(c) Christian Tremblay "LOFT"
(c) Christian Tremblay "LOFT"
(c) Christian Tremblay "LOFT"
(c) Matthias Clamer "La Vie"
ストレッチャーの上がイザベル、ウクレレを持って逆さにぶら下がっているのがパトリック
(c) James M. Bartolozzi "La Vie"
(c) James M. Bartolozzi "La Vie"
(c) Joan Marcus "La Vie"
(c) Natasha Fillion "TRACES"
(c) Valerie Remise "TRACES"
 フランス語の慣用句に、Les 5 doigts de la main(手の5本の指)という言葉がある。5本の指が動いて何かをつかむように、「独立した5つの存在が一致団結し、ひとつの目標に向かう」といった意味らしい。
 7 doigts de la main(7本の指 ー セット・ドワ・ド・ラ・マン)は、7人の個性的なアーティストによって生まれたサーカス・カンパニーだ。シルク・ドゥ・ソレイユをはじめ、世界に名だたるパフォーマンス・グループで活躍していたファーン・シェイン(Faon Shane)、ジプシ―・スナイダー(Gypsy Snider)、イザベル・シャッセ(Isabelle Chassé)、パトリック・レオナール(Patrick Léonard)、サミュエル・テトロー(Samuel Tetreault)、セバスチャン・ソルデヴィラ(Sebastien Soldevila)、シャナ・キャロル(Shana Carroll)の7名が、自由な創作活動を求めて、2002年に設立した。

 最初の作品『ロフト(LOFT)』は、7人の男女の共同生活をコミカルに描いて、地元モントリオールはもとより、世界各国で絶賛された。モダンで都会的な印象の2作目『トレース(TRACES)』は、現在世界をツアー中。そして、3作目の『ラ・ヴィ(La Vie)』は、ニューヨークでの初演から約1年を経た2008年の秋、モントリオールで上演された。追加公演を含めて19回の舞台は、夜ごとスタンディング・オベーションで幕を閉じ、7 doigts de la mainに対する評価を確実にした。
 人生という大きなタイトルを冠した、ダークなユーモアに満ちた大人のサーカス。死後の世界を舞台に、笑いあり、セクシーなシーンあり、哲学的なメッセージありのパフォーマンスは、驚きに次ぐ驚きに満ちている。
 7本の指のうち2本、イザベル・シャッセさん、パトリック・レオナールさんに話を聞いた。

--- 本拠地であるモントリオールでの公演はいかがでしたか?

 イザベル「『La Vie』は、いまの私たちのベスト・ショーだと思っています。モントリオールの人たちは、アート・サーカスのことをよく知っていて、私たちのこともよく理解してくれているところがあるので、観客とのかけあいもうまくいきました」

 パトリック「一方、モントリオールでは、みんながサーカスについて詳しいからこそ厳しい部分もあります。今回の作品はこれまでの2作とかなり違うし、大胆な部分もあるし、演劇的な要素も強い。ニューヨークでの初演から、オーストラリアでの公演を経て、作品も進化しましたが、モントリオールでどのように受け入れられるかには、特に興味がありました」

--- これまでの2作と違うだけではなくて、誰のどんな作品とも違いますよね。「他に類を見ない」という表現がぴったりです。

 パトリック「毎回、そうありたいと思っています。他とは違う、新しいサーカスで魅せたいですね」

 イザベル「もともと7 doigts de la main(以下7ドワ)を始めたのは、新しいチャレンジ、創造の自由を目指して、アイデアを実際に試してみることが目的だったし」

--- 7ドワには、リーダーはいないと聞いています。全員がアーティストでありディレクターだとのことですが、実際、どのように作業が行われるのでしょう? 

 イザベル「最初のイメージは多分、みんな違うと思います。いろいろ話し合い、形が出来上がっていくにつれ、どんどん新しいアイデアも生まれてくる。レゴ・ブロックを積み上げるような感じです。いろんな色や形があるけど、それを使っていったいどんな物が作れるのか、最初はあまりわからない」

 パトリック「みんなでアイデアを交換して全体のストラクチャーを作り上げると同時に、ひとりひとりも個人的に作品を作っていきます。レゴというのはいい表現だよね。7人がそれぞれブロックで何かを作っていて、出来上がったそれを7つ組み合わせると、確かにもっと大きくて新鮮な何かが生まれる」

 イザベル「(新しいショーを創り上げる過程は)とてもオーガニックです。生き物のように変わっていきますね。私たち自身、予測不可能な部分に驚きながら作業を進めていきたいし。まあ、こんなふうになりそうだけど、でも、こうなってもいいよね? と、常に自由であることを許しています」

2作目の『トレース』は、7 doigts de la mainのプロデュース・演出による作品で、実際にステージに立っているのは、彼らが発掘した5人のアーティストだ。オリジナル・メンバーでの新作は、『ロフト』以来6年ぶりになる。

--- 『ロフト』のときと、どう違いましたか?

