毎週、地下鉄の駅やカフェ、CDショップや書店の店先に積まれる情報紙がある。特にモントリオールのポップ・カルチャーを扱ったものだけで、『Voir』、 『Ici』、 『Mirror』、『Hour』の4紙。文化的にある程度の規模を持った街には、こうしたフリー・ペーパーが必ず存在する。ニューヨークの『Village Voice』が、多分その元祖だろう。モントリオールの場合、バイリンガルという事情も手伝って、人口に対するこうした情報紙の数が必要以上に多い。ユーザーが情報を選べるという点では、喜ばしい状況でもあるのだが、分散せずにひとつカチッとしたものを作って提供してほしいという気もしないではない。今回は、4紙の中では最も個性的かつ、特に映画や音楽の情報が充実している『MIRROR』を選び、その編集長であるアラスター・サザーランド氏にインタビューを申し込んだ。当日は、忍者からコーネリアスに至るまで、日本文化に大変興味を持っているという音楽部門担当の編集者ルパート・ボッテンバーグ氏も加わって、1対2でのインタヴューとなった。

OUTSPOKEN

-- まず、経歴をうかがいたいのですが。


Mr. Sutherland (以下Alastair)「生まれはヴァンクーヴァー。1966年、7歳ぐらいのときにモントリオールに引っ越してきた。エキスポ(万国博覧会)の1年前で、エキサイティングな時期だったよね。マクギル大学の英文科で映画を専攻して、途中で英文学に転向、卒業後、今度はコンコーディアの大学院に入って、メディアについて学んだんだけど、シリアスになりすぎてドロップ・アウト。それからジャーナリストとして20年間仕事をした後、『Graffiti』と『MTL』というふたつの媒体の編集に携わった。が、なぜかここに落ち着いて(笑)、3年間、編集長を務めています。その前から、フリーに近い立場では編集に関わっていたので、『MIRROR』で仕事をするようになってからは合計7年」

Mr. Bottenberg(以下Rupert)「生まれはノヴァ・スコシア。2歳のときにモントリオールへ移りました。きちんとジャーナリズムの勉強をしたことはなく、本来はイラストレーターというか、漫画家というか、ビジュアルの方が専門。ミュージシャンと仕事をする機会が多かったのと、コンサートのプロデュースなどに関わったことで、音楽関係の人脈が広がって現在に至っています。4年ほど前、スカに関する記事を依頼されたのがきっかけで、続けて書くことになり、その後音楽担当の編集者として招かれました」Alastair「この街が好きだし、トロントやカルガリーじゃなく、ここを選んで住んでいる。ヨーロッパもあちこち旅行したけど、モントリオールこそ自分の住みたい場所だね。イギリス系とフランス系が混ざっているということが問題にもなるけど、実はそれはとてもいいことで、カナダ国内にとどまらず、北米全体でも新鮮な印象を与える街になっている。そういう街を、僕らのようなやりかたでカバーするというのは、楽しいことだよ」

--- 「僕らのようなやりかた」とは?

Alastair「堂々と言いたいことを言う。書きたいことを書く。スタンダードなジャーナリズムとの差別化を図る意味で、あえて<オルタナティブ・ジャーナリズム>と、自らのスタイルを呼ぶようにしています。ルパートは、音楽に関してはモントリオール中で多分いちばんくわしいはず。映画の担当も、映画に関しては非常にくわしい。記事を提供してくれる人たちは、プロのジャーナリストではない場合もある。ときには、技術的にかけ離れた人もいる(笑)。でも、ビートがあって、はっきりしてれば、いいんじゃないかな」

ALTERNATIVE JOURNALISM

-- 3年ほど前、『MIRROR』は、QUEBECOR(印刷、出版を主とする大企業)に買収されましたね。

Rupert「当初は、もっと編集方針にも介入してくるかと心配していたんだけど、そういうことがなくて、うまくいっています」

Alastair「以前、万引きに関する記事を掲載したことがあるんだよね。皮肉っぽく、どうやってCDを盗むか、というようなことをルパートが面白おかしく書いたんだけど、もちろん、それをユーモアとしてはとらえてくれない人たちもいる。たとえば、CDを売ってる店は、店頭から『MIRROR』を引き上げた。テレビやラジオにもそのことが取り上げられた。結局はすごくいい宣伝になって、読者がふえた。そうなると、いったんはボイコットした店も、また置かざるを得ない状況になる。QUEBECORは、Archambault(CD、書籍などを扱うチェーン店)のオーナーでもあるから、ボイコットする側とされる側の両方だったよ」

--- これだけはやらない、というタブーのようなものはあるんでしょうか?

