8月下旬、秋の気配とともにやってくるモントリオール国際映画祭の季節。連日朝から夜までの上映で世界各国からの映画ファンを楽しませるのはもちろん、見本市や映像技術に関する会議など、多面的に機能している。過去の人気作品の野外上映も、夏の夜の風物詩として定着したイベントのひとつだ。

モントリオール国際映画祭 (World Film Festival)
期間:8月27〜9月7日
場所:シネマパリジャン、イートンセンター他数ヵ所

 モントリオールに数年住み、この映画祭で日本映画を何本か見ることが毎年の楽しみのひとつのようになってきた。毎年、東宝・松竹系からインディペンデント系まで数作出品される。なにせ、ここモントリオールで日本映画をスクリーンで見る機会は通年で数えるほどしかない。それも、オカルトものなど特殊な例を除いた作品を探すとなるとなおさら。

 2003年(第27回)のラインナップを飾った日本映画は9作。唯一のコンペティション出品作「阿修羅のごとく」(向田邦子原作)の森田義光監督の舞台挨拶など話題が多々ある中、時代劇作品である山田洋次監督「たそがれ清兵衛」(藤沢周平原作)と滝田洋二郎監督「壬生義士伝」(浅田次郎原作)のコントラストに注目した。どちらも幕末の貧しい地方武士を主人公としているのだが、描き方が異なる。山田監督の方は時代の中の忘れられたような逸話に焦点を当て、全体的に淡々としていて地味。ラストの田中泯扮する男との一騎打ちさえもあくまで抑え目。リアリズム追求派。実際、時代考証には一年間かけているという。一方の滝田監督はエンターテイメント性重視。音楽と映像での雰囲気作りに余念がなく、その上、剣の達人でもある田舎侍に扮する中井貴一の魅せっぷりは、さながら「映画スタア」のようだ。また、時代劇作家藤沢周平と、これが初の時代物という浅田次郎という、原作者のタイプの違いもこの対照に一役かっている。両者のうち、特に「壬生義士伝」は日常的に人々に親しまれている映画というメディアのあり方について考えさせる活劇だった。ただ、少し視点を変えてみると、結局、2作ともリストラと経済低迷の波の押し寄せている日本社会への応援歌というベースがあるように見える。前述の「阿修羅のごとく」にしても、家族を中心とした地道な社会への回帰を謳っているように見えてしかたがなかった。このように、すでに経済低迷状態を通過してきたケベック社会にいながら、現日本社会の状態を意識させられる日本映画作品群だった。

 さて、日本以外の文化圏の作品に目を移してみよう。まず、カナダ作品が全体の堂々20%を占める(2003年)。この数字はスポンサー陣に名を連ねるテレフィルム・カナダの規定が元。一方で、世界の主要なコンクール形式の映画祭との提携が白紙になったことから、国際レベルのライナップから一歩外れた観をもたれざるを得ない当フェスティバル。

 といえども、2001年の「家路」が記憶に新しいマノエル・デ・オリヴィエラ監督による「A Talking Movie」(ポルトガル・フランス・イタリア合作)のようにドキュメンタリーのトーンを醸しつつ芸術的で成熟味あふれた作品を、全446作品の中に見い出すことができた。ちなみに御年90数歳というオリヴィエラ監督の舞台挨拶では、会場の映画ファンは総立ちで彼を歓迎した。

 今回最も筆者の心に残った作品は、アフリカ映画枠で上映された、NAWFEL SAHEB-ETTABA監督による「The Booksotre」(チュニジア・フランス・モロッコ合作)。セピア色した旧きヨーロッパの香り残るチュニス。先代から引き継がれた小さな書店を舞台に、適合と自我の危ういバランスに揺れる4人の心理の交差を描く。人物描写の繊細さと演劇風なカメラ割りなどによって、独特の世界に惹きこむ力をもった作品だった。チュニジア生まれのこの監督、1990年にケベック大学モントリオール校にて映画制作関連コースを修了している。

 SAMIRA MAKHMALBAF監督の「At Five In the Afternoon」(イラン・フランス合作)は、タリバン政権崩壊後のアフガニスタンで改めて女性に門戸を開いた学校のようすと、そこに通いながらいつか国主になろうと考えている女性の生活を、時にはドキュメンタリー風に、時には詩的に描いた作品。ヒロインの父はタリバンの支持者である。国境のフランス兵と彼女の対話が象徴的。SAMIRAの父MOHSEN MAKHMALBAF監督作品「カンダハール」と似通っていたタイプの作品だが、「At Five…」の方が、既成の詩作品を引用するなど創作面の色彩に富んでいる感があった。SAMIRAは幼少から数回アフガンを訪問し、その体験を基にこの作品を組み立てた。同氏はインタビューでマスメディアの役割について指摘する。「マスメディアは世界の権力者の正式な声明のみを世界に伝えるに留まっています。そんな中、映画のみが対象の魂を伝える声を盛り込むことのできる媒体です。マスメディアはアフガンの現状を世界に継続的に伝えなかっただけでなく、時とともに、その報道で誰もがアメリカ政府寄りの考えをもつという結果を招きました。それに加え、アメリカ業界は数年前にランボーがアフガンを救うという映画(「ランボー3 怒りのアフガン」)さえ制作していました。父の作品「カンダハール」は、911事件より前に制作されています。当時、アフガンのことを話す人は誰もいない状況でした…」当映画祭に続き、10月8日までEx-Centrisにて公開中。2003年のカンヌ映画祭では審査員賞を受賞している。

 また、「世界のドキュメンタリー」枠では、カナダの「ドキュメンタリーの伝統」を誇りと謳いつつ28にのぼる長編作を公開。テーマはイラン、売春、中国の一人っ子政策と兵役、一人暮らし、タッパーウェア、路上生活者などさまざま。JEAN-NICOLAS ORHONJULIE ORHONSEBASTIEN PATENAUDESTEVE PATRY共同監督作品「Asteur」(カナダ)は、ケイジャンで知られるルイジアナ州に1755年以降渡り住むようになったアカディアン(17世紀のノバスコシア州仏系入植者たち)のルーツを、25年前に同様のテーマで撮った映像を交えながら探った作品。もう仏語を話すことのない世代にあって、民俗音楽が受け継がれている点など興味深かった。

 前述のMOHSEN MAKHMALBAF監督は、「『国境なき医師団』が存在するならば、『国境なき映画人』も存在し得る」と信じているという。観客としても、異文化圏をトリップする楽しみが国際映画祭にはある。また、今回のプログラムでも、プレジデントであるSERGE LOGIQUE節とでも呼びたくなるような当映画祭定番のテーマ―老年、健康、子供、日本映画においては武士道など―が健在だった。今後、スポンサー陣のプレッシャーがかすむような新風を巻き込むラインナップを期待している。


10月3日〜11月2日 Halloween - The Great Pumpkin Ball (HP)

10月8日〜10月14日 The Black & Bleu Festival (HP)

10月9日〜10月19日 Montreal International Festival New Cinema New Media (HP)

10月21日〜10月26日 The Montreal Electronique Groove (HP)

10月29日〜11月1日 La Grande Mascarade, la Fete de l'Halloween (Old Port)


取材・文:広戸優子
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