今月のコンテンポラリーダンス界は、ちょっとした「日本な夜」をプレゼントしてくれる。目玉は日本を拠点とする振付家兼パフォーマー新井英夫。重力、波、流れ、雲、風といった自然の「声」をベースとした理念を根底にもち、広島のローカル電車内で、湯布院の美術館中庭で、東京の廃虚となった小学校で、雪の降る青森でパフォーマンス「自然との対話」を繰り広げてきた彼。

今回、モントリオールに3週間にわたり滞在しつつ、音楽家 GANESH ANANDANとPATRICK GRAHAMとの共同制作を行う。そして、その結果がヌーベルダンススペースTangenteを通じて、観客へと届けられる。バックグラウンドの異なる二人の音楽家と振付家のユニバースがどう融和あるいは衝突し、一つの作品を創っていくのか。また、モントリオールという街が新井英夫の感性にどう呼びかけていくか。必見。

一方、JOCELYNE MONTPETITの << La femme des sables>>(砂の女)には、別の視点にもとづいた日本投影が期待できる。日本の舞踏界に入り込み、実際劇団員の1人として活躍した経験のある欧米振付家の第一人者。とかく舞踏経験がクローズアップされるが、20年以上に及ぶキャリアの中で、演劇、マイム、サーカスといった分野での経験も見逃せない。実際に彼女特有の聖なるユニバースを確立している。なお、安部公房の「砂の女」にインスピレーションを受けた新作なだけに、耽美派としての本領発揮まちがいなし。

■Thr.3.21.2002 - Sat.3.23.2002 8:30pm, Sun.3.24.2002 7:30pm

<劇場>Espace Tangente (840 Cherrier x St-Hubert, Tel.514-525-1500) <料金>$15, 学生$13 <振付>HIDEO ARAI(新井英夫) <演目>Gravity <音楽>GANESH ANANDAN, PATRICK GRAHAM <写真>PIERRE RENAUD (写真上: GANESH ANANDAN, PATRICK GRAHAM)

■Wed.3.13.2002 - Sat.3.16.2002, Wed.3.20.2002 - Sat.3.23.2002 8:00pm

<劇場>Agora de la Danse (840 Cherrier x St-Hubert, Tel.514-525-1500) <料金>$23, 学生$16 <カンパニー>Jocelyne Montpetit Danse <振付>JOCELYNE MONTPETIT <演目>La femme des sables <写真>GUY BORREMANS

■Wed.3.20.2002 8:00pm (Laissez-passer* Wed.3.6.2002より配布)

ダンスと文学、文学と音楽、音楽とダンス ― 3つの創作形態がデュオとして出会い、最終的にひとつのコーラスへと溶け込んでいく。

<劇場>La Maison de la Culture Frontenac (Metro Frontenac, Tel.872-7882) <料金>無料 <振付>LUCIE GREGOIRE <演目>Trajectoires <音楽>RAINER WIENS <詩>DENISE DESAUTELS

*Laissez-passer(レセ・パセ)という無料券をあらかじめ、各劇場入り口で入手する必要があります。基本的に公演一週間前から配布されています。MTL在住者向けなので、市営図書館の貸出証、ケベック州免許証、BellかHydro-Quebec 請求書、Acces Montrealのどれかを提示して下さい。なお、事前にチケット残数も含め、それぞれの会館に確認することをお勧めします。


■Fri.3.22.2002 8:30pm, Sat.3.23.2002 8:30pm

はじけた女性アーティストたちによる日替わりの2夜。1994年以来、毎年開催されているシリーズ。各地から演劇的要素をもつ作風が集まる。NIKA STEIN (3.22)は、骨盤から湧き出る濃厚なパワーをテーマとした作品を披露。「バイオダイナミックダンス」探求の一環である。"Madonna Loves Me"(3.23)なる作品の中で、KAREN BERNARDはマドンナ、そして彼女の旧い曲に愛の意味を探る。ANITA PONTON (3.22, 23)はパフォーマンスとサイバースペースとの関係をテーマに博士論文を準備中。いずれもStudio 303ならではの型破りな面々。