Alastair「特にないけど、いわゆる英語系・フランス語系の対立に関することは、あまりやらない。オルタナティブな立場としては、そんなことばかり取り上げていたくないからね。ひどい言葉遣い(swear)がよく批判されるけど、ことさらセンセーショナルにしようとしてるんじゃなくて、実際それがストリートで使われている言葉だから。だから、タブーと言えば、退屈な内容になることかな。それから、極端な悪趣味。極端なばかばかしさ」

--- 以前、ラジオ局に関する記事で、パーソナリティーが、『MIRROR』のことを、「安っぽい、くだらない、スクィージー・キッズ向けの新聞」というようにコメントし、それに対して、「誉め言葉として受け取った」と書かれましたね。

Alastair「彼は、侮辱するつもりでいったんだろうけど、僕らは誇りに思ってる」

Rupert「みんながそういうのを読みたいと思っているんだし」

Alastair「もっと多くの人がこういうことを言ってくれたらいいよね。(笑)宣伝になる」

--- 『Hour』との違いは?

Rupert「クオリティ」

Alastair「(笑)彼らの記事には、良くできたものもあるけど、保守的。批判されない安全圏にいることを心がけていて、編集側の意見もあまり表に出てこない。彼らが僕らのことを下品でセンセーショナルだと言うなら、僕らは『Hour』を、退屈だと言い返すね。特に音楽関係の記事については、カナダ全体でも素晴らしい内容だと自信を持っている」

Rupert「売れているミュージシャンを追いかけるのではなくて、どんどん先に行くようにしている。たとえば、このバンドはいまはまだ小さいけれど、いまから目を付けておけば間違いないとか。みんなが、ついてくるような内容にしたい」

LOCAL SCENES

-- 音楽以外のローカル・シーンについてうかがいたいのですが。まず、アート。

Alastair「活気はあるよね。ギャラリーも多いし、前衛的な演劇やダンスもさかん。ニューヨークやトロントのように大きくはないけど、やっぱり英仏の文化が混ざることによって、ユニークな結果が現れていると思う」

Rupert「僕は、モントリオールはベルリンに似ていると思う。熱心なアーティストがたくさんいて、純粋に創作活動に打ち込んでいるという点でね。レントが安いから、ギャラリーなどの広いスペースも確保できるし、もちろん制作のためのスペースも手に入れやすい。問題は、その作品を買う人がいないこと。つまり、アートをビジネスとして考えた場合には、あまりいい環境じゃないんだけど、クリエイティブなレベルで考えれば、非常に恵まれた場所だと思う。音楽でも、現代美術でも、アーティストがアーティストでいられるというか。家賃を払うためには、レストランで仕事をしなければならないかもしれないけど、素晴らしいアーティストがここにはいるよ。商業主義に惑わされず、正直に表現している。モントリオールは、アーティストにとって健康的な環境だと思う」

--- ファッションについては、どうでしょう?

Alastair「多少、ヨーロッパ的なセンスを持っている」

Rupert「いや! ケベック人の最大の問題は、最低のファッション・センスだ!(笑)」

--- たとえば?

Rupert「紫のジョギング・パンツにガテマラのセーター、それにポニーテールとか。モントリオールの中心から外に出ると、もうダメ。僕は、本業はビジュアル・アーティストだと思っているから、目に悪い。怒りすら感じる。(シリアス)」

Alastair「でも、他に比べたら、少なくとも独自のスタイルというものは持っていると思うけどね」

--- レストラン、グルメ関係はどうでしょう。

Rupert「僕は、レストランで20ドル以上は使わないことにしている。それ以上は、食べ物にではなく、ひどいサービスやセンスの悪いインテリアに払うようなもの。値段が高くなればなるほど、サービスは悪くなるし、食事の量は少なくなる」

Alastair「(苦笑)まあ、フランス系なんだから、もっといいフランス料理店があってもいいよね」

HOME

--- もし、モントリオールという街がひとりの人間だったら、知らない人にどんなふうに紹介しますか?

