カウンターテナー。果たして何人の人がこの言葉の本当の意味を知っているのだろうか?カナダCBC放送局から美しい声のカウンターテナー3人を挙げるとすれば、彼は間違いなくその3人の中に入るであろう。David Dong Qyu Lee、彼は13歳でバンクーバーに移住し、18歳という若さでプロフェッショナル舞台にデビューを飾った。19歳から現在に至るまで多くの国際コンクールに参加し、数々の賞を獲得してきた。1997Rosa Ponselle国際ボーカルコンクール、1999Metropolitan Operaコンクールにおいては最年少で入賞。1996年から2000年にかけて、Academy Of Music大学で4年間奨学金を受けながら音楽を学ぶ。今年の夏、世界的にも有名なATMA Classiqueレーベルで彼はデビューアルバムをリリースした。

--- カウンターテナーというお仕事はあまりないお仕事ですよね?この仕事を選ばれたきっかけを聞かせて下さい。

 「私は小さい頃からソプラノの声質を持っていると周りの人から言われていました。18世紀の有名なカストラートのお話である、フランス映画"Farinelli, il castrato"を見て、本当に心を奪われて是非こんな風になりたいと思ったのです。」

--- 何故、バンクーバーからモントリオールに地を移したのでしょうか?

 「初めにトロントに移動したのですが、正直言うとあまり居心地が好くなかったのですよ。モントリオールには前からとても興味がありました、是非住んでみたいと。そんな時に、ATMA Classiqueからのお仕事のお誘いがあり、モントリオールに来るきっかけとなったのです。」

--- 西洋音楽と東洋音楽とでは声質の違いなどはあるのですか?

 「特にこれといった違いはないですね。私達の国、韓国や日本のクラシック文化は海外から取り入れられたものですし、クラシックが広まるのが遅かったこともあり、海外の人のようにクラシックの背景や歴史などをあまりよく知りません。カウンターテナーの始まりはカトリックの教会からだと言われています。昔は、高音のパートであるソプラノとアルトをボーイソプラノが担当していたそうです。しかしながらボーイソプラノは表現力に乏しく響きが弱いといわれ、さらに豊かに表現ができるようにとアルトは成人の男性が担当し、ファルセットを使って歌うようになったのです。たとえばシェイクスピア劇を見ても、女性はもともと大声を出す力がないので、全ての役を男性が演じているのですよ。」

--- 西洋と東洋の教育についてはどのようにお考えですか?

 「僕がカウンターテナーを始めたときは、何をどのようにしたらいいのか全く分かりませんでした。その後映画を観ることによって、何がカウンターテナーなのか、そしてどのように男性が女性のように歌うのか等沢山のアイデアをそこから学びました。カウンターテナーについては、バロック音楽専門家だけが本当に詳しく知っていると言われています。東洋の教育は、『先生が言ったことは必ずしなければならない』というような風潮があり、多くの自由がありません。そのため、視野が狭くなってしまうような気がします。それに対し、西洋では、先生は『私達に何か問題があった時だけアドバイスをする』という教育のスタンスをもっています。たとえば『勉強はしたいときにだけしなさい』というように私達一人ひとりを理解してくれているのです。東洋文化のように先生はボスという立場ではないのです。だからこそ西洋人はとても心が広く、相手の気持ちや考えを理解出来るのではないでしょうか。その中でも特にカナダは様々な国、異文化を多く受け入れている国だといえるでしょう。学校という場においても、たとえば韓国では交換留学生という限られた範囲でしか多国籍の人に出会うきっかけがないのに対して、ここカナダでは本当に沢山の国の人々に出会うことができます。そして、出会いをきっかけにより多くの情報を得ることができます。本当にカナダ教育は素晴らしいと思いますね。」

--- 今までに出会った人の中で、最もあなたの人生に影響を与えた人はどのような方ですか?

 「18歳の時の私の先生Phyllis Mailing (Messo-Soprano)です。彼女はカナダでとても有名な女性です。彼女は子供がいなかったので、私を息子のように可愛がってくれました。とても近い存在の先生でしたね。彼女からは、音楽・生活に関しての前向きさ等、本当に沢山の事を学びました。私がここまで成長したのも彼女のおかげでもあります。」

--- どのようにここまで学ばれてきたのでしょうか?

