第一回は、インテリア・デザイナー、Jean-Pierre Viau氏。St-Laurent通りのCafeteria、 Globe 、McGill ストリートのSoto、一連のPizzadelicをはじめ、モントリオールを中心に約50軒のレストランやカフェのデザインを手がけた人気デザイナーである。インタヴューは彼のオフィスにある会議室で行われた。壁の微妙な色合いと、その向こうに人の姿の見える横長の窓が、印象的な部屋だった。

必要最少限のビジネス

-- インテリア・デザイナーという職業がら、「場所」の持つ雰囲気や特徴については、かなり強い意識をお持ちだと思います。モントリオールの良さ、たとえば、ニューヨークやパリでなく、ここを生活の場、キャリアの現場にしていらっしゃる理由があれば、聞かせてください。

「もちろん、ニューヨークとかロサンゼルス、パリといったところで仕事をするのは、一般的に考えれば理想かもしれません。ニューヨークは物理的にも近いしね。でも、僕はこのモントリオールで仕事を始め、以来ずっと、表現の自由を与えられている。そして、居心地のいい生活ができる。だから、他に移ろうと思ったことはないですね。正直に言って、名声を求めるなら、ニューヨークなどで仕事をすれば、それで有名になれる可能性はあると思います。これまでにも、まったく機会がなかったわけじゃないんですけど、ここに比べるとカナダの他の都市やアメリカの大都市は、もっとビジネスライクです。モントリオールの人々は、レストランで食事をすることを、日常的な楽しみにしています。だから、人口に対するレストランの数が大変多い。当然、競争が激しくなります。そこで、経営する側は他の店との差別化を図り、お客さんは新しい刺激を求めるわけですが、それぞれがアーティスティックな要素を大切にしていると思います。今のこの時代、ロマンティックに過ぎるかもしれませんが、できればビジネスっぽくない仕事をしていきたい。ポエティックな要素というか、そういうものを持っていたいと思います」

ディティールは語る

彼の手になるデザインは、モダンではあるが温かみを感じさせるものだ。最先端を意識したデザインは、その鋭さが、多くの場合、冷たさに結びつく。そして、時間とともに力を失う。ところが、年数を経るに従って、味わいを増す空間もある。ずっとそこに在り、多くの人々に愛されてきた自信のようなものが漂い、それがまた別の人々を引きつける場所。私にとっては、Cafeteriaがまさにその一例だ。

「僕は、デザインされすぎた場所、というのは好きじゃない。お金をかけて、斬新なことをやっても、それがオリジナリティと呼べるかどうか。奇をてらっただけの、表層的なものは好きになれません。僕は、装飾的な細かいディティールにこだわるほうじゃないんです。ひとつひとつのディティールは、それぞれ何かを語りかけなきゃいけないと思うけど、シンプルなままで、それを達成することはちゃんとできます」「レストランに行くというのは、食事や、サーヴィスや、いろんなものが組み合わさったひとつの経験ですよね。壁を見つめるために行くわけじゃないんだから、インテリア・デザインも他の要素になじむものでないと。そういう理由で、デザインしすぎないようにしているんです。もちろん、予算の問題もあるんですけど。(笑)」

-- 低予算など限られた条件で、最もクリエイティヴな仕事のできるデザイナーとしても評価が高いそうですね。

「あんまりそんな評判は、ほしくないんだけど。(笑)バジェットの大きな仕事も、楽しいよ(笑)」

ミニマリスムの反動

ケベック大学(UQAM)で環境デザインを専攻し、建築、都市学、インダストリアル・デザインを「ほんの少しずつ」学んだ。その後、あるインテリア・デザイナーのもとに就職したが、「彼はいろんなことに手を出す人で」アクセサリーのデザインなども手がけたという。2年後、もうひとりのデザイナーとともに会社を設立。以後3年間は、80年代のミニマリスムに撤した。コンクリート、ガラス、スティール、白い壁、直線、無機質。「その反動で、独立してひとりになったとき、もっとあたたかいものをやりたいと思うようになった」と話す。「色彩」が最初の難関だった。「それまでは色を使わなかったから」

-- いまのスタイルは、ミニマリスムには程遠いですね。

「うん、The other side of the street」

-- 大きな彫刻を作るような感覚で、デザインなさるとのことですが。

「彫刻は好きですね。雑誌でも、彫刻作品が載っているもののほうが、インテリア・デザインの専門誌より好きです。彫刻という表現方法によって、形や質感が伝えるメッセージがおもしろい。作品から、形の持つ意味や、パーソナリティーが感じられるかどうかということですね。作者が伝えたいものがまずあって、それを具現化するために素材を選び、形を選ぶ。オーガニック、あるいはテクノといったテーマを選ぶ。その結果がひとつのスタイルになって、受け手に伝わる…」

-- たとえば、物語全体のテーマを明確にするために、さまざまなプロットがからみあう、というようなことに似ていますか?

