モントリオールで生まれ、ラシーンで育ち、生粋のケベコワのピエール・ルセル氏はキャリア19年目になるフォトグラファーだ。Vieux-Montéal(ビウ・モンレアル)で写真学を学んだ後、L'Actualité(ラクチュアリテ), MacLean's(マクリーンズ)、Newsweek, Getty Images(ゲティ・イメージズ)などの雑誌社や、ファンタジア映画祭等の撮影も手がける。現在ではオールドモントリオールのノートルダム通り沿いにスタジオを構え活躍の場を広げている。明かりを抑えてある石造りの落ち着いたスタジオからは、オールドモントリオールの石畳が新鮮に映った。出された紅茶に砂糖が溶けるのを待った後、我々はインタビューをはじめた。

--- なぜフォトグラファーになったのかを聞かせください。

 「楽しいからです。このキャリアをはじめて19年になるけど、通常の職業と違って仕事の内容から作業時間にいたるまで様々なんです。だからあちこち渡り歩けるし、色々な人に出会えるのがフォトグラファーの魅力。何より自己表現ができる。」

--- どのような仕事をするのでしょうか?

 「フォトグラファーとは、文字通り写真を撮ることで収入を得る人。しかし撮影する写真は多伎に渡ります。広告・宣伝用写真、報道・企業のカンファレンスの記録写真、芸術写真など、たくさんの分野に分けられる。他にも建築物や、最近は減らしてきているけど、雑誌の仕事もしています。撮影した写真は雑誌やテレビを通してメディアに流れます。他には個人が行うウェディングなども引き受けることがあるけど、大部分は企業相手で、個人撮影などは本当に私の関わる小さな仕事の一部ということになる。それでもその時々によって仕事相手が変わりますね。」

--- 仕事内容に変化があるというのは?

 「時代の変化にともない、フォトグラファーの仕事も変化します。路線変更が主たる変化で、80年代後半までは人物のポートレイトの依頼を重点的に請けてきましたが、1991年ごろ、湾岸戦争があった年、不景気などもあり近年では企業などの仕事の依頼を多く請けるようになりました。」新市場開拓などの行動力がフォトグラファーには重要で、常にひとつのテーマに沿って仕事をするわけではないとルセル氏は語る。

--- フォトグラファーとしての難しさは?

 「私の場合だといわゆるコーポレーションではなく個人で働くので、規模が小さいながら、一人で様々なことをこなします。そういった意味で簡単ではないですね。たとえば会社の経営もそうだし、情報の収集なども自分でしなくてはならない。それにフォトグラファーといっても千差万別です。大型一眼レフを抱えてスカイダイビングする者もいれば、重いボンベを背負って海底に潜るなんてことをする者もいる。私の場合はそれは苦手ですね。一度や二度は試したんですが、スポーツをあまりしないものなので。でも最も難しいスキルは光の認知なんです。光というのは出来上がる写真を随分と変える。その時々に最適な光の強さや方向があり、その加減によって被写体をより自然に表現したり、味わい深いものにします。だからスタジオ撮影とは違い、屋外の自然光を使った撮影がより面白く、難しくもある。まずフラッシュが使えないし、建造物などを撮影する場合には納得がいく光を得るのが大変ですね。写真をとる時間やその日の天気も重要だし、何より光を理解するセンスと根気が大事になってくる。光が被写体の印象をくるくる変えてしまうわけだから。いいカメラって物はお金を払えば買えてしまうんだけど、写真を撮るのはあくまでカメラではなくて人間なんです。つまり光の捉え方を理解してそれを実践で応用できないと良い写真ができない。最近の新しいカメラは、オートフォーカスや自動絞りなんて物がついているけど、質の高い写真を撮ろうとしたら役立たずだとおもいます。絞りや焦点が全部自動だから、光を意識するという習慣を忘れてしまう。それではよくないんです。本当に細部にこだわった調節が写真をよくするのに、全自動だとそれがやりにくくなってしまう。良い写真は人間自身が取るものだからね。」

--- 職業として、フォトグラファーとしてのいいところと悪いところとはなんでしょうか?

