸の高鳴りを忘れ、口の中で起こる快感に没頭してしまう。定番メニューだからこそ、熟達度やセンスがとわれる料理だ。シャンパン3種を含めたワインリストも充実しており、白ワイン13種類から、6種がグラスで頼め、22種の赤からは4種のグラスワインが選択可能だ($8〜$10)。自家製のデザートは数種類あり(全$7)、コーヒーやココア($2.75〜$4)を頼んで、買った本をぱらぱらやるのもいい。

 ここで味わえるのは、ケベック各地から集められた選りすぐりの食材、いい物へのこだわり、かけられた手間隙や情熱といったものではないか。本好きでなくても、愛しくなってしまうレストランなのだ。その愛を高める理由のひとつに、夏のテラス席がある。店の裏手の植物棚が絶妙な日陰を作り、本を片手に日がな過ごしたくなる。とはいえ、まずは静謐な雪の日に、内側からぽっと暖まるお出かけにどうぞ。

Livrairie & Bistro Olivieri(ビストロ)(HP)
5219 Chemin de la Côte-des-Neiges
(514) 739-3303
Côte-des-Neiges

取材・文:稲吉京子
過去のレストラン
当ホームページ内の画像・文章等の無断使用、無断転載を禁じます。すべての著作権はFROM MONTREAL.COMに帰属します。情報の提供、ご意見、お問い合わせは「左メニューのCONTACT」よりお願いします。
Copyright (c) 1996-2015 FROM-MONTREAL.COM All Rights Reserved