<劇場>Studio 303 (372 St-Catherine W., Tel. 514-393-3771) <料金>$10 <振付>NATHALIE CLAUDE, KAREN BERNARD (ニューヨーク), ALEXIS O'HARA, ANITA PONTON(イギリス)他 <演目>Edgy Women / Femmes au dela IX <写真>ANITA PONTON


■Thr.3.7.2002 - Sat.3.9.2002 8:30pm, Sun.3.10.2002 7:30pm

O Vertigoを始め、地元人気振付家のもとでダンサーとしてのキャリアを積んだMIREILLE LEBLANC。今回の作品はデュオ。彼女の興味分野である歌・演劇・パーカッションと身体言語の出会いに注目。一方のSARAH JOY STOKERは、生まれながらに人間が抱いている「恐れ」をテーマとし、X線を透したように体の核部分を映し出すビデオ映像を利用したソロを見せる。

<劇場>Espace Tangente <料金>$15, 学生$13 <振付>MIREILLE LEBLANC / SARAH JOY STOKER(ニューファンドランド) <演目>La derive / Je ne peux pas


■Thr.3.14.2002 - Sat.3.16.2002 8:30pm, Sun.3.17.2002 7:30pm

電子音楽に彩られた空間。そこに6人の個性派が集えば、何が起こるか予測がつかない―。ケベックはキャリアの浅いスペシャリストにチャンスを与えることに積極的だ。それはIT業界のみならず、コンテンポラリー界でも同じこと。とはいっても、もちろんチャンスをつかむことのできる人は限られている。UQAMのダンス科を卒業し、着々と作品発表の場を得ているALEXANDRA L'HEUREUXのもつパワーと可能性を探ってみる価値はありそうだ。

<劇場>Espace Tangente <料金>$12, 学生$10 <振付>ALEXANDRA L'HEUREUX <演目>Le specquetacle

<観劇後感>

観 劇 日:Fri.2.15.2002
振   付:ANNA JANKOWSKA, HEINI NUKARI
演   目:No time for Wasa
写   真:H. KELLNER
劇   場:Espace Tangente

ヨーロッパと北米のアーティストを交換し、各地をツアーをする Les Bancs d'essaiシリーズ。今回エドモントン、リュクセンブルク、ドイツ、イギリスなどのカンパニーによる6作品がモントリオールにやって来た。中でもドイツのカンパニー Travaを形成する、ポーランド出身ANNA JANKOWSKAとフィンランド出身HEINI NUKARI二人の存在は強烈だった。オブジェクト、そして素材:メタルボール、指輪、ドーナツ型の乾パン、メタルベッド、スプリング…。それだけでは終わらない。声、視線、刈り上げた二人の頭…と、彼女ら自身も素材の一つとして紛れ込む。日常に見られる素材の数々でありながら、それらを注視することで、限りなく無機質な世界を創りあげる。にじみ出るアンダーグラウンドな雰囲気。でも、奇声をあげたり、物を壊す必要などない。極端なこだわり、マニアックな視点がシュールな空間を生み出し、透明感さえ醸し出す。メタルボールを転がしてその上を歩いてみたり、平たくて丸い乾パンをスプリング棒で演奏してみたり(バイオリンのように)…。そんな試みをパンクな音楽をバックに、時にはメタルリングのこすれあう音を注視(「注聴」?)するためにまったくの沈黙の中で「こと」は進む。17世紀スウェーデンの女王Wasaにインスピレーションを受けたというだけあって、彼女らの世界では、スノッブな「フリ」をすることがひとつのモードにさえなったよう。なんとも徹底した遊び心をもつ二人だ。今回、改めてヨーロッパ各地の傾向を比較することができた。枠にはめたいわけではないが、自然と地域ごとの傾向が浮き彫りになる。あくまで軽やかな動きがメインでスピード感がある美的なベルギー・フランスなど仏系、前衛的かつミニマルな独系、ナレーションが入り演劇的要素のある英系。注目すべき独系の極度の不条理さは、日本からの創作にも一部垣間見ることができるのではと考えている。

クレジット:表紙写真/HIDEO ARAI, Photo: Cylla Von Tiedemann
取材・文:YUKO H.
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