ステージ・ネームはHashimotoという。日系3世のゴードンは、名字をそのままバンド名にして、「<ヴァン・ヘイレン>と一緒だよ」と言う。もう5年以上前になるが、モントリオールには日系アーティスト・ネットワークというグループがあった。ヴィジュアル・アーティスト、映像作家、俳優、ダンサー、ライター、ミュージシャン…と様々なフィールドの表現者が集い、情報交換や共同プロジェクトを活動の趣旨にしていた。ゴードンとは、そこで知り合った。しばらく前に、from-montreal.com宛に、彼にインタビューをしてはどうかというインプットがあり、今回、ひさしぶりに彼の音楽を聴き、話を聞いた。

--- まったく予備知識のない相手に対して、自己紹介をしてください。

「worker/artist。アーティストの定義がどういうものかはよくわからないけど、自分を純粋に<アーティスト>とは呼べません。むしろ、<アーティスト>と呼ばれることに反発したいような気持ちもある。僕はただ、歌をつくって、その歌を演奏することが気に入っているだけ。本気でやったのもあるし、軽い気持ちで楽しんだのもあるけど、前者の筆頭は1995年に結成したNerdy Girl。最初は僕と女性ヴォーカリストのデュオで、このユニットではニューヨークやウィニペグを含むツアーをやったし、ビデオも音楽チャンネルで流しました。でも、僕がいたのは1年で、僕が離れてからは4人編成のバンドになった。Hashimotoは97年に結成。デビュー・アルバム『April』を去年の春に発表して、現在2作目を制作中です」

--- Hashimotoという名前に対する反応は?

「たいていの場合、すぐに日本の名前だとわかってくれるよ。ただ、日本の名前であることには驚かないけど、それが僕の本当の名前だということには驚く人が多い。総理大臣の名前か何かを、とってつけたと思うみたいだね」

--- メンバーはどうやって見つけたのですか?

「レコーディングに参加しているドラマー、Eric Robitaille は10年来の仲間で、かつては映画のための音楽を一緒に作ったこともある。でも、彼はすごくいいミュージシャンなのに、演奏することをやめてしまってね。バーをオープンして、ドラムは叩かなくなった。今回、手伝ってもらおうと連絡したら、6年間も叩いてないっていうんでびっくりしたよ。ひさしぶりに演奏して、楽しかったみたいだけど」「もうひとり、ライブに参加してくれるドラマーは、Eric Tscheappeler。HOUR紙にドラマー募集の広告を出して、見つけた。ベーシストのPatrick Hamiltonは、Hashimotoを始める6カ月ほど前に、ミュージシャンである友達から紹介された。もうひとり、ライブで演奏してくれるギターリストがEric Goulet。彼ももう15年来の知り合いです」

--- 4人のうち3人がエリック。どうやって呼び分けているのですか?

「ひとりはチャプラー、もうひとりは10年前のあだ名がフレッドだったのでフレッド、最後のエリックはフランス語の発音で」

--- 最初のエリックさんは、どうしてやめちゃったんでしょうね。単に熱を失ったっていうこと?

「多分ね。音楽に対するパッションを忘れたわけじゃないけど、ちょっと横に置いたというか。誰にでもそういう時期があるんじゃないかな。ある時点にきて、このまま続けることに意義があるのか? とか、こんなにも多くの時間をバンドに費やしていていいのだろうか? と、自らに問う時期っていうのが。時間や夢や、想いのようなものをすべて注ぎ込んできた対象に、ふと疑問を感じてしまう瞬間があり、考えた結果、そのままの状態を続けることは賢明でないという答えをみつけてしまう。カナダ人であるということで、よけいにそういう悩みを抱えてるよね」

--- どうしてカナダ人が特別なの?

「カナダ人って、全体的にリスクを好まず、安全、安定を求めるようなところがあるじゃない?」

--- 保守的。

「まあ、保守的といってもいいし」

--- 現実的。

「とも言える。安定した人生を送るためには、学校へ行って学位とらなきゃ、っていう。趣味として熱心に取り組む人にとっては、昔よりずっといい状況だよね。それなりのところを探して1500ドルもだせば、自分のCDが500枚くらい作れる」

--- さて、デビュー作の『April』ですが、反応は?

「それほど売れてはいないけれど、反応は悪くないよ。インターネットでビデオを見たシカゴの人からも先日メイルをもらったし。カナダでのディストリビューションはFADという会社がやっていて、アメリカではインターネットを通じて販売されています。インターネットは本当に便利だよね。見方によっては、一時期のカレッジ・ラジオ局のような役割を得ていると思う。もうずいぶん前になるけど、カレッジ・ラジオ局は新進のアーティストやインディペンデント系のアーティストをどんどん紹介して、(ニルヴァーナなどは、そこから生まれた)活気があったでしょう? チャンスを与えてくれるという意味では、インターネットはかつてのカレッジ・ステーションのような可能性を持っていると思いたい」

--- 現在のインディペンデント・シーンについて、どんな意見を持っていますか?

「とてもいい状況だと思うよ。その状況に、逆に踊らされない限りは。実際の話、本当にきちんとした作品を作ろうと思ったら、ましてやそれを売ろうと思ったら、それは大変なことだけど、きっかけを与えられていること自体が素晴らしいと思う。表現したいものがある人には、それを作って表に出すチャンスがあり、聴きたい人には、より幅広い選択の幅が与えられる。いろんなものがありすぎて、選ぶのが大変な状態でもあるけど」

--- これまでに、合計何曲くらい作りましたか?