「で、その物語の中に入り込まずに、ちょっと離れて客観的に眺め、ときには笑い飛ばすことも必要。なんていうか、そんな感じです(笑)」

-- そういう「彫刻的」な姿勢で、デザインに取り組んでいらっしゃる、と。

「はい(笑)」

Be Yourself

-- 昨今のトレンドとして、生活空間についても「シンプル」、「シンプリシティ」といったことが言われていますが、これをどうとらえていらっしゃいますか?

「僕にとっての<シンプリシティ>は、『自分らしくあれ』ということです。Be yourself. 流行に合わせてモダンになる必要も、アール・デコを選ぶ必要もない。ゴシックが好きなら、お城みたいに飾りたてて住めばいい。生活の場というのは、非常に個人的なもので、好きなもの、居心地のよさは、みんな違います。 僕が、個人の住宅よりもコマーシャルな場所を仕事に選ぶのは、そういう場所のほうが、多くの人々の<好み>を相手にしているからですね。たとえば、クライアントとの話し合いで、彼が、『このデザインは好きじゃない』と言ったとする。僕は、よく考えてください、と言います。『このデザインは、僕のためじゃない。あなた個人のためでもない。あなたが好きかどうかは関係ない』(笑)。傲慢に聞こえなければいいんですけど。それに、いまは<シンプリシティー>が人気かもしれないけど、来年にはまた、違ったコンセプトが出てくるでしょう」

-- ということは、あなたのデザイン・スタイルにおいても、<自分らしくある>ことが重要なのでしょうね。

「そうですね。それが自然だし、楽だし、結果として良いものができると思います。でも、現在手がけているジムでは多少ハイテックなイメージで、普段はあまり使わない素材も使っているし、一方、オールド・モントリオールで進行しているプロジェクトでは、どちらかというと古風な印象を持たせています。それが自分のスタイルだからといって、常に同じ素材を使って、同じようなデザインを提供しようとは思いませんね。モントリオールは、都市の規模としては小さいかもしれないけれど、とても幅や奥行きを持った街です。自分のスタイルの基本は守りながら、常に何か違った新鮮なものを作っていかなければ残っていけません」

-- そうやって、みんなが楽しめる場所を作りつつ、ご自身が最も気に入っていらっしゃる場所というのは、どこなんでしょう?

「(一瞬も迷わず)My House.(笑)」

-- 御自宅も、かなりデザインされているんですか?

「とんでもない。(笑)すごくいいかげんです」

コマーシャルな場所をデザインする幸せのひとつは、プロジェクトが完成した後も、その場を訪れることができる点だと思う。私の父は建築家だったが、ある日、まだ子どもだった私が『ひとつのアイデア、一枚のスケッチから始まった仕事が、目の前に一個の建物となって完成したときは、それはすごい達成感や満足感が得られるんでしょうね?』とたずねると、「それは、ちょっと違う」と答えた。「確かに、完成したことはうれしいけど、その建物はでき上がった瞬間に手を離れ、持ち主のものになってしまうんだ。つまり、それは自分が作った建物と別れなくてはならない悲しい瞬間でもあるんだよ」。愛着のある作品がカフェやレストランなら、後々までそこを訪れることができる。画家が、描いた絵を人に売ってしまった後も、ときどき眺めに行ける、というようなものかもしれない。

素敵な場所

彼が「僕は、モントリオールという街のために、デザインしているようなところもある」と言った言葉が印象的だ。仕事そのものは、施主のため、近い将来そこにやってくるお客さんたちのための作業だが、「素敵な場所」をいくつも作ることによって、モントリオールという街の魅力を、多くの人に伝えることができる。「たとえば、観光客がレストランやカフェの中をのぞいて、『あ、ここは素敵だね』と通りすぎるだけでも、それはモントリオールの印象のひとつとして残る。そして、それはお芝居や展覧会と違って、また行きたければ、動かずにそこにあるんです」

現在は、前述の2件の他に、モントリオールにおけるSotoの第3店と、ワシントンDCに開店する第4店のプロジェクトを進めている。今後は「家」を作りたい、とも言う。「家族が楽しく住める家」。そして、「いつかは、リゾート・エリア開発に携わり、エリア全体をデザインしてみたい」。メキシコに、イタリア人の建築家が作った美しいリゾート・エリアがあると言ったら、「そうそう、そういうの!」と無邪気な表情を見せた。いつか、実現することを楽しみに待ちたい。


取材・文:関 陽子
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