モントリオールの街角やレコードショップで目にするシルクスクリーンポスターの殆どを手がけるというデザイン事務所Seripop。独自のユーモアとデザインに対する挑戦的なアプローチでモントリオールの音楽関係者から絶大な支持を得るSeripopの2人、Yannick DesranleauChloe Lumを紹介しよう。人通りも疎らで廃墟と化したレンガ造りの工場が目に付くSt-Henry界隈は、レンガの赤茶とプレハブ倉庫の錆色が電線の掛かった高い空に映える。線路と平行に長屋状に続く元倉庫の一室にあるSeripopのシルクスクリーンスタジオで話を訊いた。

--- Seripopという名前の由来は?

 YannickSérigraphie Populaireというのが正式名称で、ポピュラーなシルクスクリーンっていう意味。勘違いされることが多くて人民の為のシルクスクリーンだと思ってる人も多いんだけど(笑)。

 Chloe >そうなの。私たちはちょっと古びた広告文句みたいなネーミングが好きだけど共産主義者みたいだって勘違いされる(笑)。色んなスタイルのポスターを次々と作ってるせいかSeripopはアート集団だと思われることもしょっちゅうだし。Sérigraphie PopulaireSeripopに短縮することで英語人口にも伝わりやすいし、私たちはシルクスクリーンプリント以外のことも手掛けるから近頃はSeripopって名前を使うことにしてる。

--- Seripopの起源は?

 Yannick >元々僕らは同じバンドのメンバーで自分たちのプロモーションを手掛けてたんだ。僕はカレッジでシルクスクリーンを学んだ経験もあるし以前から(シルクスクリーンに必要な)機材は少なからず持ってた。作品を目にした人達から注文を受けて他のバンドのプロモーション用のポスターも作るようになったのがきっかけで、2002年の1月に公式に会社を立ち上げたんだ。

 Chloe >実際には、それ以前にも注文を受けてシルクスクリーンプリントの仕事をすることはあったんだけど今みたいにレイアウトデザインの段階からじゃなくて予め受け取ったデザインをプリントするだけだったの。私たちが得意としてるのはシルクスクリーンポスターだけどバンドによってはロゴからT-shirts,ステッカーまで作ったりTV番組のセットを担当したり雑誌のイラストを書いたり…。とにかく私たちは働き者なの(笑)。

 Yannick >特に最近は音楽関係だけじゃなくて劇団やラジオ局なんかの仕事も増えてきたね。

--- デザイン面でクライアントからの指示を一切受けないそうですね。

 Yannick >そうだね。アート面において完全に任せてもらえる仕事しか受けないことにしてる。

 Chloe >それが私たちのトレードマークなの。作品が気に入った誰かから依頼されるわけだから、少なくとも私たちの作る作品が満足できるものだって確信を持った上でのことだと思うの。クライアントの言いなりになるグラフィックデザイナーが多い中でこういう仕事のやり方は珍しいのかもしれないけど、クライアントから予算とポスターに載せる情報を聞く以外はレイアウトもフォントも一切注文は受けない。もちろんライブポスターだったらそのバンドの音楽を聴いてヴィジュアル的にしっくりするものを作る。それぞれのバンドや劇団に興味をもつ層に訴えかける作品をね。でもそれ以外は100%自由な発想で作品作りをするのが私たちのやり方なの。

--- デザインのためのリソースは音楽だけということですか?

 Yannick >サウンドだけじゃなくてそのバンドのライブの様子や歌詞、ネーミング、それからそのバンドの思想なんかもインスピレーションになるよ。ポリティカルな声を持ったバンドかどうかとかね。

 Chloe >ステージ衣装とかCDのカバーアートとか…。そのバンドが今までしてきたことに近い感覚のデザインをするようにしてる。ヴィジュアルとして似ているとかじゃなくてそのバンドの全作品に一貫するカラーにマッチしたものを作りたいと思ってるから。

--- 仕事の依頼を増やすための宣伝は?それとも噂が噂を呼ぶのでしょうか?

 Yannick >自分たちのバンドや友達のポスター作りから始まって噂が広がったというのは最もだけど、ある時点からは宣伝も始めたんだ。夏にU.S.にアートツアーに出てギャラリーやライブハウスで作品を展示したよ。実りのあるツアーだったと思う。

 Chloe >ポスターを手掛けたバンドのライブに出かけて行って会場でポスターを販売することもあるの。ライブを見に来た観客がバンドと私たちの作品に興味をもってくれてあれこれと質問をしてくれるの。ポスターの依頼主以外の出演バンドにも出会えるから、別のバンドから仕事の依頼を受けることもあるわ。

 Yannick >ポスターだけじゃなくて、アルバムカバーを手掛けることもあるからCDを手にした人に興味を持ってもらえるのもあるよね。

 ソール・バスのタイトル画を彷彿とさせるパンチの効いた大胆なレイアウトや、パターンがケルト文様のように被い尽くすデザインなど彼らの作るポスターには常に楽しい驚きを感じさせられる。催し物の日時やバンド名などの情報が殆どデザインに呑み込まれてしまっていたとしても一瞬にして人の目を引き脚を止めさせるのはシルクスクリーン特有の質感と発色の美しさだけではない。街で彼らのポスターを見つけたらその不思議な力を感じてみて。

Seripop公式サイト:www.seripop.com
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取材・文:Kanako Izawa
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