左から、大原英嗣(エグゼクティブ・プロデューサー)、寺西一浩、中島知子、JK
 第38回モントリオール世界映画祭には、日本から17作品が参加した。「ワールド・コンペティション」部門には、『不思議な岬の物語』(監督:成島 出 / 出演:吉永小百合、阿部 寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶ほか)と『そこのみにて光輝く』(監督:呉 美保 / 出演:綾野 剛、池脇千鶴、菅田将暉ほか)の作品が出品。吉永小百合さん、綾野 剛さんらが会場に華を添えた。

 8月21日の開幕式では、 『東京 - ここは、硝子の街』(「フォーカス・オン・ワールドシネマ」部門)の寺西一浩監督、韓国人俳優JKさん、女優の中島知子さんらがレッド・カーペットに登場。翌日の上映では、舞台挨拶も行われた。
 公式サイトから言葉を借りれば、『東京』は「光と闇の中で蠢く哀しい人間の本性」あるいは「究極の“愛”」を描いた作品。主人公のトオルは同性愛者で、大学院生でありながらバーを経営、大規模なイベントを企画するプロデューサーでもある。彼は、日本での成功を夢見て韓国からやって来た青年ヨンと恋に落ちるが、ふたりが「これから」を誓い合った直後に、ヨンは何者かによって殺害されてしまう。そして、物語は20年前に起きた殺人事件や、トオルの周辺で起こる連続失踪事件とクロスしながら、驚くべき場面へと向かっていく……。同性愛を扱うにあたって、三島由紀夫氏の初期の代表作『仮面の告白』をモチーフとして使用、同作品の中で重要な意味を持つ絵画を登場させたり、文章を引用したりといった手法もみられる。寺西監督と中島さんに、お話を伺った。

--- まず、モントリオールの印象をお聞かせください。

 寺西(以下T)「見るからに文化の街だな、と思いました。人が温かいので、居心地がいい」 中島(以下N)「映画祭にはぴったりな街だというイメージがあります。開幕式も、あんまりごてごてしてなくて、さらっとした始まりが洒落てるなと思いました。映画好きが集まっていていいな、と」

--- 2回の上映を終え、『東京』の反応はいかがですか?

 T「たくさんの人たちに観ていただいて、予想以上の反応です。マスコミの記者で、25年間つきあっているという男性同士のカップルが、『(こんな映画を作るなんて)君はすごく勇気があった』と言ってくださって、連絡先を交換したり。映画を通じて、いろんな人たちと知り合えたので良かったですね」

--- 『東京』は、『女優』(2012)に続いて2作目の監督作品。舞台挨拶では、この映画を作ったきっかけについて「日本のカッコいい男の子とその文化、そして三島由紀夫を紹介したかった」と、話されましたね。

 T「前回も国際映画祭(上海国際映画祭、東京国際映画祭)に出品しているので、どうせ映画を撮るんだったら、また海外の映画祭に出してみたいなと思っていました。私は日本で映画を学んだことは1回もなくて、師匠は香港のサム・レオン監督。彼に私の小説を映画にしてほしいと頼みに行ったら、『君は、文章が書けるんなら映画も撮れるよ。最後まで自分の作品を愛してごらん』と言われ、それから香港や中国に6ヵ月残ったんです。レオン監督に会った3日後に、東北大震災が起きて日本に帰れなかったというのもあって、 彼に教えてもらって『女優』を撮った。そのときに『 ボーイズ・ラブとか、生とか死とか、そういうテーマの作品を撮ったほうが、海外の映画祭には受けるよ』と、言われたんですよね。私は、今回の映画を撮る前に<東京ボーイズコレクション>というファッション・ショーをやっていて、周りにはカッコいい男の子がたくさんいたし、ゲイやバイセクシャルの子も多い。それで、彼らの考えかたとかファッションを結びつけた映画を撮ったらおもしろいんじゃないかな、と思いました。ただ、どうせ撮るなら軽い映画じゃなくて、芸術性も持たせたかった。それで、『仮面の告白』を取り入れたんです」

--- もともと三島由紀夫の作品は好きだったのですか?

