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フェスティバル7(2003/11/1)
フェスティバル
梅田宏明(カンパニーS20)、写真:塚田洋一
梅田宏明(カンパニーS20)、写真:塚田洋一
Installation, CARLOS AMORALES
Exposition n.34, LAURENT GOLDRING
映画や音楽関連のフェスティバルが数々ある中、今回はモントリオール随一のダンスフェスティバルを紹介したい。毎回、国際的に活躍しているカンパニーから地元の若手アーティストまで、選りすぐりの面々がプログラムをにぎわせている。時代を先取りするように変革を遂げるこのフェスティバル、これからもますます客層を広げていくだろう。

モントリオールヌーベルダンスフェスティバル (International New Dance Festival、通称F!ID)
期間:9月30〜10月12日
場所:プラスデザール、アゴラドゥラダンス他数ヵ所

 1975年開催以来、2001年に記念すべき第10回を華やかに飾り、革新の時期を迎えているヌーベルダンスフェスティバル。2003年の第11回では、文字通りその様変わりぶりが目に留まった。まず、シンプルな「F!ID」という新規ロゴの採用。街角でこの赤い文字を見かけた人は少なくないだろう。また、それまでの隔年開催が毎年に。これからは奇数年に限らず、各国からの旬のダンスカンパニーによるパフォーマンスを堪能することができる。加えて、国内外のパートナーシップの強化も目立つ。モントリオール市観光局と組み、秋も深まる観光シーズンを飾る一味違うマルチなイベントとして集客力を増す。国外の協賛組織とは、国際プログラム枠を設けて共同制作する。中でも国際的なコンテンポラリーダンスシーンにおける日本の存在は常に異色を放っており、ベルギーやフランス、ドイツなどと並び、F!IDが共同プロジェクトを推進しているパートナーでもある。今年は梅田宏明や高井富子が出演した。

 ところで、このフェスティバルの魅力は、何よりも時代に先駆けるがごとく多様なメディアを取り入れていく包括性にある。これはコンテンポラリーダンスと呼ばれる世界のもつ性質にも通じる。言語という規制がなく、身体という人間誰もがもつメディアを元に生まれる創作の世界に、映像や音といったテクノロジーが絡み、さらには古典舞踊の世界では過小評価されていた個人の思考というこれまた人間誰しも行う営みが大きく関わってくる。このような性質があるだけに、実際、このフェスティバルはダンス作品を劇場で見せるだけではなく、ディスカッションの場や展覧会、一種のクラブイベントなども併設している。利用会場だけでも17に渡るところからもわかるように、場所を代え視点を変え、その実験精神はますます社会における波紋を広げていく勢いに満ちている。

 今回、組織変更をしたことで、当フェスティバルの方向性がはっきりと打ち出された。それは、国際的という意味でも、多種メディアを包括するという意味でも、グローバルな実験と思考の場を設定していくということだ。第一回から変わらず理事を務めるシャンタル・ポンブリアンの系統立った思考と実現志向は、彼女が中心となって発刊している「Parachute」というアート雑誌にも現れている。ちなみに、この雑誌の内容は英仏語で併記されている。

 さて、2003年のラインナップで嬉しかったのはバトシェバダンスカンパニーの出演。日本からも聞こえてくる評判やモントリオールグランバレエカナディアンによるレパートリー作品上演を経て来演の待たれていた、地元イスラエルで国民的支持を得ているといわれるカンパニーだ。イスラエルのアーティストというと、数ヵ月前、パリのポンヌフ上で行われた短いパフォーマンスが印象に残っている。ウェディングドレスさながらの真っ白なドレスを着たパフォーマー。その胸元に結わえた状態で付着している何束もの白い毛糸を一つ一つ無心にほどいていく。ほどかれた白い毛糸は川の流れのごとく彼女の胸部から垂れている。民族単位か、個人単位か、もつれた個々の感情が開放されたように。どんな訴えよりも心にストレートに伝わってくる追悼と平和のメッセージだった。暴力性も加えた同様のイメージが、このバトシェバダンスカンパニーの振付家オハッド・ナハリンの作品からも伝わってきた。民族性が、身体的な技術や演出と並列した一要素として現れている部分が何よりも目を引く。彼の作品を社会的メッセージと受け留めるか、美的な芸術と受け留めるかは観客次第だ。どちらと決めつけることはできないかも知れない。ダンスと名づけられていても、時代の流れで総合芸術的要素が強くなっているメディアであるコンテンポラリーダンス。ドキュメンタリー性と芸術性も境界線のない状態で混在しているのかも知れない。

 尚、今回の改変で、フェスティバル時期以外にも同事務局が数公演を主催することになった。「F!ND PLUS」と呼ばれる枠内で、200432627日にはアメリカからArnie Zane Dance Company (BILL T. JONES)が招聘される。じわじわと「いつでもどこでも」感を増していくF!IDである。

取材・文:広戸優子