 「前にも言ったけど、いろいろな所にいけるし、たくさんの人々と関わりあう事ができるところだと思う。嫌なところといえばダイアナ妃の事故前後から始まったフォトグラファーに対する偏見ですね。パパラッチって知っているでしょう?イタリア語で蚊って言う意味で、もちろんいい意味合いは含まれてない。こうるさくてわずらわしい連中だという我々に対する揶揄です。雑誌が有名人の記事を書くために、フォトグラファーがスターのプライベートを追うことがあります。でも、一部の過激なフォトグラファーがあまりに行き過ぎているからそれが社会問題になって、全体としてのフォトグラファーのイメージが悪くなってしまった。でもこれはとんでもない話しだし、皮肉だと思う。スターはパパラッチを煙たがって敬遠するけど、スターがそういったフォトグラファーを必要としていることは一番確かな事なんだ。スターが一ヶ月でも雑誌から姿を消したらどうなるか?一番困るのはセレブレティ達本人たちでしょう。でも、間違っても私はパパラッチではないですよ。」

--- フォトグラファーの魅力はやはり人と関わりあえるこというのを具体的にお願いします。

 「近年は全体として企業との契約を増やして物を撮影する機会が増えているとは言ったけど、やはり人間を撮るのが楽しいです。フォトグラファーっていうのはフィールドごとにそれぞれの専門家がいるんですけど、私は人間専門です。人との係わり合いが好きっていうのもあるけど、被写体が誰であっても平等に接することができるっていう自分の強みがよく生かせていると思う。たとえば有名人や業界の大物が相手だと、中には尊大でやりにくいことがあるんだけど、私はそういう人でも“Hi”と握手を差し出して普段どおりにやる。下手に媚びたり、ご機嫌を伺ったりしないんだ。でもちゃんと相手を尊敬する。難しい相手ではあるんだけど、こうすることでフォトグラファーとその人との関係がよくなって、おのずと写真がよくなるんですよ。こういう瞬間が人との関わりあいですね。それとは別に難しいのが映画俳優の撮影なんです。というのは私の場合は、俳優が写真の中で映画の役柄を出しきれる事にこだわっているというところがある。そうすることで読者にもその俳優のイメージをより多く伝えることができます。ところが毎回撮影の前に映画の下調べができるわけではないから、イメージ作りがうまくいかなくて、写真が納得のいかないものになることもあります。一番大事なのは被写体を知ることなんです。短い時間しか与えられてないことが多いから、この部分が一番難しいんだけど、私は好きですね。」

--- ファンタジア映画際の仕事を見つけてよかったというのは?

 「もちろん仕事も出来て映画も見られる、一挙両全だからです。趣味が映画鑑賞と海外旅行ですから。ファンタジアはアジアの映画が見られる貴重な機会。忙しくても映画祭には毎年足を運びます。ハリウッド映画じゃないという理由もそうだけど、アジア映画の独特なあり方が好きな理由ですね。リアリティを追及しているハリウッド映画よりも、割り切ってコメディならコメディと楽しめる。旅行ではプライベートでフィリピンに頻繁に行きます。フィリピンでは物価も安いし、なにより英語をしゃべるから。フィリピンの多民族的な雰囲気が落ち着きます。文化や食事、生活習慣など多くの部分で欧米化が進んでる一面を持ちながら、ちょっと大通りから外れればとたんに昔ながらの露天商があったり。人々も華僑やインドネシア系、スペイン系と多彩。カトリック教徒が多いという点でも他のアジアの国々とは違うと思う。日本人みたいに礼儀正しかったりもするし、ナイスな人たちだよ。」

--- 日本にも行ったことがあるんですか?

 「それが行ったことあるんですよ。とはいえ、成田空港だけですが。飛行機の遅れで空港のホテルに一泊することになったんです。」

--- 日本はどうでしたか?

 「興奮して全然眠れませんでしたね。映画の“ロストイントランスレーション”をご存知ですか?あれと一緒です。日本という場所がすごく印象的で刺激的だった。何もかもがすごく綺麗で清潔なんです。見たことが無いってぐらいに。映画の中で言葉のわからない主人公が日本社会の中で迷子になってしまうっていう描写があるけど、似たような経験をした。ああ、今何がおきているんだろう。僕は置いてきぼりだ!ってね。たしかにロストイントランスレーションは日本の表面的な部分しか映していないんだけど、それでも外国人が日本に着て生ずる混乱をよく表現していて面白かったと思います。」

--- 今後の仕事の展開を教えてください。

 「フォトグラファーの活動はより精力的、活動的になると思います。今後もより多くの人脈や契約を手に入れられるように、技術や写真の出来はもちろんのこと、経営面での高いセンスも要求されるようになるのではないでしょうか。デジタルカメラなどの道具の発達は、消費者がより手軽に高品質の写真を撮れるようにしている一方で、フォトグラファーの間の競争率を高めているという現状があります。競争は結果として職人の技術を洗練させるでしょう。将来的にみて、消費者がより安く、より上質な写真をフォトグラファーに依頼できる日が来ると思います。」

Pierre Roussel
IMAGES PHOTOGRAPHY (HP)
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Tel: 514-984-8526 Fax: 514-288-4054

取材・文:西尾 健
水島真理
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