DANCE NOTEを掲載し始めて1年が経った。その間にもコンテンポラリーダンスのあり方は刻々と変わってきた。そしてこれからもますます変わりゆくだろう。例えば、他アート分野との境界線がますますあいまいになってきている。いつの日かあなたの好きなミュージシャンや演劇の舞台監督が、ダンス界のアーティストとコラボレーションをする日がくるかも知れない。果てにはあなた自身がダンスで自己表現する日がくるかも知れない。コンテンポラリーダンスはそうして思わぬうちに身近なものとなっていく柔軟性と可能性をもっている。人と人とをつなぐコミュニケーション手段の一つとして、社会で一つの役割をになっていくだろう。
■Tue.3.26.2002 - Sat.4.13.2002 8:00pm (Tue.- Sat.)

ケベックダンス界の大御所、JEAN-PIERRE PERREAULT登場。メトロ内の "Nuit" と書かれたシンプルな電光広告に目をとめた方はいるだろうか。この作品、実は1986年に創られたもののリメイク。なにせカンパニーが設立されたのが1984年、JEAN-PIERRE PERREAULTがケベックダンス界で活動し始めてから35年は経つ。そんな長い歴史を再見する絶好の機会。数十年を経て彼のスタイルははっきりと確立されており、当然ながら次世代をになうパフォーマー・振付家たちを影響し、育てつつある。舞台装飾に投影された視覚的ユニバースはひとつの水彩画のようだ。ダンスに限らずスペース全体をノスタルジックに演出する芸術家である彼、2001年には教会をカンパニー専用のスペースとして改築させた。まさに彼のキャンバスともいうべくそのオリジナルスペースで、今回の10人のパフォーマーたちによる作品 "Nuit"(夜)は繰り広げられる。

<劇場>Espace Tangente (840 Cherrier x St-Hubert, Tel.514-525-1500) <料金>$15 − $24 <振付>JEAN-PIERRE PERREAULT <演目>Nuit <写真>La Fondation Jean-Pierre Perreault

■Wed.4.3.2002 - Sun.4.14.2002 8:00pm

歴史という点ではこちらも特筆すべき。今年、設立30周年を迎える Les Ballets jazz de Montreal。グラン・バレエ・カナディアンに次いで古いダンスカンパニーだ。祝賀を兼ねて30年来芸術監督をつとめるLOUIS ROBITAILLEがチョイスした今作品集は、過去・現在・未来の3パートに分かれている。これまで協力してきた振付家から新たに招へいした CRYSTAL PITEまで、いつもながらの作品の幅広さ。また、CRYSTAL PITEの作品は3部作のうちの第一作ということで、歴史のページがこれからも続くことを強調する。ダイナミックで愛にあふれたパフォーマンスをどうぞ。

<劇場>Espace Go (4890 St-Laurent x St-Joseph, Tel.514-845-4890 ) <料金>$26, 学生20% off <カンパニー>Les Ballets Jazz de Montreal <振付>CRYSTAL PITE, TREY MCINTYRE, PATRICK DELCROIX他 <演目>Lumiere Espace Temps II (Light-Time-Open Space II) <写真>Joel Dumoulin(作品 "Sous le rythme, je…" より)

■Thr.4.25.2002 - Sat.4.27.2002 8:00pm

私がこの公演をことに楽しみにしているのは、振付家 ALEXANDER BAERVOETSが批評家あがりだから。それこそいずれダンス界のフランソワ・トリュフォーとなる日がくるか否か?どんなふうにその感性を視覚化するのだろう。ダンスに対する好奇心によっていつしか創作へと導かれる、というのはわかる気がする。オブサーバーでいることにこだわりをもつ私でさえも、数年ダンス公演を観続けていると、時折、独自の演出を思い描いたりもする。それも自然な流れの中で。ただそれを具体化し、ひとつ、ふたつと持続的に作品を完成させていけるかどうかが分かれ目だと思う。ダンス公演を観ながら、いつもながら表現者と観客との距離が近いと感じるのである。

<劇場>Agora de la Danse (840 Cherrier x St-Hubert, Tel.514-525-1500) <料金>$28, 学生$21 <振付>ALEXANDER BAERVOETS(ベルギー) <演目>Das Wohltemperierte Klavier / Room 201 <写真>MARC HOFLACK(作品 "Das Wohltemperierte Klavier"より)