 「17歳の思春期を通り過ぎたけれども私はソプラノの声のままだったのです。それをきっかけに自分で独学をして音楽大学に入りました。その際、先程紹介した先生に出会いました。彼女はカウンターテナーの先生ではなかったのですが、彼女が私を今この道に導いてくれたのです。」

--- これからの試みは?

 「私は歌うことで仕事ですからオペラやコンサートを今まで通りにやるのと同時にヨーロッパに是非住んでヨーロッパの文化を体験してみたいですね。」

--- ヨーロッパの中でも特に行ってみたい国だとすれば?

 「ドイツですね。沢山の音楽の背景がそこにはあるのです。モーツアルト、バッハ、ヘンデル、シューマン、シューベルト、ブラムス、マーラー等の作曲家達が育った土地でもあります。とても大きな音楽背景がドイツにはあるのですよ。そしてそこに足を踏み入れて彼らは何をしていたのか、その文化に触れてみたいです。多くの教会も訪れてみて以前の音楽風景のイメージも得られることでしょう。ドイツには又、沢山の劇場もあるので、見て、住んで、歌いたい場所ですね。2006年オーストリア、ビエナにオペラのコンサートの仕事があるので、今からとても楽しみです。」

--- カウンターテナーという仕事として得た財産には、どのようなものがありますか?

 「オペラは自分を演じることが出来るし、歌うこともできます。それと共にオーケストラと共同作業が出来るのです。私は人と接するのが大好きなので、オーケストラは本当に楽しみながらやっていますね。」

--- 今まで演じた中で最も印象に残っている作品といったら、何を思い浮かべますか?

 「モーツアルトのLe Nozze Di Figaroです。13歳の役でした。私の背丈は6フィートなのでステージ、キャスト、全てを大きく表現しつつ、13歳の役なので小さく見せるという構成でした。あの時は、とても面白い役でしたよ。私がステージに立つときは他のものにフォーカスを置きます。そして自分を完全に消します。舞台では突然何が起こるか分からない、それが毎回新鮮で刺激があります。私は2つの顔を持っていて、ステージに上がると全く違った顔を見せます。当然、眼鏡もはずしますし、身につけている服も違うわけですが、舞台下の私は、子供のようです(笑)だから私の事を気づかない人も中にはいるのです。より刺激ある生活を送るために、変化を大切にしています。だからこそ、沢山の場所へ移ったりして変化を楽しんでいるのです。いつか一つの場所に定着したいですね(笑)バンクーバーですかね。山に近いので穏やかですよね。」

--- どの位の割合で練習はしているのですか?

 「私は怠け者ですよ(笑)1週間に3回位です。1日に1、2時間の割合です。他のピアニストやバイオリストは10時間位1日に練習しているのですよ。私の声はピアノ等と同じように楽器なわけですから、扱いには注意しなくてはいけません。沢山使い過ぎると痛めてしまうので、リラックスすること、どの位自分が練習することが出来るのかを知らなくてはいけないです。最多でも、1日に練習出来る時間は2時間ですね。」

--- 喉に関して、本当に大切に扱わなくてはいけませんよね。何か食に関して気になさっていることはあるのでしょうか?

 「私はスパイシーの食べ物が大好きなのですけれども、コンサートの前の一週間は食べられないのですよ。特に当日は絶対ですね。そしてアルコールです。個人差はあるのですが、嬉しい事に赤ワインだけは、私は大丈夫なのです。私の体は本当に敏感なのでいつも食に関しては気にかけています。1週間という期間スパイシーの物を食べられなかったので、コンサートの後は好物を食べるのが日課ですね(笑)」

 今年大晦日のコンサートに出演するために、韓国国民アートセンターから招待状を受け取った。バンクーバ交響楽団とバンクーバー・バッハ聖歌隊と共にメシアを歌う。大みそかのソウルアートセンターからの誘いでは、新しいIncheonアートセンターのジャズクリスマスコンサートの為に、彼の初のRonn Brantonジャズバンドと開催地とを協調させるコンサートをする予定でもある。又、バンクーバーアカデミー・オヴ・ミュージックにより後援された彼のソロリサイタルの為にバンクーバーに帰国し、ケルナーリサイタルホールにおいてもコンサートが企画されている。一ヶ月程韓国に滞在する予定の大忙しの彼。女性にも優るとも劣らない繊細な音を奏でられるからこそ、私達が魅了されるのだろう。

David Dong Qyu Lee氏のホームページ:daviddongqyulee.tripod.com
彼のCDは以下で取り扱っている。
HMV, ARCHAMBAULT

取材・文:水島 真理
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