今回目指したOBOROはダウンタウンにほど近いプラトー地区の閑静な一画にあった。同じビル内に思いがけずRCAAQのオフィスとDAZIBAOという写真専門のギャラリーがあり、ちょっと嬉しい発見であった。RCAAQは”Repertoire des centres d'artistes autogeres du Quebec et du Canada”の略で、私にはケベックのアーティスト・ラン・センターの大元締めのようなイメージがある組織だ。実際どのような活動をする機関かということについてはまた別の機会に取材させてもらうことにして、3階のOBOROへ。

 何だか普段ギャラリーを訪れる時とは少し違った期待感があるのはやはり「おぼろ」という名前のせいだろうか。いかにも日本人の方が関わっていそうだと思いませんか?ウェブサイトにも日本語のページがあるし。(そうしてその優し〜い日本人スタッフの方が「あら、ちょうどもう一人スタッフを探していたところなんですよ!」とか言ってくれたりして・・・とここまで私の妄想は勝手に膨らんでいました。仕事にアブレているので、つい・・・)

 しかしこの名前は、かなり意外なところに由来があった。ギリシャ神話の「ウロボロスの蛇(あるいは輪)」のOuroborosから取ったものなのだという。自分の尾をくわえ込んで輪になり、更に自らを食べ尽くして消滅してしまうこの蛇(または竜)は、無と無限、真理と知識の合体、創造、相反するものの一致など、実に様々な意味を持つ。ギャラリーのネーミングにしては大仰な気もするが、タロットカードの「運命の輪」とは「ウロボロスの輪」の事だそうで、その意味のひとつに「変転する時間、様々な出来事のローテーション」とあるので、これならギャラリーらしい名前のようにも思う。ともあれこのギャラリーは日本とは何の関係もないそうで、以前は日本人のデザイナーがいて、そのためサイト内に日本語の紹介文が挿入されているとのこと。

 このOBOROで現在展示されているのはモントリオール在住のアーティスト、セルジュ・マーフィーのインスタレーション。かれの作品は、あくまでも身近にありふれた素材で作り上げられている。それはビニール袋であったり、丸めたティッシュペーパーであったり、ベニヤ板やダンボールや発泡スチロールの切れ端であったりする。これらのいわゆる「ゴミ」が、この著名なアーティストの審美眼によって選ばれ、注意深く組み合わされると、不思議な輝きを持って観る者を惹き付ける。

 OBOROの大小ふたつの部屋のうち、大きい方の部屋では、天井から下げられたサビの出た針金でゆるく形作られた枠に、様々な素材がからみつき、ひっかかり、ぶらさがっている。もろく、はかなく、あやうい印象。それはこれらのモチーフが、主体性の無いものばかりだということに起因するのかもしれない。小さい部屋には”On the Edge of Successful Landscape”という作品が床に直に構成されている。他に人がいなかったことを幸いに、床に座り込みその絶妙な色と形とボリュームのバランスを眺めると、タイトルに「風景」とあるだけあって前述の作品よりはもう少し具体性があるように思える。まるでへなちょこな遊園地のように見えてくる。彼自身の言う、「”大家”の地位を受けず、覚悟の上であえて”弱き”を演じる」スタンスに支えられて、これらの作品のへなちょこぶりはロマンチックでさえある。大物アーティストの中には、制作にどれほどの費用を投じたかとか、素材や技術の開発にばかり力を入れるとか、助手がたくさんいて本人は指示を下すだけ、というような人が多いようだ(そのくせ映画や舞台、音楽といった芸術とは違って協力者の名前は全く表に出てこないのだ)。彼の言葉の中に、そんな現代芸術事情に対する批判が込められているのかも、と勘ぐるのは私の個人的な思いだろうか。セルジュ・マーフィーは実際に70年代から現在まで国内外のギャラリーや美術館で発表を続け、2004年には国からベルカナダアワード(映像部門)を授けられている大物アーティストである。が、そんな年季や肩書きを微塵も感じさせず、現代社会における原始的アイテムを用いての手作業で作り上げられた彼の作品は、観る者にそれぞれの見方や楽しみ方や解釈を許していると思う。ゴミとグルーガンに栄光あれ!

セルジュ・マーフィーの展示は12月16日まで。  

文:本田 恵生
ギャラリー:OBORO
所在地:4001 rue Berri, local 301
スケジュール:火〜土:12時〜17時
電 話:514-844-3250
ウェブサイト:www.oboro.net
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