 パトリック「前回は、まさに混乱そのものでした。みんなで一緒に作ること自体が初めてだったし、特に最初は、辛い場面も多かった。メンバーは、それぞれいろんなカンパニーでソロ・アーティストとして活躍していて、密な共同作業をしたことがなかったからね。でも今回は、みんなで作り上げるというのがどういうことかがわかっていたし、誰が何を引き受ければ、どんなことが可能になるかといったようなことも、以前に比べればより理解されていた。おかげで、プロセスの全体が健康的になりました」

 イザベル「6年前は何もかも自分たちでやらなければならなかったしね。会計から招待客リストの管理まで、もうめちゃくちゃでした。でも、今はオフィスがあって、そういった仕事を担当してくれるスタッフがいる。私たちは、作品作りに集中してエネルギーを注ぐことができます」

--- 個性の強い人たちが、うまくやっていく秘訣は何でしょう?

 パトリック「最終的な仕上がりが最も重要だということ、そして、良い作品を作ることが、カンパニーにとっていちばん大事なんだという基本を忘れないことですね。そのために個人のエゴを消す。難しいですけどね」

 イザベル「みんなエゴの強い人たちばかりだから。はっきりしてるし、頑固だし(笑)」

 パトリック「でも、尊敬し合って一緒にやることを学んでいますよ。最終的な作品が素晴らしいものになることを共通の目標として」

 イザベル「私たちには“7本の指”という名前がついていますが、それは ”1+1+1+1+1+1+1”ではないんですよね。みんなが『これだ!』と感じるときは、それは見事な完全一致。まごうことなき、ひとつの“7”です。でも、たとえば、誰かひとりが自信を失っていて、やりたいことがあるのにやらないほうがいいと思っているようなときに、他の6人が『絶対にやるべきだ! 信じろ!』と説得することもあります。その場合は1+6ですね」
「常に意見が一致するわけではないので、自分の希望が通ることもあれば、通らないこともあります。5人が『ビューティフル!』と感動して、ふたりは『くだらない!!』と吐き捨てるようなこともある。だから、この点では負けたけど、こっちでは勝った、というような感じで、全体が徐々に出来上がっていきますね」

--- 3対4になった場合はどうするのですか?

 パトリック「7人いてよかったよね。6人だったら、倍の時間がかかる(笑)」

 イザベル「でも、実際に多数決をとることは、ほとんどありませんね。数で決めるより、思い入れの強さをはかります。たとえば、4人が賛成、3人が反対したとして、いいと思った4人が『まあ、いいんじゃない?』という感じで、反対派は『絶対いやだ!』という強い気持ちを持っていたら、3人のほうの意見が優先されます。数ではなく、熱意に左右されますね」

 パトリック「そうそう。だから、誰かひとりがとても強く何かを主張していて、6人は興味を示さなかったのに、でも、そのひとりが全員を説得して、じゃあやってみようということになって、やってみたらみんなが納得するという場合もあります。何かやりたいことがあるなら、とにかく強い意志を持つこと。絶対できると信じることが重要だよね」

--- イザベルさんが演じるキャラクターは、重度の精神病患者。観客のリアクションに対する不安はありませんでしたか?

 イザベル「おもしろいのは、メンタルな問題を抱えた家族がいたり、精神の問題を身近に感じている人たちが、『ありがとう』と声をかけてくれることです。『愛情を込めてあの役を演じてくれてありがとう』と。精神的な障害について何も知らない人たちのほうが、ショックを受けるみたいです」

--- 役作りもそれぞれ大変なのでは?