Alastair、Rupert「わりとのんびり、リラックスしている。まあまあ洗練されてはいるけど、さほど流行を気にするわけでもないし、スノッブでもない。よく笑う。夜出かけるのが好き。気楽なヤツ。ルールに縛られるのが嫌いで、人生は楽しむべきだと考えている。あまりまじめに仕事をするのは好きじゃない。できればヨーロッパ的なスケジュールで仕事をしたい。家賃の支払いをときどき忘れる(笑)自分のいる場所が気に入っているけど、他へ出かけていくのも好き。パーティーが好き。ホッケーが好き。で、けっこうたくましいよね。アイス・ストームから夏の蒸し暑さにまで対応できるんだから(笑)。トロントにちょっと雪が降ったときの大騒ぎ、僕らにはまったくバカみたいだったよ」

--- 女性だったら?

Rupert「ほとんど同じだけど、夏は身につけるものが普通より少ない。(笑)

Alastair「確かに。4月に日差しが多少強くなると、もう、脱ぎ始める。(笑)摂氏10℃でもタンクトップ。夏が短いのがわかっているから急ぐんだ」

--- 最初に「この街を選んで住んでいる」とおっしゃいましたが、その個人的な理由とはなんでしょう。

Alastair「居心地の良い、ナイス・シティで、<Home>が感じられる。カナダ国内で住みたいところは、ここしかない。僕はイギリスのパスポートも持っているから、ロンドンは可能性としてあるけれど。でも、居心地の良さではモントリオールだな。エキサイトメントを少し、コンフォートのために犠牲にしているという感じ? 四季があるというのが好きだし、冬も好きだし」

Rupert「彼はスコティッシュだし、僕はドイツ系。寒いのは大丈夫なようにできているんだ。冬はウィンター・スポーツを楽しめる。ここは、お金もエネルギーもあまり使わずに、遊べるよ」

Alastair「あと、モントリオール自体は遅れている部分もあるし、規模も少し小さいけど、ここを拠点にしてインターナショナルなネットワークを広げていくことはしやすいね。フランスをはじめとするヨーロッパのマーケットにも近いし、ニューヨークやボストンは、物理的に近い。モントリオールの中だけで、おもしろい仕事を見つけるのは難しいけど。それが問題」

GOAL

--- 『MIRROR』が今後、目標としているゴールは?

Alastair「この仕事は今日でやめようと思っているんだけど(笑)。冗談はさておき、この新聞をもっと大きく、より良くしていきたい。次のレベルに持っていくために、資金を得る必要もあります」

--- 「より良い」とは、具体的に?

Alastair「まずは、もっとページを増やす。チャレンジを続け、おもしろいものを作り続けていく。作り手が楽しむことによって、読み手も楽しめるものにしたい。問題は、どうせお金をかけるなら、フランス語版の情報紙のほう(『ici』)にと会社は考えること。ライバル紙より10万部以上多い部数を発行してるけど、それでもアングロフォンの人口そのものが少ないからね」

--- でも、私たち日本人のように、英語の方がなじみがあるアロフォン(英語、仏語以外の言語を母国語とする人たち)を加えれば、相当な数になるでしょう。

Alastair「意外に知られていないのは、モントリオールはカナダで3番目に大きな英語系の都市でもあるということ。多くの人が忘れがちで、特に西側の人たちは誤解しているけど、モントリオールの英語人口というのは、全国的に見ればトロント、ヴァンクーヴァーの次なんだよね」

THE MONTREALERS

「僕は、自分のことは<モントリオーラー>だと自負している。<カナダ人>であるより、イングリッシュ・モントリオーラーでいたい」とサザーランド氏が言えば、「僕もそうだね。で、絶対違うのが<ケベックワ>。僕はケベックワじゃない!」とボッテンバーグ氏。「もしもケベックが独立するなら、モントリオールも独立して、シンガポールのようなシティ・ステイトになるべきだと思う」と編集長は言った。「そうなったら首相に立候補して??(笑)」次々に新しい煙草に火をつけながら、早口で話す彼らを前に、私はずいぶんたくさん笑った。




取材・文:関 陽子
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