今回はフランスのダンス傾向をチェック!モントリオールを離れ2週間近く滞在したパリ。シーズンオフを前にした6月は、大物振付家たちの来仏ラッシュ。 ピナ・バウシュ、ウィリアム・フォーサイス… そんな中で大きな山のすそ野を垣間見たにすぎないけれど、モントリオールとの比較を中心に私なりの印象を書いてみたい。

 まず、ヨーロッパ文化に比例してダンス傾向もフォーマル。オペラ、クラシックバレエ公演が3分の2を占めている。ダンスに対する政府の関わり方がモントリオール以上に組織立っていて、各地方の主要都市に国立系振付センターなる機関が設置されている。そしてその管轄下でさまざまなプロジェクトが進められるわけだが、ある意味で所属の振付家やパフォーマーの基礎やクオリティーが保証されている。一方、もちろんフリーランスもいるが、みたところでは数ある振付センターレベルの催しものに押され、一般客への露出度が低い。それにインディペンデント系ではコンテンポラリーというより民族ダンス系の方が目立つ。コンテンポラリーダンスといってもいろいろなスタイルが混在している。

 今回、モントリオールで私がより注目している個人的なレベル(振付家とパフォーマーが同じだったり、ソロだったりするタイプ)の作品をフランスでも観て比較したかったのだが、結局、自然と国立振付センターレベルのものを観ることが多くなった。これもひとつのヨーロッパの傾向。国に支援された機関に所属しているだけあって、アーティスト(というより研究員?はたまた公務員??)たちは生活の心配をしないで創作に専念できるわけだ。そのへん、より生活に密着した大多数のモントリオールのアーティストたちとは随分創作環境が違う。私の知る限り、カナダでは毎シーズン連続した政府支援金の対象はカンパニー単位が目立っている。有名どころのラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス、O Vertigoといったところ。他の大部分のアーティストたちは何年かに一度支援金を得つつも、自分で生計を立てる必要があるはずだ。私としてはアーティストの個人的視点や感性に注目しているので、改めてシステム上、より私的な創作を観る機会の多いモントリオールダンス界はおもしろいと思う。とは言ってもやはり、アイディアと実験性に満ちた作品づくりをするフランスの業界のエネルギーと可能性には目を見張るものがあった。滞在当時、ポンピドーセンターのircam主催のFestival Agoraが開催されていた。ircamはコンピュータミュージックなど、技術的によりコンテンポラリーな音楽創作を研究対象としている機関。私の観たいくつかのコンサートとダンスのセッションプログラムはどれも目新しい趣向のものだった。

7月中のコンテンポラリーダンス公演

日   程:Fri.7.27.01- Sat.7.28.01: 8:30 pm(無料)
カンパニー:Montreal Danse
振   付:Dominique Porte, Avi Kaiser
演   目:"Solitudes", "Humus"
劇   場:Theatre de Verdure (Parc La Fontaine内 x Duluth: metro Sherbrooke)

 今年2月にPlace des Artsにて公演された2作。イスラエルで生まれ、ドイツに住むAvi Kaiserの作品をケベック発Montreal Danseのメンバーたちが演技。

注)1時間ほど前から劇場前に人が並び始めるが、充分席数があるので30分前に行っても座ることはできる。雨天中止。

観劇後感(パリ、2001年6月)

観 劇 日:Thr. June 7, 2001
振   付:Myriam Gourfink
演   目:L'Ecarlate「深紅」
劇   場:ircam(約150席)
音   楽:Kasper T. Toeplitz

 LOLというプログラムソフトを使ったコンピュータによる創作振付。" Dance machine "と呼ばれる2人のパフォーマーたちの動きはミニマル。約一時間をかけて舞台上手から中央までやっとスペースの半分を移動する。そのかわり地べたにはりついたり起き上がったりと、上下運動は活発。当時の私のメモから:「こうこうとライトのあたる中、ひとつのセルとなり宇宙空間をさまよう」

観 劇 日:Sat. June 9, 2001
振   付:Herve Robbe
演   目:Permis de construire「建築許可証」(ダンス映写)
劇   場:Centre Pompidou地下ホール

 Herve Robbeは過去に建築家を目指していたというだけあって立体的空間の使い方に長けていた。私が観たのは実際の舞台ではなくイントロともいえるダンス映写を使った装置で、名付けて「ダンスラビリンス」。ラビリンス空間内の数ある窓からダンスの投影が見えるのだが、同じダンスを正面からと背面など、まったく異なるアングルから映したものが例えば向かって左側と右奥で同時進行していたりする。あるようであまり見ないアイディア。おもしろい。フランスではモントリオールに比べ、ダンス映像をよく目にする。

観 劇 日:Wed. June 20, 2001
振   付:Michele Anne De Mey
演   目:タイトル未定(Creation 2001)
劇   場:Theatre des Bouffes du Nord(約300席)
音   楽:Jonathan Harvey

 Michele Anne De Meyはベルギーの振付家。リボンを振るようにあくまでライトでエレガントな振りはベルギーやフランスの特徴か。友人の言葉を借りると美的というか。かといってクラシックバレエの要素はまったくと言っていいほど見えられない。抑揚のないリフレインがかえって雰囲気を圧倒する。De Mey はベルギーの人気振付家Anne Teresa de Keersmaekerのカンパニー所属パフォーマーだっただけあって、彼女に傾向がよく似ている。今回の舞台はダンス講演とでもいうべきで、Jonathan Harveyの楽曲にインスピレーションを受けたDe Meyが製作中作品の振付のパーツそれぞれを解説。中でもBaiser forceという、むりやりキスしようとする動きのパターン集が笑えた。古い劇場の廃虚をわざとほとんど修復せず使ったこの劇場Theatre des bouffes du Nord。vouteと呼ばれる、教会を思わせる丸天井とステージ前面上方のアーチが演出に一役かっていた。この廃虚劇場は演出家ピーター・ブルックのアイディアとのこと。(以上3公演は Festival Agora 枠内)

観 劇 日:Sat. June 9, 2001
振   付:Jean-Claude Gallotta(ドイツ)
演   目:Presque Don Quichotte「ほとんどドン・キホーテ」
劇   場:Odeon(900席)

 1980年代から人気を保つ振付家とのこと。思いっきり演劇然としたデカダンスな作風。本を使った動きがおもしろい。ゲルマンやアングロサクソン系の作品にはこうした演劇風な傾向がよく見られる。これを観ながらふと、「テアトルはひとつのグループが演じている感が否めない。公演中ひとりひとりがぜったい異なる動きしかしない舞台って観てみたい」と思った。

 最後になったが、ワイン杯を傾けながらいろいろと傾向を語ってくれたパリ在住の友人Tに感謝! (彼女は10年以上にわたりコンテンポラリーダンスを含めさまざまな公演を見続けている)

取材・文:YUKO H.
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