モントリオールも他の都市と同じように多くの無料情報誌がある。地下鉄の駅、カフェ、CDや書店の店先に設置された専用ラックに積まれるものだ。多くは新聞紙のような紙質で毎日発行されており、ニュース、エンターテインメントなどを取り扱っている。中には、高品質の紙を使用しカラフルでアーティスティック、無料とは思えないしっかりと製本された無料情報誌も存在する。その多くはナイトライフ、ファッションなどひとつのトピックを取り扱ったものだが、「モントリオール」というキーワードをもとにモントリオールに関するあらゆるトピックを各号毎に特集している情報誌がある。昨年夏から発行されているこの無料情報誌「JUST」の大きな特徴の一つは、英語とフランス語の完全バイリンガルということである。モントリオール無料情報誌の中でも際だつ「JUST」の編集長Peter Metz氏に話を聞いた。

--- モントリオール出身ですか?

 「はい、レバノンで生まれましたが、9歳からここで育ちました。実は今日でちょうど17年目になります。」

--- 経歴について簡単にお聞かせください。

 「僕はコンコーディア大学でファイナンスとマーケティングを勉強しました。そして同時に船舶運送業界で両親のもと働きました。でも、僕が本当に興味を持ったことではなかったので、情報誌を始めることにしたのです。モントリオールについての情報誌です。なぜなら、僕はここで育ったし、モントリオールが大好きで、モントリオールの人々も大好きだからです。ここは僕の故郷だし、今まで得た全てのもののお返しに、今度はモントリオールのために何かすべきだと思ったんです。だからこの雑誌は基本的にモントリオールに関すること全てです。」

--- どのようにしてJUSTは始まったのですか?

 「創刊号は2004年8月でした。そして、10月号、11月号、12月号と続き、第5号が2月号です。基本的に始めは小さなアイデアからスタートしました。小さなアイデアを、チームで発展させて形にしていったのです。」

--- 何人くらいのスタッフがJUSTの作成に関わっていますか?

 「それぞれの号によって異なります。EditorMarketing DirectorCreative DirectorPhotographerGraphic Designerが二人、これは基本的にフルタイムですが、他のジャーナリストはみんなフリーランサーです。全部で15人から20人くらいのジャーナリストがいますが、主に記事を書いているのは10人から12人くらいです。」

--- JUSTのミッションはなんですか?

 「僕らのミッションはモントリオールをモントリオーラーに、そして観光客に紹介することです。最近、ちょうどそのことについて話し合ったんですが、モントリオールは実に多くの魅力にあふれていて、住んでいる人もまだまだ知らないことがたくさんあります。僕ら自身もモントリオールについて大いに勉強になりますし、皆さんに伝えたいことが山ほどあります。例えば、アイスホッケーはモントリオールの伝統の一部ですが、現在ホッケー界で何が起こっているか、モントリオーラーが小さい頃から慣れ親しんできた伝統の一部であるホッケーがどういう状態にあるか読者に伝えることも僕らの役目です。今ホッケーがテレビで放映されなくなったり、より商業的になることで、モントリオールの人々があまりホッケーに興味を持たなくなり、伝統の一部を失いそうになっています。そういう状況も含めて、モントリオールについて読者に知らせることが僕らの役目だと思っています。だから、毎回特集は異なりますし、トピックはつきることがありません。今まで6ヶ月で、すでに山ほどのアイデアがあります。 」

--- 2月号でアイスホッケーについてのThe Unions of Fansというイベントの企画もなさっていますね。

 「モントリオールではアイスホッケーはとても重要なスポーツです。日本で相撲が国技であるように、モントリオールの人々にとってアイスホッケーは特別なのです。そして現在、ホッケーチームのオーナーとチームの間に問題が発生しているのです。オーナーはチームにギャラを支払いたくなくて、チームはプレイすることをやめてしまったのです。だから、1月16日にParc Lafontaineで多くのホッケーファンが集まるイベントを開催しました。彼らはプラカードなどに「ゲームが見たい」と書いて集まりました。僕らは200から300の署名をあつめることができました。そして2月号はその特集を組み、ホッケー好きなら誰もが読んでいるというモントリオールの新聞La Pressのジャーナリストからも記事を書いてもらいました。」

--- モントリオールではバイリンガルの無料情報誌自体が少ない上、このように毎号特集の異なるものは見つけられなかったのですが、なぜバイリンガルなのですか?

