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彼の姿とその作品を初めて見たのは、『Fashion File』というテレビの番組で、Ysoを特集したときだった。淡々とした個性を持った人だなというのが第一印象。個性は強いのに、すっきりと透明感がある。アジア系であることも興味を引いた。 PEOPLE第8回で、当時「ELLE Quebec」と「ELLE Canada」の編集を兼任していたLise Ravaryさんは、最も才能を感じるカナダのファッション・デザイナーとしてYsoの名をあげ、そのしばらく前に行われたショーの素晴らしさを、ひゅう、と口笛を吹いて私に示した。 デザイナーの名は、シファイ・サウシダラ(Siphay Southidara)。Ysoというブランド・ネームは、名前の最後と、名字の最初をつないだものだ。1972年、ラオスに生まれ、7歳のとき、家族とともにモントリオールへ移住。10代でファッションの勉強を始めた翌年には、若手のデザイナーに与えられるJeunes Designer賞を獲得し、1994年にはSminoff Canadian Grand Prizeを受賞。99年にYsoをスタートさせて以来、カナダのファッション界に新風を吹き込む存在として、高い評価を受けている。 インタビューは、彼のアトリエで行われた。HOLT RENFREWに卸す麻のドレスや、次のファッション・ショーのためのサンプルなどを見せてくれた後、彼のほうからいくつも質問が投げられ、どちらがインタビュアーなのかわからないような状態で話を始めた。 --- ファッションに取り組むご自分の姿勢について、「わび・さび」という言葉を使っていらっしゃいますね。 「雑誌に、僕の作品に「<わび・さび>が感じられる」というようなことが書いてあって、初めてこの言葉を知ったんです。それで、『Wabi-Sabi』という本(Wabi-Sabi for Artists, Designers, Poets &Philosophers /Leonard Koren著)を読みました。アーティストのために、<わび・さび>とは何かを説明した本で、不完全であることの味わいとか、自然のそのままを尊重し、受け容れることなどが書いてあります。 僕にとっては、オーガニックで、どこか完璧でないものが<わび・さび>かな。ファッションに関して言えば、シルクやコットンといった素材について、その本来の持ち味を生かすということでもあります。たとえば僕は、シルクで造形的な服を作ろうとは思わない。シルクらしさを出そうと思ったら、薄いシフォンを選んで、流れるような印象の服を作るのが自然でしょう」 「不完全さこそが、完全なんだという考えかたが好きです。ひっそりと、でもありきたりではなく。とても難しい概念だけど、自分に合っているような気がします。言いたいことを人にわかってもらうためには、なにも叫ぶ必要はない。攻撃的になる必要もない。洋服も同じです。いくつもの色を使って、ショッキングな印象をつくる必要はない」
日本で生まれ育った日本人にさえ、<わび・さび>とは何かを説明するのは難しい。彼が貸してくれたその本には、たとえばモダニズムとワビ-サビの違いについて、前者はパブリックであり後者はパーソナルであるとか、同様に絶対的に対して相対的であるといったようなことが書かれていた。「完璧でなく、継続的でなく、完成されず、他愛なく」それでいて当たり前ではない謙虚な「美」を、ここではwabi-sabiと呼ぶようだ。日本の辞書もいくつか調べてみたが、かえって混乱した。 --- 最初の作品は、どんなものでしたか?
「バービーみたいな人形のドレスを作りました。子どもの頃はよく人形で遊んでいたんだけど、人形のミス・ユニヴァースみたいなコンテストをやるのにドレスが必要だった。(笑)それを縫ったのが最初ですね。13歳くらいのころには、演劇の衣装を作ったり、ちょっとしたパフォーマンスの衣装を作ったりもしていました」 「将来的には、舞台や映画の衣装も作ってみたいですね。ピーター・グリーナウェイ(映画監督)の作品に関わることができたらうれしいです。服飾に興味と理解があって、そこに独立した位置を与えてくれる人と仕事ができたらいいな。ダンスの衣装にも興味がありますね。動きがあるから」 --- ファッション・ショー以外には着ることができないような服をどう思いますか? 「派手な作品を、ばかばかしいとか役に立たないという人たちもいるけど、僕は、人の目を楽しませるという役に立っていると思います。楽しいエンターテインメント。心に栄養をあたえるものかな」 --- あなた自身は、ああいったものを作ってみたいと思いますか?
「(笑)そういう余裕があれば。たとえばヨージ・ヤマモトやコム・デ・ギャルソンは、斬新なエンターテインメントに大きな予算をかけて、イマジネーションを具体化することができるけど、そういう表現の自由は経済的な余裕の上に成り立つんです。すべてのアーティストがめざす、究極のゴールだと思います」 「とても貧弱だと思います。閉鎖的だし。たとえば、ファッションの世界では、パリのスタイルとか日本のスタイルとかではなくて、インターナショナルなスタイルというものを追求するようになっているのに、カナダのファッション業界は、まだそのことをよく理解していないようなところがあります。カナダの人々の多くは、ビジネスとしてのファッションは理解しても、ファッションそのものの美がわからない。詩的なアプローチが足りないというか……」 --- でも、評論家やメディアは、カナダのデザイナーのなかでは、あなたがインターナショナルな活躍に最も近いところにいると評価していますよね。 「すごくうれしいけど、そういうナイスな言葉や評価に安住してはいけないと思っています。続ける必要もあるし、売る必要もある。Ysoはインディペンデントな会社で、スポンサーもついていないので、マーケティングも重要です」 --- では、いま描いている夢は?
「いまやっていることが一生続けられれば。カタログをつくって、シーズン毎にファッション・ショーを催して、いま、まわりにいてくれる人たちといいチームで仕事をして、素敵な人たちに会って、家族が幸せで。それだけ」
モントリオールという街で「アイデアを実験」し、それをもって「外に出ていく」活動をYsoは続ける。色と形、伝統とテクノロジー、ボディとスピリット、東と西、といった相反する事物の間でバランスをとりながら、表面的な美しさにとどまらない何かを探して、彼は作品を生みだしていく。 |
取材・文:関 陽子 Special thanks to:石川雅恵 |
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