アトリエを初めて訪れた時のこと、「私の作品は装飾性と陶器の薄さで知られているんです。」Mahmoud Baghaeianはそう言って、茶碗を電球に翳してその薄さを証明してくれた。ブラウンとセラドン色が渦巻く茶碗が光をまろやかに包み込み、セラドンの部分から鶸色の光が漏れた。
 その時の感動を思い出しながら、再びMahmoudを訪ねた。St.LaurantとOntarioの角、彼のアトリエは、『Ontario West』と名づけられた建物の最上階にある。いつ作動するのを止めてもおかしくないような年季の入ったエレベーターは、10階でゴトンッと音を立てて止まり、2秒間くらいポーズした後、やっと扉を開いた。『Ontario West』改装の為、全てのテナントと住民は退去を言い渡されているそうでMahmoudは、個展が予定されているフランスへ発つ前に一切合財をトランクルームに移動させようと勤しんでいたところだった。

Covered Jar高さ27、直径31センチ。この大きさで重さは3キロ弱と軽い。
--- まず、陶芸を始めることになったきっかけについて聞かせてください。

 私は小さな頃から絵を描くのが得意でした。家族や周りの人間もそれを認めてくれていたので自由に描くことができました。少年に成長してからは有名なモスクのガイドも務めましたよ。モスクのタイルやデザインについての全てを知り尽くしていたわけです。オタワには、78年に留学生のような形で来てエンジニアリングを勉強しましたが、それは将来に対する不安からで、アートを志す気持ちも諦めが付かない状態でした。陶芸は在学中に友人に連れられて参加したワークショップがきっかけで始めたのです。最初はそれはもうひどいもので、やっとそれらしいものが出来るようになるまでは陶芸が好きだと思わなかったくらいですが、陶芸に出会ったことでアートを選択することが出来ましたね。ケベックへ移り住んだのはオタワから一番近く陶芸を学べる学校がSte. Anne-de-BellevueJohn Abbott Collegeだったという理由からです。色々な事情があって卒業こそしませんでしたが、陶芸家としての一歩を踏み出したのはJohn Abbott在学中のことでした。

Pillow Jar高さ17.5、直径29センチ。中央が凹んでいることからPillow Jarと呼ばれる壷。
--- 伝統的なペルシャデザインに精通されていることは、作品に何らかの影響を与えていると思われますか?

 伝統的なペルシャ装飾とは別離したつもりでいますが、無関係というわけではありません。John Abbott Collageで装飾やグレーズ(釉)を学ぶクラスを受講したときです。ペインティングやドローイング、彫刻をやってきたにも関わらず、自分の作品に絵をつけるとなると、何を描いていいのやらさっぱりわかりませんでした。丹精込めて造ったビスク(素焼きした陶器)に絵を付けるのは肌に刺青を刺すようなものですからね。行き詰った私に先生がくれたアドバイスは「自分のバックグラウンドや思い出を掘り起こしてみること」でした。そうして、私はまずペルシャ文字のモチーフを絵付けをすることにしたのです。ここの人たちにとってペルシャ文字は意味は分からずとも視覚的に興味深いものだろうと思いましたから。そこからカリグラフィを基盤にしたデザインへと発展したのち、それまでに親しんでいたペルシャタイルやカーペットデザインなどのモチーフに立ち返りました。そして年月とともに、今用いているようなデザインへと徐々に展開していったのです。
 面白いことに、過去10年の間にイラン国内で行われた4回の展示では、私の作品はモダンで西洋の香りがすると評価されました。逆に、他の土地では、ペルシャデザインに影響を受けたものとして捉えられます。恐らく、西洋とペルシャデザインのミックスに、オリジナルスパイスをトッピングしたものが、私の作風と言えるのでしょう。

Plate高さ4.5、直径29センチ。長いくちばしを持つコウノトリがモチーフの皿。
--- 頻繁に登場するスパイラルモチーフ(渦巻き)についてはどうでしょう?

 もちろん伝統的なペルシャデザインにもスパイラルのモチーフは登場しますが、それはケルトや日本・中国文化にも共通するものでペルシャデザインに限ったことではありません。それに、特に陶芸家にとってスパイラルは身近に感じるモチーフなのです。なぜならろくろを回す際にクレイの上で中央から外側に向けて手を引いていくと最初に現れるのがスパイラルだからです。私の作品にスパイラルは様々な形で度々出現しますし、私が装飾を施すさまを「Spiraling Away」と呼ぶ人もいますが、スパイラルだけではなく、目、葉、ペイズリー、鳥、魚なども好んで用いています。それらを輪郭付けるのではなく全体の騒がしさの中に溶け込むようなものを心がけています。

 烙印が押されたかのように一目でそれとわかるMahmoud Baghaeianの作品は大きく3つに分類される。直径30cm近くある大きな皿。丸みを帯びた胴に華奢な首をもつ花瓶。それからくびれがなくごろんと丸い壷。自然のダイナミズムを感じさせる力強いモチーフとは対照的に、花瓶や壷はその薄さからか、デリケートな印象を与える。そんな作品群の中で異色の存在であるRakuシリーズは、日本に16世紀から伝わる楽焼きのメソッドを元に編み出された。彼岸花のような生々しい緋色や、鳶色。ターコイズにモーブ色。ピースいっぱいに散りばめられた色彩は妖艶に発光する。

 
Peacok Raku高さ25、直径31.5センチ。
--- 花火のような華やかさをもつRakuシリーズは他の陶器とはかなり違った印象ですね。

 「孔雀」と呼んでいますが「花火」もよい例えですね。まず他のピースがCeramicであるのに対してRakuシリーズはStone Ware(祖磁器)です。釉として銅とガラスの一種を使うので表面はざらついていますし他のピースほど軽くもありません。Rakuの技法は教わったものですが、私のRakuシリーズは偶然によって生まれました。Rakuでは一旦釜から出したピースを樽の中で燻製させますが、樽を早く開けすぎると銅の酸化が進み緑や青が強すぎ、遅すぎると茶色の退屈なものになってしまいます。完璧なタイミングを教えてくれるものは何もなく、言ってみれば勘が全てなのです。ある日、弟子に樽を開くという重要な作業を初めて言い渡しましたが、彼はタイミングを誤ってしまいました。冗談のつもりで私はガスバーナーを取り上げ、その失敗作に近づけました。するとどうでしょう!再度、熱を加えたことによって様々な色が発色し始めたのです。…それから小さめのバーナーを試したりクレイの原料を研究しながら思い描くものに近づけていきました。

 土と熱。これほど素朴な材料が洗練された「焼きもの」に生まれ変わるのに必要なのは、技巧だけかもしれない。だとすれば、その技巧は物凄い情熱とひたむきな努力に支えられているに違いない。しかし、感性は情熱や努力の産物ではなく、培われるものだろう。確実な技巧と豊かな感性、その両方に裏付けされたMahmoud Baghaeianの焼きものは、機能美が光るクラフトであると同時に、存在感あるアートでもある。

Mahmoud Baghaeian
イラン、イスファハン出身。International Academy of Ceramicsのメンバー。
作品紹介サイト:
www.ceramicstudio.net
www.galeriedesmetiersdart.com
collections.ic.gc.ca/artistsonline

取材・文:Kanako Izawa (presqu' ile)
写真:Alain Gauvin
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