■Wed.4.10.2002, 8:00pm〜Thr.4.18.2002, 8:00pm

春の到来はこのイベントとともにやって来る。各地区の文化会館 Maison de la Cultureにて無料公演されるコンテンポラリーダンス数作品。いずれもモントリオールで活躍している振付家たちだ。ヒッチコック作品にインスピレーションを受けた "The Birds" は演劇要素が楽しめる。

<イベント>Les printemps de la danse <日時・劇場>Wed.4.10.2002, 8:00pm at La Maison de la Culture Frontenac*, Tue.4.16.2002, 8:00pm at MdlC Cote des Neiges*, Thr.4.18.2002, 8:00pm at MdlC Plateau-Mont-Royal* <料金>無料 <振付>DEBORAH DUNN, PAMELA NEWELL, DEMI-LUNES VIOLENTES <演目>The Birds (DUNN), Desire (NEWELL), Saloon (DLV)

*Laissez-passer(レセ・パセ)という無料券をあらかじめ、各劇場入り口で入手する必要があります。基本的に公演一週間前から配布されています。MTL在住者向けなので、市営図書館の貸出証、ケベック州免許証、BellかHydro-Quebec 請求書、Acces Montrealのどれかを提示して下さい。なお、事前にチケット残数も含め、それぞれの会館に確認することをお勧めします。


■Fri.4.12.2002 - Sat.4.13.2002 8:30pm

シリーズ100回記念。Studio 303でおなじみの22の振付家たちが、それぞれの作品を3分3秒という制限時間の中で披露する。筆者いちおしのリラックス派 MARTIN BELANGER、DANCE NOTEでも紹介したマルチカルチャーアーティストMARIKO TANABE、演劇界ともつながりが深い LIN SNELLING、そして視覚的な笑いのツボを知っている LES P'TITES GEANTES 等々、必見。お祝い気分の中、Studio 303のディレクターの1人 MIRIAM GINESTIER もその作品を発表する。

<劇場>Studio 303 (372 St-Catherine W., Tel.514-393-3771) <料金>$10 <振付>K8 ALSTERLUND, MARTIN BELANGER, SONYA BIERNATH, MARC BOUCHER, MARTHA CARTER, NATHALIE CLAUDE, DEBORAH DUNN, SARAH FEBBRARO, TAMMY FORSYTHE, MIRIAM GINESTIER, SARA LUCIE HANLEY MARIA KEFIROVA, MARY ANN LACEY LINE NAULT, STEPHEN O'CONNELL, MYLENE PELLETIER, LES P'TITES GEANTES, SUZANNE MILLER, VICTOR QUIJADA, LIN SNELLING, MARIKO TANABE, SARA WISKAR <演目>Vernissage-Danse #100 <写真>上MICHAEL SLOBODIAN(写真上:MARIKO TANABE)、下SHELAGH ALBERT(写真上:MIRIAM GINESTIER)

■The.4.9.2002 - Sat.4.13.2002 8:00pm

マルチメディアや歌唱、演劇をミックスした作品で知られる地元人気アーティスト。ノルウェーやスペインで公演してきた後、新作 "Strata" をモントリオールの観客に披露。この作品はダンサーに加えて演劇役者、歌手たちによって繰り広げられるある人生の物語。大劇場で観る舞台芸術作品を堪能して欲しい。

<劇場>Centre Pierre-Peladeau (300 Maisonneuve E., Tel.514-987-6919) <料金>$35 <カンパニー>PPS Danse <振付>PIERRE-PAUL SAVOIE <演目>Strata <写真>AKE PARME

■Thr.4.25.2002 - Sat.4.27.2002 8:00pm

アメリカ全土に加えコロンビア、スイスそしてカナダ…総計24か所をツアー中の Rennie Harris Puremovement。アメリカのヒップホップダンスカンパニーだ。仏語圏であるケベックがヨーロッパとよりつながりがあるせいか、となり合わせていながらアメリカからのカンパニーにはここでは滅多にお目にかかれない。なおかつ、ヒップホップダンスのパイオニアと呼ばれている芸術監督 RENNIE HARRIS。DANCE NOTEで紹介したフランスのヒップホップダンスカンパニー Kafig とはまた一味違った、歴史を感じさせるストリートダンスを展開してくれるだろう。遠征先でRENNIE HARRISが主催するワークショップには、ヒップホップマスタークラスの他、ヒップホップヒストリーのレクチャー兼デモンストレーションも含まれている。これぞ社会が生んだダンス。そして社会に問いかけ続けるダンス。