 「一般的にカナダ自体がバイリンガルであるはずで、カナダ人は英語とフランス語が話せることになっているのです。でもケベックシティをのぞいてはほぼモントリオールが唯一の英語とフランス語のバイリンガル都市です。モントリオールの人々はひとつのセンテンスの中で同時に英語とフランス語を使用したりします。ですから、英語かフランス語のどちらかだけ、あるいは英語で作ってそれをフランス語に翻訳するようなことはしたくなかったのです。ここに住む人は両方の言語を知るチャンスがあります。せっかくあるのですから、両方話せるようになる努力をするべきだと思います。モントリオールに住むには、バイリンガルであることが必要とされます。僕らはできるだけモントリオールの多くの側面を反映させたいと考えていて、バイリンガルであることはその一部なのです。今まで読者からたくさんのフィードバックを得ましたが、その多くが、雑誌が完全にバイリンガルであって翻訳でないことに好意的です。他のバイリンガル雑誌の多くはどちらかの言語で書かれ、それが翻訳されています。翻訳されると、その時点でオリジナルとは異なるものになってしまいます。僕らはそれぞれの言語に誠実でありたいのです。だから、できるだけ英語とフランス語が半分ずつになるようにしています。

 現在フランス語でのスローガンがあって、英語版を今考えている所なんですが、それは「Découvrir et Réfléchir」といいます。意味は、「新しいことを発見してそれについて検討したことを反映させる」ということです。僕らはモントリオールについて新しいことを発見して、それについて考えて、それについて教えます。僕ら自身がモントリオールについて学んでいるのです。JUSTはエンターテインメントマガジンですが、モントリオールについての様々な側面を教えてくれる雑誌なのです。多くの雑誌はナイトライフ、スポーツ、家具、インテリア装飾、ファッション、男性誌、女性誌など、それぞれひとつのトピックを選んで編集されていますが、僕らはできるだけ多様な側面からアプローチするようにしています。モントリオール自体が実に多様性のある街だからです。実に様々なバックグラウンドをもった人たちがいるのと同様、様々な興味を持った人たちがいるからです。JUSTの編集部自体も様々なバックグラウンドを持った人で構成されています。僕自身、僕の父もドイツ人とベトナム人のハーフだし、僕の母はアルメニア人です。母の両親もトルコ人とのハーフです。スタッフメンバーもケベコワ、フランス出身、エジプト出身など様々で、雑誌を作成するのにとても役立っています。僕らは日常的に多様性に囲まれているのです。だからこそ、このような雑誌をつくることにとても満足しています。JUSTは僕ら編集部が反映されたものであると同時にモントリオールという街が反映されたものなのです。また、ひとつのトピックのみ、例えばスポーツだけ、ナイトライフだけに興味のある人々だけをターゲットとして雑誌を作らずに、音楽、アートなど、いろいろなトピックを取り扱っていきたいと思っています。」

--- 有料化することは考えなかったのですか?

 「いいえ。最初から、現在でももちろん、それは考えていません。無料であるということの有利な点はたくさんあります。僕は昔から雑誌が好きで、JUSTも世界中の何千もの雑誌から影響を受けました。JUSTのチームはとてもクリエイティブで、もちろんテキストやデザイン、写真もですが、マーケティングに関しても、他の無料情報誌とは異なったコンセプトでアプローチし、ただ広告を出して印刷して終わり、という形にはならないようにしています。もちろん、僕ら自体を売り込んでもいます。それに、デザイン面でも雑誌自体をとっておきたくなるようなものにしています。 」

--- JUSTの今後についてどうお考えですか?