 T「昔から読んではいましたが、『仮面の告白』については、そういう作品があるなという感覚でしかなかった。ところが、映画を撮ろうと思ったときに、<三島由紀夫>で検索したら、自殺する前の映像がYouTubeにあって。人は何のために生きて、人は誰のために愛して、誰のために仕事をして、誰のために生きていくのか、と。そういうことをスピーチしていた。(筆者注:寺西監督の個人的な解釈と思われる)彼は、それを愛国心ということで例えていた。もちろん、人はひとりじゃ生きていけないし、お金があるだけでも生きていけない。やはり(愛する)対象があって生きていける。そういう思想というか、彼の価値観に、映像を見てピーンときてしまった」

 N「私は今回、2冊くらいざっと読んだんですけど、どちらかというと、ご本人の生活の方に興味を持って、三島さんがよく行かれていた店とかに行ってみました。孤高の人というか、いまだに人を引きつける魅力がある方みたいですけど、ひとつ言えるのは、よく行かれてたお店に行ったらメシがうまかったっていうことですね。(笑)グルメだったのかな。グルメな人は結構好きなんで、そういうところが見れただけでも楽しかったです。文学って、難しいと投げてしまうところがあるので、監督の三島さんという人に対するイメージのなかで、とらえたらいいかなと思っていました」

 中島さんの役は、トオルが通う大学の教授。常に着物姿で、三島の作品について語る“女性”だ。愛なのか、単なる執着なのか、かつての恋人への思いを貫き、そのためには犯罪さえも厭わない狂気を秘めた人物でもある。

--- 難しい役ですよね。

 T「性同一性障害の役を女性がやるっていうのは、すごく難しいと思うんですけど、でも、よくこなしていただいて……」

 N「男になるところからのスタートだったので、どういう精神構造になっているのかがわからない状況で。でも、基本的に、しつこいっていうのは男女に関係ないと思うんですよ。ずっと同じ相手を好きでい続けて、殺人を犯しても悪くないだろ? っていうところまで、自分をある意味解放しているというか。なかなか猟奇的な人で、あんまりいいキャラクターだとは思えないんですよね。(笑)と、思いながらずっとやってました」

--- ご自分の演技を、映画祭のスクリーンで見るのはどんな気分ですか?

 N「単純に、自分を映画館で見るっていうのはこっぱずかしい。(『東京』を)通して観たのは初めてだったんですけど、今回の役っていうのは、ダサい女なんだなと思って(笑)。マジかよ、と。けっこういい女ぶっている感じがあったんですけど、自分の中で崩壊が始まってます。(笑)」

--- 20年前と現在とが交錯する内容ですが、20年という設定はなぜですか?

 T「僕は34歳なので、20年前というと14歳。中学校のときに、同性愛の子が自殺したんですよ。そんなこと、いまはないでしょ、あんまり。でも、20年前はまだ受け入れられてなかった。おネエっていう人たちがテレビには出ていなかった。それから、20年もひとりの人を愛し続けるっていうのは、大変なことだと思うんですよね。 1〜2年では説得力がないので、20年間にしてみたんです。人の気持ちは20年くらいずっと続くというのを表現してみたかった。 人を愛したり、誰かを大切に思ったり、友情か恋愛かの違いはあるかもしれないけれど、性別は関係ないと思うんですよね。 その人が何かをしてくれたから、大切に思って何かを返す。普通のことなんですけど、今の時代にそういうのは薄れてきてるのかなと思ったりします 」

--- 映画以外にも、いろんな活動をされていますね。

 T「自分は小説家なので、ものを書くというのが基本。あと、映画にも出てきた<東京ボーイズコレクション>は2年目で、去年は1万人を動員しました。ファッションというと“服”となるんですけど、それを着る人自身も何十年か生きてきた強い個性を発するファッションだと思うので、そういう意味で、いろんな個性を持った人を集めます。今度のテーマは「バリアフリー」。男の人も女の人も、お年寄りも子供も、障害を持っている人もみんな楽しく、 一体になれるようなファッションショーを、日本から発信していくということをやっていきたい」

--- すべての仕事に共通する思いとは?