 イザベル「みんな、実際に持っているキャラクターを増幅したという感じだと思います。お固い秘書も、セクシーな女性も、クレイジーな私も……」

 パトリック「僕だけは、普通のままかな」

 イザベル「いや、彼のキャラクターは“どこにでもいる普通の男の人”だけど、実際のパットは全然そうじゃない。他の人にとっては、なんてことのない役かもしれないけど、パットにとって“普通の人”は大変な役でしょう(笑)」

--- まったく別人になる方が、演技はしやすいと聞いたことがありますが。

 イザベル「いろんな演技理論があると思うけど、私の場合は、自分の内にまったくないものは演じられませんね。ただ想像するだけで役になりきることは無理。やっぱり自分自身のなかに同じ要素がないとダメです。だから、今回のクレイジーなキャラクター、あれも私の一部です。(笑)」

 パトリック「確かに、どんな役を演じるとしても、自分の一部を前面に押し出す、というところはあるね。自然に出てくる場合もあれば、かなり努力して出す場合もあるけど」

--- セキュリティーのためのワイヤやマットレスなど、一切使いませんね。才能も経験も豊富だとはいえ、やはりすごいなと思います。

 パトリック「それがサーカスのエッセンス。僕らが好きな部分です。僕らのパフォーマンスには、ダンスや演劇的な要素もいろいろ加わっているけど、基本はサーカス。命にかかわるリスクを負いながら、人々を楽しませる。それこそがサーカスの醍醐味ですね」

 イザベル「演じる側にとっては、精神ゲームのようなところもあるしね。恐れをコントロールすること。大丈夫だと思ったときこそ、ミスを犯してしまう可能性がある。危険なことをやっているのだという意識に圧倒されてしまうと、今度はパフォーマンスに悪く影響する。とにかくコントロールしなければならないんです。そして、私たちのそういった緊張感は、観客にも伝わるはず。アエリアル(空中演技)では、見る側のテンションも高まっていると思います」

--- 開演前、集中力を高めるために何か特別なことをしますか?

 イザベル「パットは、そこら中を走り回り、跳び回って音を立てていますね。走りながら、通り道にある物に頭をぶつけてみたり、つま先で蹴飛ばしたり、うるさいです。(笑)多くのアーティスト、たとえばサム(サミュエル)なんかは、本番前はヨガで精神を落ち着けたり、ひとりきりになって誰とも話さずにいる。集中する方法としては、わかりやすいですよね。でも、一方には、大騒ぎをして、とてもじゃないけど精神を集中させているようには見えない人がいる(笑)。セブ(セバスチャン)は、ステージに向かう5分前にいきなり現れて、『OK、行くぞ!』という人だけど、その瞬間まで2時間は心の準備をしている。彼なりのやり方でね。ひとりひとりみんな違います」

--- あなた自身は?

 イザベル「1時間くらいは、ストレッチなどでウォーミング・アップをします。体の準備には1時間くらいかかりますけど、自分をキャラクターにスイッチするのは本番5分前です」

--- 新しい試みとして、ディナー・ショーを始めるそうですね。

 パトリック「まずは『La Vie』をアレンジした内容でやりますが、夏にはディナー・ショーであることをふまえて、新しい作品を作る予定です」

 イザベル「『La Vie』は、食べることも深く関係しているので、ディナー・ショーにはぴったり」

 パトリック「ただ、多少問題があって。みんな死んでいて、痛みも何も感じない、という設定を、味覚だけは残っているということにしなきゃいけない(笑)」

--- さて、これまで6年間の活動は素晴らしい成果を見せていますが、今後の目標は?

 イザベル「もっと、もっと、たくさん作品をつくっていきたい」

 パトリック「いま、テレビ用のプロジェクトを進めていて、パイロット版を2本作ったところです。1本が5分くらいで、50くらいのストーリーがすでにできている。これで30分くらいの番組を作りたいと思っています。舞台に関しては、『トレース』の第二弾を作る予定です」

 イザベル「やることはいろいろありますね」

 パトリック「世界中、あらゆる場所で公演したいと思っています。同じコンセプトで同じように演じても、ドイツと中国とモントリオールでは、まったく反応が違うしね。『La Vie』は、モスクワで公演されるので、セブはロシア語を勉強しています」

 日本では『トレース』のダイジェスト版が2006年に紹介されたことをのぞけば、7 doigts de la mainのライヴはまだ知られていない。
 上演する土地に合わせて内容もアレンジする彼ら。「いつか必ず、日本でもやるよ」と話しながら、「『La Vie』の輪廻転生バージョンとか、おもしろくない?」と、すでにアイデアを巡らせている。

インタビュー・文:關 陽子
ウェブサイト:http://www.les7doigtsdelamain.com

La Vie』のディナー・ショーは、2月24〜26日、オールド・ポートの会場で行われる。詳しくは、ハイライツ・フェスティバルのプログラムを参照。

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