<劇場>Centre Pierre-Peladeau (300 Maisonneuve E., Tel.514-987-6919) <料金>$35 <カンパニー>Rennie Harris Puremovement(アメリカ) <振付>RENNIE HARRIS <演目>Repertoire <写真>BOB EMMOTT
<観劇後感>

観 劇 日:Fri.3.22.2002
振   付:HIDEO ARAI(新井英夫)
演   目:Gravity
音   楽:GaPa = GANESH ANANDAN, PATRICK GRAHAM
演 出 協 力:GUY LARAMEE
写   真:YUKO H.(下:ワークショップより)
劇   場:Espace Tangente

 天空に払い上げた白粉。次の瞬間、直線でも曲線でもない様態を保ちながら地面へと向かい始める。突然そこに、ふっと息を吐きかける。粉は身をそらすように横なりに迂回するものの、それでも地面へと向かう。天井からぶら下がっている植木鉢。その底から時折垂れる水滴が床のアルミニウム器に当たる。上演中に暗転があろうとも、小さな板が床に倒れようとも、ポツン、ピシャンと独自のリズムを保ちつつ。

 Gravity ―「重力」はわれわれを取り巻いているが、日常で気に留められることはない。そんなあたり前のことでありながらとかく影を潜めているひとつのテーマが、約12のスケッチ集となってわれわれの前に蘇る。「私のダンスの先生は母なる自然」という新井英夫、今作品では天井から垂れ下がる裸電球や小麦粉の動くさまや、スクリーン状に張られた白幕に映る影などを注視する。それらの物、そしてそれに遭遇する自分自身、果てには彼を取り巻く観客たちすべてに意識を浮遊させ、ひとつの親密なユニバースを創り上げていく。

 ところでこの作品、始終新井のパフォーマンスに寄り添っては離れる打楽器の音なしでは語れない。GaPaことGANESH ANANDANとPATRICK GRAHAMたちによる生演奏だ。このモントリオールの音楽家2人と新井は、1万5千キロメートルという日本とカナダ東沿岸の距離をまったく感じさせない、絶妙のコンビネーションを見せてくれる。時には新井の踏み出した一歩と同時にただ響くドラの音。一方では、昇天するがごとく鳴り渡る笙の音にとりつかれたように踊る新井。スケッチごとの合間の暗転中は静寂のままであったり、GaPaがステージ前面にふらっと来てハンドドラム等を演奏したり。実際、スペース奥にある彼らの陣地には、50種類以上の大小の打楽器がところ狭しと並べられている。ほぼ見たことのないタイプの楽器たちだ。自作したものもあるという。彼らが腰掛けている枕大の木箱には一つだけ穴があいている。それを座ったまま叩いたりもする。また、小学校の始業終業時に鳴らすベルもあるし、風鈴やもくぎょうまである。「職人工房」という言葉が浮かんだ。

 今回の作品は新井英夫がモントリオールに到着した後、10日ほどかけてGaPaとともに創りあげられた。当初は自分の演技ひとつひとつに説明を求められ、バックグラウンドの違いからくる違和感も感じたが、わずか数時間で3人の共通理念が似通っていることに気づいたと彼は言う。その共通理念とは「日常をステージにもちこむこと」だ。グローバル&ミニマルな視点。単純に見えて複雑。私はそんな奥行きも彼らの共通点としてあげたい。マイクを向けようが向けまいが、舞台上と変わらぬはっきりとした発声で語り続ける新井英夫。彼の作品はそんな彼自身に注目することでおもしろさが増す。舞台作品としての構成や、視覚的効果に物足りなさが残るものの、自然や人々と接することによって生まれ出るエネルギーにつき動かされて踊る彼を観ることが何よりの楽しみだ。

クレジット:表紙写真/JEAN-PIERRE PERREAULT, Photo: La Fondation Jean-Pierre Perreault

取材・文:YUKO H.
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