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さて、まず初めにこのMusée Stewartの建物についてですが、もともとは英国によって築かれた兵器庫でした。今から遡ること190年ほど前の1820-1824年に、米国によるセントローレンス川からの侵入に備えて建設されたのが始まりです。1837年に起こった反乱以降は英国軍の牢獄として使われていたそうですが、火災で焼け落ち、軍が撤退したことを機に、モントリオール市の所有物となりました。第二次世界大戦中にはイタリア系の人々の収容所としても使われていたそうです。そして、この沢山の歴史が詰まった貴重な建造物に1955年、スコットランド系のビジネスマンであり、慈善活動者でもあったDavid M. StewartがMusée Stewartを設立し、現在に至ります。所蔵されているのは主にヌーベルフランスに関するもので、多くはヨーロッパから運ばれてきた貴重な書物、工芸品など。その数はなんと2万7千点にものぼります。
さて、今回訪れた「Curiosités」という企画展についてですが、現代アーティストのJérôme Fortinがキュレーターとして招待され、彼によって厳選された370点余りの 所蔵品が「驚異の部屋 (Cabinet of curiosities)」風にディスプレーされているのが特徴です。会場となっている3階には、色とりどりのドアが中央の狭い廊下を挟んで横並びで備え付けられており、どことなく「迷宮」を彷彿とさせます。各ドアの横には説明書きがついてはいますが、実際に扉の向こう側に何が隠されているかは、開けてみないと分からないような仕掛けになっています。18個あるドアの中には鍵がかかって開けられないようになっている物や、鍵穴やドアポストの開口部からしか展示物を覗けない物もあり、好奇心をくすぐります。
個人的に一番気に入ったのは、15番の部屋の帽子ケースとパイプケースの展示です。 中身の帽子やパイプを展示するのではなく、それを保護する役割で作られたケースだけを見せることによって、想像がより掻き立てられるように計算されているところが非常に興味深く感じました。ただ単にケースだけを見せるだけでなく、部屋の中央の壁にケースの中身を写したX線写真を見せるなどの工夫もされていて、見る側の想像をより一層膨らませることに成功していたように思います。
もともと「反復」や「シリーズ」というコンセプトを作風としているFortinの展示らしく、人形なら人形を一堂に集めて、それぞれの違いや特徴を際立たせるという手法が、所蔵品の多様性と見事にマッチしていると思いました。ついつい時を忘れ童心に帰ってしまうほど、ドアの向こうに沢山の驚きや謎が待っているこの展示。歴史や昔の職人の技の粋にも触れることができ、内容の濃さも申し分ありません。興味のある方は是非ゆっくりと時間をかけて巡ってみてください。
ギャラリー:Musée Stewart
所在地:20 Chemin du Tour de l'isle
スケジュール:火〜日:10時〜17時(シーズン中:6月28〜9月4日)
スケジュール:火〜日:10時〜17時(オフシーズン:9月5〜)
入場料:一般:$10 高齢者:$8 学生(18−25歳):$8 子供(13−17歳):$8 子供(12歳以下)無料
Accès Montréalカード:$2割引
メトロ:Jean-Drapeau
ウェブサイト:HP
文/Text:畑山理沙/Risa Hatayama