 「多くの人がJUSTのことを知り始めているし、きわめて明るい未来が待っていると思います。たくさんのフィードバックももらっています。たいてい発行後2週間くらいで最低、日に5通以上のメールをもらいます。5〜6年くらいも会っていなかった高校時代の友人と偶然であって何をしているか話している時に、そういえば今JUSTという雑誌を作っているというと、「それならいつも読んでるよ!」という答えが返ってきました。多くの人が読んでいるという実感を得ています。」

--- JUSTのターゲットとしてどんな人々を読者と想定しているのでしょう。

 「モントリオールではどんな人々にとってもこの街に居場所があります。ここでは男性、女性、ストレート、ゲイ、バイセクシュアル、国籍、宗教に関係なく友達です。誰であれ何処出身であれ関係有りません。JUSTもそれには関係なく、ただ25歳から44歳という年齢のカテゴリーだけターゲットとしてもうけています。多くの雑誌は18歳から35歳、または45歳という年齢をターゲットとしています。35歳から44歳というのはターゲットとしては難しいですし、18歳から25歳というのはパーティやナイトライフにより興味があります。24歳から44歳というのは実に多くの人々が何かについて、街について学びたいという意欲を持った年齢層だと思います。無料情報誌にかかせない広告のことを考えても、金銭的にある程度余裕を持った層だと思います。これが基本的なターゲット層のカテゴリーです。特に何処出身ということはなく、言語の上でも完全にバイリンガルということで、英語ともフランス語とも分けていません。

 僕らは毎回、どんな人にとっても興味深い内容になるように記事を制作しています。例えば、今回はアイスホッケーについての特集でしたが、例えアイスホッケーについて興味のない人にとっても面白いと思える誌面作りをしました。そして、次回はいったいどんな内容なんだろうと興味を持ってもらえるような雑誌作りを目指しています。僕らが得るフィードバックも85〜90%くらいターゲット層にあっています。でも例えば、19歳くらいの若い人たちも読んでいるし、僕の友人は友人の祖母の家でJUSTを読んだと言っていました。それも素晴らしいことだと思います。 」

--- 何故JUSTという名前にしたのですか?

 「いい質問ですね(笑)。僕らは何度も考え直しました。このタイトルが素晴らしい、と思っても次の日にはなんでこんなにさえない名前を考えたんだろうと想ったこともありました。そして何度目かのミーティングの中で、僕が「タイトルはそんなに複雑であるべきじゃない、もっとシンプルにすべきだ、ただのタイトルじゃないか(Just the title)!」と言ったのです。僕が2回目にそれを言ったとき、僕らは顔を見合わせて、「Just the title!」と言い合いました。そしてJUSTになったのです。実際「ただモントリオールについて(Just about Montreal)の雑誌」なのです。」

--- いろいろな国にも旅行なさっているそうですが、モントリオールと他の国々との違いを感じましたか。

 「もちろんです。ヨーロッパの多くの国々、アメリカ、エジプト、中東、中国などを訪れましたが、それはもう明らかに違います(笑)。まず、モントリオールは、実にたくさんの人が世界中から来ていて、それが一つの街の中で混ざり合っていることです。それがまず街をより魅力的にしています。例えば、様々な国の料理を食べることができます。街はヨーロッパと北アメリカの文化の混合で、とても面白いと思います。僕は雑誌を作っている関係でいろいろなイベントに参加しますが、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど様々な国から来た人々に会います。中国に行ったとき、どこ出身か尋ねられました。モントリオールと答えたら、「カナダのモントリオール、知ってるよ。素晴らしいところだよね。僕のいとこが住んでいるんだ」と言われたこともありました。モントリオールは僕の一番好きな街です。いろいろな都市を訪ねましたが、もちろんその中にはとても美しい都市もいくつかありました。でも、僕は他の都市に自分が住むということは考えられません。僕が生まれた街レバノンでさえ、僕は心地よく過ごすことができません。モントリオールはビジネスと楽しみの都市です。それこそがヨーロッパ的な側面を持つと言われる所以だと思います。ヨーロッパの人々はよりリラックスして人生を楽しむことを大切にしています。でも北アメリカの人々はいつも、働かなきゃ、お金を稼がなきゃ、と考えていることが多い(笑)。だからモントリオールはビジネスと楽しみの混合なのです。ここでは飽きると言うことが決してありません。毎晩、ここの人々は仕事以外で何かやっています。ただ出かけてバーで飲んだり食事をしたり、ということだけではありません。いつも人生を楽しんでいて、人々はとてもアクティブで大衆的で社交的なのです。 」

休日があったら今度は日本を含むアジアへ是非行きたいというPeter Metz氏にとって、この雑誌作りが初めての仕事である。多様性の中から生まれた、多様性を大切にする雑誌の今後が楽しみである。

JUST MAGAZINE
www.justmag.ca

取材・文:後藤さおり
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