サンローラン通りを北上し、プラトーエリアを抜けてマイルエンドに入った辺りをちょっと右手に曲がると、途端に辺りが閑散となって雰囲気が一変する。サンローラン通りのすぐそばとは信じ難い人通りの無さで、ほんの数ブロックではあるが、大きな工業用ビルが建ち並んでいる。繊維関係の工場や倉庫が多いようで、関係者以外は用事の無い通りなのだろう、歩いている人を見かけることはあまりない。そんな昼なお暗いビルのハザマに、鮮やかに映える黄色の階段と看板がClarkの目印だ。なぜそんな所にアートギャラリーが、と思われるかもしれないが、非営利に運営しているアーティストランセンターにとって集客はさほど重要事ではなく、交通が不便でさえなければ特に表通りに看板を掲げる必要もないのだろう。また、その辺りにアトリエやスタジオが案外多いことから分かるように、この地区は、住環境の良し悪しよりも広さと自由と安い家賃を求めるアーティストたちにとって穴場的な場所といえる。自治体から助成を受けながら運営しているギャラリーにとっても同じことが言えるのかもしれない。

 そのClarkでは今、フランス・ボルドー出身のMichel Herreriaとモントリオール在住のMax Wyseの二人展が行われている。壁に所狭しと展示された作品群。Herreriaのペン描きドローイングが、Wyseの大きなドローイング6点を取り囲んでいる。その数は80点程にもなるだろうか。昨今の、いかにも現代美術然としてミニマルな、ソフィスティケートされた謎解きのようなアートに食傷気味の方にお勧めしたくなる展示。

 Herreriaはドローイングの原点を極めるかのように黒ペンのみで制作している。下書きなしの一発勝負な線には、迷いや失敗という言葉を忘れさせてくれるポジティブさがある。それらは勢いで描かれた線ではなく、じっくり着実に引かれた線であり、その確立されたスタイルと相まって、安定感をかもし出している。人体のデフォルメが主な興味のようで、人型キャラクターが異次元世界にいる場面が繰り返し描かれている。

 対照的にWyseの作品はカラフルで、そのメディウムや手法も実に様々だ。マットなアクリル下地に鉛筆、コンテ、あるいは木炭でドローイングし、アクリル、水彩、金泥などで濃淡様々に着彩している。重ね、擦り、にじみ、ぼかし、ひっかきなどが試みられ、ありとあらゆる画材とテクスチュアの見本市のようで、そこに注目するだけでも楽しい。主なモチーフは”おじさん”で、ランニングシャツに手袋といった出で立ちのおじさんが、サスペンスなポーズで活躍している。横長の画面は、左から右にストーリーが展開しているようで、6点の絵を会場の左からぐるりと見て廻ると、ひとつの物語の起承転結を観た気分になった。その6つの幕間に、と言っては失礼だが、Herreriaのドローイングがぎっしりと詰まっているような具合だ。

 展示の方法としては、2本の映画を交互に切れぎれに見せられているみたいな状態で、少々疲れる。しかしこの二人展は、作品とその空想世界を展示するとともに、彼らのような、制作量の多いアーティストや、常に新しい試みに貪欲なアーティストの生態をも垣間見せていると思う。

 いつもメモを取っている「メモ魔」がいるように、「描き魔」というのがいて、描く事は彼らの生活の一部だ。私は「ドローイング中毒」のアーティストを知っているが、彼はとにかくヒマさえあれば描いている。話しながら描いている。ハミガキコのチューブにまで描いている。こういうアーティストは「自己の内面を追求」したり「現代社会のひずみを描き出す」つもりはなさそうだ。ただ描きたいと思うものを、純粋な喜びを持って描いているように見える。メッセージ性の強いアートが観客に「考える」機会と喜びを与えてくれるように、創造の喜びによって生み出されたアートは観る者に純粋なる「見る」喜びを与えてくれるのではないだろうか。

Inflorescences展は2月17日まで。  

文:本田 恵生
ギャラリー:Le Centre d'art et de diffusion Clark
所在地:5455 ave De Gaspe, room 114
スケジュール:火〜土:12時〜17時
電 話:514-288-4972
ウェブサイト:www.clarkplaza.org
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