 T「やっぱり“人”ですね。人がいるから映画も見てもらえるし、 人が人をつなげてくれる。そこがなかったら、生きてる価値がないと思うんですよね。たとえ大金を手にしても、自分で使うだけでは何も楽しくないけど、好きな人や友だちや家族と一緒にそのお金を使ってこそ、おいしいものを食べておいしいと感じるし、何でも人がいてはじめて成り立つかなと思う」

--- 残念ながら、日本には引きこもりとか、人との関わりを拒絶しているような人も少なくありません。

 T「親と子の関係が変わって、コミュニケーション能力が欠落しているからだと思う。自分には子供はいないけど、 映画にいろんな思いを込めて配信していくということはずっとやっていきたい。僕にとって映画は子供ですから」

 N「ネットが問題っていったら雑なんですけど、ネットがあると、まるで世界に行かなくても行ったような感覚になってしまう。実際に体験するとびっくりすることばかりだし、自分はこうなんだとあらためて思うこともあるんですけどね。何か、自分の本能みたいなものに訴えかけるものがあるから出て行くとか、単純に、人って『楽しそうだな』と思ったら動くものだと思うので、それをもっと映画とかドラマで見せないといけないんじゃないかな。いろんな人間の可能性というものを、もっと映像にして見せてもいいんじゃないかと思います。映像が親代わりになるかもしれないので、日本だからこそ描けるような、情緒のある世界を復活させたいですね。あとは、歌ですね。昔は、尾崎豊のようにビジュアルも良くて、歌っている詞もすべっていないアーティストがいた。でもいまは、いまいち共感できるものがないから、どっか探しに行ってるうちに、家の中に入る、みたいな若者が多いのかもしれない 。ネットの方が速いですからね、探すのは」

--- 『東京』を拝見して、「夢と希望」もひとつのキーワードだと感じました。
自分のやりたいことを 、仲間と一緒に実現できるというのは、幸せなことだと思います。読者にメッセージをお願いします。

 T「僕は、どちらかというと負けず嫌いなんですね。昔、子役時代にある女優さんに『 がまんするっていうことは、どういうことかわかる?』って言われたんですよ。で、『辛抱することですか?』って答えたら、『あなたはね、そういう短絡的なことしかわからないからダメ』って言われたんです。<我慢する>を辞書で引いてみなさい。<自分の意志を通すこと>っていう意味があるんだよ、って。で、辞書を引いたら確かにあった。それで、『じゃあ、我慢をしなければ自分の意志は通らないんですか?』と聞いたら、『そうよ』って 。
だから、映画を撮るとかファッションショーとか、やっぱりすごく大変なんですけど、でも、自分を律して何かを我慢して意志を通さないと、やりたいことはかなわないんですよね。でも、多くの人たちはそれを知らない。だから途中であきらめてしまうし、あきらめるということは、我慢しないということなんですよね。
(fmcの読者の多くは)親元離れてこっちへ来られて、大変なことだと思うんです。私も何の用意もなく香港に行って、日本に帰れなくて6ヵ月いたときを思い出します。30すぎて映画監督を目指そうなんて、けっこうチャレンジャーだなって自分でも思ったくらい。中国語もわからないのに。でも、できるんだなあと思います。 だから、やっぱり、あきらめないで、我慢して、何か形になるまで自分の意志を通すと、夢とかそういうものはかなうんじゃないかなって。若い人は“我慢”できるから。我慢してやってほしいと思う」

 『東京 - ここは、硝子の街』の日本でのプレミア公開は9月13日。

インタビュー・文:關 陽子
ウェブサイト:www.teranishigumi.com

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