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さて、このDHC/ARTだが旧市街の中心にあるせいか、ちょっと分かりにくい場所にあるが、いざメイン会場に入ってみると内部は近代的な5階建ての展示室から成っており、入り口には制服を着た警備員とヘッドフォンを付けた受付係員が来場者を出迎えてくれる。アーティストランセンターとは違って小さな現代美術館と言った雰囲気がちょっと新しい。そしてその記念すべき第一回目の展示は、イギリス出身のコンセプチュアル・アーティストMarc Quinnによる近年の彫刻、ドローイング、絵画等の40点余り。【人体と美、生と死】がテーマとも言えるこの展示の中から、数々の作品の中で印象に残った物をいくつか紹介しよう。 まず始めに、メイン会場2階には私たち日本人にも馴染み深いイギリス人スーパーモデルKate Mossをモチーフにしたちょっと無気味な感じさえする彫刻について。現代女性と美の観念がテーマと言うだけあって、拒食症を彷佛とさせる肉体が、難度の高いヨガのポーズで鎮座する“Sphinx”と言うシリーズや、釈迦苦行像をレファレンスした“The Road to Enlightenment”など、Mossの顔の表情の穏やかさとは対照的な病的に細い体のギャップに釘付けになる。スリム=美しいと言う現代人の観念と執着についての鋭い風刺と言ったところだろうか。 次に同建物の3階に展示されている肢体不自由者の体をモチーフに古代ギリシャやローマの大理石彫刻風に創った作品について触れてみたい。これは、普段、私たちが博物館や本の中で目にしている古代彫刻の手足が、長い歴史の中で欠けてしまった場合と、肢体不自由者自体がモチーフになった場合を比較し、私たちの反応の違いを探求した作品。手足が不自由な事を蔑視するという意味ではなく「障害を乗り越えて逞しく生きている人達への敬意と賛辞を表したい」と言う願いが込められていると言う。率直に言うと、私自身は奇形の手足が有るこれらの彫刻にさほど強く反応はしなかったが、見た目の完成度の高さと歴史や美術史の参考としては興味深いと言えるのではないだろうか。 そして最後は4階にあるQuinnの実の息子、Skyをモデルとしたその名も“Sky”という作品。実は本物の胎盤とへその緒を透明な新生児の頭の形をした容器に入れて創った作品である。生の素材を使っていると言う事で、作品自体がケースの中で冷蔵保存されているからすごい。乳児の顔の皺や肌の感じが非常にリアルな上、赤黒い胎盤とへその緒が透明な容器越しにベルベットのような素材にも見え、何とも不思議な感触を醸し出している。この“Sky”と言う作品と対話する様に、反体側には妊娠していた当時のアーティストの細君を実際に象った“Hoxton Venus”という彫刻が置かれている。顔は髪の毛で完全に覆われているため見る事は出来ないが、顔が見えないせいで特定の女性像と言うよりも普遍的女性像として観る事が出来る。両作品共アーティストの生と死の宇宙観が良く伝わってきて非常に感慨深い作品だ。 今回ここに紹介した作品の他、人間と植物のDNAを使った作品や、骸骨をモチーフにした彫刻数点等バラエティーにとんだQuinnの作品が展示されている。旧市街に足を運んだ際は是非チェックして頂きたい。
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文/Text:畑山理沙/Risa Hatayama Photo: With kind permission from DHC/ART | |||||||||||
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