Jeanne Dunning, "In the Bathtub 1" 1999. Courtesy of the artist.
Jeanne Dunning, "Blob 1", 1999. Courtesy of the artist.
Jeanne Dunning, "Getting Dressed" (film still), 1999. Courtesy of the artist.
Samuel Beckett, "Not I" (film still), 1973. Courtesy of Beckett International Foundation and BBC.
 今回のリポートはVOX, centre de l'image contemporaineからスタートして見よう。今年10月末迄開催されていたLe Mois de la Photoの会場の一つとしてもうご存じの方もいるかもしれないが、ここでギャラリーについてちょっと説明を加えると、名前からも想像が付く様に、文字通り写真やビデオ等の画/映像を中心に展示しているアーティストランセンターで、もともとは‘89年にLe Mois de la Photoと言う2年に一度モントリオールで開かれるフェスティバルを発足させた組織である。‘02年にフェスティバルの運営から退いた後、3年程前に拠点を旧市街からダウンタウンの繁華街に移し、年に5―6つの展示活動を行っている。 若手の作品を積極的に展示する登竜門的な所と言うよりはむしろ各国の確立したアーティストを選抜して展示しているギャラリーであるため、若干敷居が高いような気はするが展示されている作品の質の高さには定評が有る。これを象徴するかの様に、現在このVOXではニューヨークのMOMAやベニス・ビエンナーレにも参加したアメリカ人アーティストJeanne Dunningと、20世紀を代表するアイルランド人作家兼劇作家で、‘69年にノーベル文学賞も受賞したSamuel Beckettの作品を展示している。

 まず、ギャラリー入口に隣接しているメイン会場ではJeanne Dunningのビデオ、写真等の作品を鑑賞することが出来る。製作された年月が異なる作品を集めたこの展示だが、全てに女性の肉体、皮膚等の変貌や崩壊、肉体と自己との関係がテーマとして扱われているので非常に一貫性が有る。たいがい芸術作品の中で魅惑的又はグロテスクな物として扱われ易い女性の体だが、そういった固定的な枠にもはまらない特有の表現方法に感銘を受けた。日常と言う設定の中で繰り広げられるちょっと怪奇なこのDunningの世界。中でも、肌色の巨大風船の様な物の中に液体をつめた不思議な物体にベットの上で服を着せていく行程を映す“Getting Dressed”と 女性が体から薄皮を剥いでいくのを映し出す“Extra Skin (Subtracting)”というシンプルだがインパクトの強いビデオ作品に足が釘付けになった。

 一方のSamuel Beckettの作品は、中ニ階のそのまた奥にある映写室で鑑賞することが出来る。今回展示されている“Not I”と題されたこの白黒ビデオはBeckettが‘72年に書いた脚本をテレビ用に映像化した作品。暗闇で照らされた口、その名も“Mouth”という人物が折りなす独白劇で、人間の絶え間ない自己への問いかけからくる陥落、失望、不条理等がテーマだと言う。 照明の無い暗い室内では口だけが設置されたテレビのスクリーンに映し出され、 女性の無気味な囁き、叫び、狂笑が響く。台詞がもともと断片的に書かれている上、かなりの早口で演じられているため全てを聞き取るのが困難ではあるが、これがこの作品から伝わる不安定で切迫した感情の強烈さを創っている要因といっても過言ではない。

 鑑賞し終わってから備付けの台本のコピーを読んでみて改めて“Mouth”が何を伝えよとしていたか、そしてその心の闇の深さについて考えてみるのも面白いだろう。

文/Text畑山理沙Risa Hatayama
ギャラリー:VOX, centre de l'image contemporaine
所在地:1211, boulevard Saint-Laurent
スケジュール:火〜土:11時〜17時
メトロ:Saint-Laurent
電 話:514-390-0382
ウェブサイト:www.voxphoto.com
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