「そんなに多くはないよ。30曲〜35曲ぐらいじゃないかな。レコーディングしたのがほとんどだけど、自分のためだけに記録したものもある」

--- 最初の曲を作ったときのことを憶えている?

「確か、19歳だったと思うな。友達のTheoが、夏の間マクギル大学の図書館で仕事をしていて、彼を訪ねて行った。そのときのことを『Theo at work』という曲にしたのが最初。その後、同じ夏に4〜5曲作ったように思います」

--- できあがったときの感想は?

「気持ちよかったよ。僕は曲が書けると思った。すべてのソング・ライターが多分感じるのと同じように、これは受け入れられるだろうか? みんなが好きになってくれるだろうか? 自分自身、気に入っているだろうか? といった質問をしながら仕上げた。難しいけど楽しい作業だよね」

--- 曲を作る前から、「書く」ことに興味はあったのですか? たとえば詩とか。

「(少し考えて)そうでもなかったな」

--- というのは、あなたの作品においては、歌詞が重要な部分を占めていると思うので。どちらかというと言葉が先にあって、その言葉を効果的に伝えるために、音楽があるような気もしたんです。

「一般的な人々が、平均的に<書く>ことに比べて、僕が特に<書いて>いるとは思っていません。学校にいた頃は、作文でいい成績を取ろうと思って、ドラマティックにしたり、論理的にしたり、ちょっと笑わせるような要素を入れてみたりはしたけど。最近になって気がついたのは、言いたいことや表現したいことを全部合わせて、それらをいちばん的確な形で表現できるのが音楽であるということです」

--- 評論やコメントについては、どう感じますか?

「いいことが書いてあれば、もちろんとてもうれしいし、何も書かれないよりは、悪いことでも書かれたほうがうれしい。正直に書いてあるなかに、多少のクリティシズムが含まれているようなものが好きといえば好きですね」

 『April』について、Musique PlusのClaude Rajotteは、un disque que j'ai bien aimeと語っている。The GAZETTE紙・音楽欄での評価は4つ星(5つ星で満点)、Mirror紙では10点満点の8.5ポイントを獲得。どの評論も、彼のちょっと奇妙な音楽世界についてふれている。ひねられたユーモアのセンス。歌詞に描かれる状況と、音や声とのバランス。子供向けの日本語教材(?)を使った曲などは、しばらく前のピチカート・ファイブを思い出させる。

--- 活動の拠点である、モントリオールについて聞きたいのですが。

「強いキャラクターを持った街だと思います。他の場所に住んだことはないけど、住むにはとてもいい場所なんじゃないかな。ただ、暴力団による犯罪が、カナダの他の都市に比べて根強いという噂があって。例のバイカー・ギャングの抗争なんかはその一部だけど、これは残念なことだよね。でも、そんな問題点も、逆説的には街の個性を深める結果にはなってはいるんじゃないかと思う」「一方では、みんながレイジーになれる街でもある。パートタイムの仕事をして、あまり働かなくても、レントを払ってそこそこ暮らしていくことができる」

--- これまでのインタヴューでも、その点はよく指摘されました。アーティストにとって恵まれた環境ではあるけれど、ハングリー精神が失われるとか。

「いやなことをしてまで働くことを強いられない。でも、それが悪いことだとは思わないよ。ハングリーであるということが、決していいとは思わないし。現実的な意識を持っていて、自分のやろうとしていることがわかっていれば、ハングリーである必要はない。たとえば僕の場合なら、レコードを作って、自分がいい曲だと思う作品を、みんなも気に入ってくれるんじゃないかと思えたとする。でも、だからといってスターになれるかもしれないなんて幻想は持っていない。世の中にはたくさんの作品が出回っているし、僕らはツアーもやってないし、知られてないからね」

--- 言いかえれば、ツアーをやれば、もっと知られて、成功するかもしれないという思いがある。

「うん」

--- 現実的な意識を持ちつつ、夢を見ることもできるでしょう?

「そうだね。僕のゴールは、どちらかというと、ソング・ライターになること。他のアーティストや映画作品などに楽曲を提供するような形。2作目ができたら、ツアーを行って、ビデオも作るつもりです。今のゴールは、そんなところで非常にシンプル。もちろん、多くの人々が気に入ってくれるような美しい作品を作ろうとは思っているけど、巨大なゴールは設定しない。フィルム・エディターとしての仕事も好きだし、音楽だけに何年も費やしたりすることは考えられない」

--- では、最後にモントリオールで<パーフェクトな1日>を過ごすとしたら、どんなふうに過ごしますか? という質問です。

「マウント・ロイヤル・パークを散歩して、その後St-DenisかSt-Laurentのカフェのテラスで、アイス・ティーかビールかなんかを飲みながら、みんなと話す。それだけ。実にシンプル」

--- ギターは公園に持っていかないの。

「ギターは家で弾く。(抱えていたのを“ジャーン”と鳴らす)あ、でも、外で弾くのもいいかもしれないね。うん、持っていこう」

http://www.maplemusic.com
http://www.cdbaby.com/cd/hashimoto
http://www.listen.to/hashimoto



取材・文:関 陽子
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