今回は個人的なエピソードを少々。ある知人はオペラや演劇、映画を観るのが好きだ。ではコンテンポラリーダンスはと聞くと、わけがよくわからないと眉をひそめる。実際、同じような印象をもっている人が多数だ。そんな「わけのわからない」コンテンポラリーダンスへのアプローチはどうしたものか。筆者自身、初めて友人に誘われコンテンポラリーダンス公演を観に行った時、リアクションに困った。わかるわからないどころか、なにか感じるようでいてそれを言い表す言葉が見つからないほどぼんやりしていた。その後5、6年間たいした発展はなかったが、モントリオールでアートシーンをチェックしていると自然に見る機会が多くなり、どっぷりはまることになった。好きになった劇的なきっかけというのは思い当たらないが、好奇心を発端に、観れば観るほどおもしろさが見えてきたという気がしている。何をおいてもステージが始まる瞬間の暗闇の中、これからいったい何が始まるか、というスリルがたまらない。ダンス分野に限らないけれど、日本とは違う土壌で未知の感覚を味わえることは確かだ。

 先日観た ESPACE TANGENTE での、毎年お決まりの Concordia University や UQAM、LADMI などの駆け出しクリエーターたちによるショーケース形式の公演。その中で、ことに光っていた DAVID RANCOURT(振付・演技)のデュオ("A notre image";2001年9月14日観劇;相方 JOELLE CHAREST)。ブレークダンスの混じった切れ目ないアップテンポの動き。ほとんど背たけも体型も同じ男女が時には鏡に映るように、時には各々の領域に隔在するように、ステージの奥行きをうまく活かして踊るものだった。このステージを観ていて、胸がキュンとする瞬間があった。この場合はダンスが好きで踊る、若いまっすぐなエネルギーが感じられたからだ。そんな瞬間がある限り、また次のダンス作品のフタを開けてみたくなる。クレジット(写真右上)Annie-Claude Coutu Geofroy

 さて、ヌーベルダンスフェスティバル。Grand labo −大実験室−のテーマを体現。オープニング公演から驚きの連続で、コンテンポラリーダンスの開放性がひしひしと感じられる。オープニングのカウンターパンチ JEROME BEL。業界では彼の話があちこちから聞こえてくる。

 THIERRY DE MAY(ベルギー)の映像作品は、オリジナルな音とフレーム越しに見るダンスで、生公演とはまた違う一面を見せてくれる。XAVIER LE ROY, Nuits du Grand Laboでの MYRIAM GOUFINK(ともにフランス)などによる、実験性に富んだ試みが各劇場で展開されている。
観劇後感

観 劇 日:Wed.9.19.2001
振   付:JEROME BEL(仏)
演   目:The show must go on
劇   場:Monument-National

 挑戦的なステージだった。マスを利用したパフォーマンスがキーポイント。記憶に新しい路上で裸体の群れを撮影したニューヨークの写真家SPENCER TUNICKしかり、当フェスティバル後半10月3日から6日までお目見えする、9人のプロパフォーマーと9人の素人による作品を披露するCHRISTINE DE SMEDTしかり。

 さてこのThe show must go onでは、冒頭、ウェストサイドストーリーでお馴染みの "Tonight" が暗闇の中流れる。DJは舞台中央に直面した位置に。次の音楽に移ってもステージライトはオフのままでパフォーマーも登場せず、観客をじらす。5分間かあるいはそれ以上、真っ暗なステージを見つめ続ける観客。そこで注目のモントリオールの観客。ヒューヒューと口笛鳴らし、笑い、手拍子を打つ。ようやく3,4曲目がかかったころか、1人2人とパフォーマーが現れる。横一列、少し弧を描いて並んだ19人。ごくごくカジュアルなGAPの宣伝のようないでたち。そこで何が始まったかというと、19人が不動で観客を見つめるのだ。また5分後か、音楽が変わって(ほとんどが英米ポップス)今度はいっせいに各々が体の一部分だけを集中的に動かし続ける。舌を出しいれする人、寝転がって足を伸縮する人、果てにはパンツを脱いでブラブラっとしているやからも。こうした「個人主義的群舞」のいくつかをある時ぱたっと止め、ステージ暗転、観客にスポットライトをあてる。音楽付きで。と、来ればバルコニーで踊り出すのがモントリオール人。別の夜には立ち上がって舞台をじっと見つめる、というデモンストレーションをした観客もいたという。そんなこんな、前代未聞のスペクタクルは観客の素を導き出すことに成功していた。500人は入るシックな中劇場で、ばか笑いし、目の前の手すりに足を上げ、音楽に合わせハミングし…。観客心理をもて遊ぶべく、ごく単純な表層に隠してなされていた計算。この振付家の評価は極端に2分されるそうだが、私はものすごく好きだ。
OFF-FIND(SOIREES DENSES)$10

日   程:Wed.10.3.01- Fri.10.5.01: 11:00 pm
振   付:BATTERY OPERA (Vancouver), MARTIN BELANGER (Montreal), SARAH WILLIAMS (Montreal), GEORGE BALANCHINE, ADAM HOUGLAND, NACHO DUATO, CORI CAULFIELD (Vancouver), ERIN FLYNN (Winnipeg), MAPS (Montreal), DEBORAH DUNN (Montreal), COMPAGNIE LA ZAMPA (France)(日替わりの演目。http://www.studio303.net にてプログラムを参照下さい)
劇   場:Studio 303 (372 St-Catherine West x Bleury, metro Place des Arts, McGill; 514 393-3771)

フェスティバルはさまざまなタイプの作品に出会うチャンス。OFF-FINDではさらに実験的なパフォーマンスを期待できる。

DAVID PRESSAULT(無料)

日   程:Wed.10.3: 14:00 pm/20:00pm
振   付:DAVID PRESSAULT
演   目:Violet
劇   場:La Maison de la Culture Frontenac (2555 Ontario Est, metro Frontenac; 514-872-7882)

9月に Agora de la Danse で公演された作品が早速無料で再演される。体に宿る、性と魂の両具性。アクロバティックな動きに加えインド思想的な精神世界が彼の持ち味。おすすめ。無料券 Laissez-passer をあらかじめ窓口でゲット。

取材・文:YUKO H.
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