真夏にこんな話で始めるのもどうかと思うが、昔、マイナス15度の真冬に薄い春用コートをはおったTシャツ姿で学校に現れたクラスメートがいた。聞くと、「外にでないから」と言う。学校が地下鉄駅から直結しており、彼女宅も地下街と直結しているので寒い冬も外を歩かずに済むからだ。確かに彼女はいつも薄着だった。ダウンタウンの中心にあるイートンセンターで待ち合わせをした時も薄着でやってきて私の冬用の分厚いコートを見て笑っていた。そんなモグラのような生活ができ、季節はずれの格好ができる理由はモントリオールの巨大な地下街アンダーグラウンドのおかげである。地下鉄の開通に伴い、1967年のExpo67国際博覧会、1976年の夏季オリンピックという国際イベントを経てモントリオールのアンダーグラウンドは拡大し、現在、地下鉄駅から直結しているアンダーグラウンドは13kmにも及んでいる。その中でも新しいものは1980年代にできたショッピングモール、Les Promenades de la Cathedraleである。地下から地上にあがると、Les Promenades de la Cathedraleの真上に教会が建っている。それが今回の教会、Christ Church Cathedralである。

 モントリオールのAnglican教会(聖公会 英国国教会)の歴史は1760年代から始まる。当時のモントリオールはローマカトリック教が主流であったが、領土がフランスからイギリスに渡ると 急激にイギリス系移民が増え、1814年に最初のAnglican教会がノートルダム通りに建てられると、これが後にモントリオールのAnglican教会総本山のChrist Church Cathedralとなる。そして火災による焼失により、1859年に現在の位置に再建された。再建された当時は発展途中の片田舎だったが、今では大型デパートやショッピングモール、オフィスビルが立ち並ぶダウンタウンの中心地にあり、新旧が混ざった不思議な雰囲気を出している。

 ‘Floating Cathedral’とも呼ばれているこの教会は、地下がショッピングモール、という不思議な構造をしている。この教会の下に地下街を掘る工事は1985年から88年にかけて行われた。87年に教会の支柱と土台の補強工事が行われた時の写真の教会はFloating Cathedralという言葉通り、宙に浮いているようだ。この工事の際、何枚かのステンドグラスが工事の震動に耐え切れずひびが入ってしまったそうだ。しかし128年の歴史を持つ教会のダメージを最小限に押さえられたことから現代建築技術の計算の正確さに圧倒される。地下街建設計画にあたり、教会側は教会と地下街の直結による宗教の世俗化を恐れ、地下から教会内へ直接入れないように配慮した。今でもLes Promenades de la Cathedraleから教会へは一旦外にでないと入れない。また、St-Catherine通りからLes Promenades de la Cathedraleへ降りる長いエスカレーターの途中に教会オフィスとキリスト教に関する本屋がある。エスカレーターで一旦降りてしまうと階段を半分上らなければならないという不便な場所にあるのだが、これもまた教会側が地下街との間に一線を置きたい為なのかもしれない。

 さて、St-Catherineの大通りに並ぶ店の夏セールの看板の誘惑に負けそうになりながら日本からやってきた友人FとChrist Church Cathedralをめざして取材しにいった。教会に入ると薄暗い中に連なる巨大なゴシックアーチの柱と様々な模様が描かれた天井に圧倒された。壁を支える柱の先端には天使の像がある。天使といってもあまりにリアルな表情で少しびっくりした。モントリオール最初の司教、Bishop Fulford はこの教会を建築するにあたり、天使の像を四方の壁に配置することによって地上での信仰が天国に導くという教会の視覚的心理効果も考慮に入れたそうである。それにしても、もう少しかわいい顔にして欲しかったと思ってしまう。

 この教会内部には他の教会には見られない物がある。入ってすぐ右に子どもの教会と呼ばれている一室があり、椅子も祭壇も全て子供サイズで教会をそのまま小さくしたようになっている。そのまま祭壇に向かって進み、突き当たったスペースの前で友人Fと顔を見合わせた。「あそこにあるのは習字?」詳しくはHongmo Ren氏による、“English and French words using Chinese brush stroke techniques”の個展であった。教会のスペースの一部を芸術の場として貸しているのだ。習字用の筆を使って書いたアルファベットは踊るような線を描いて見事に和洋が統一された芸術になっている。この個展は残念ながら7月末までである。和洋折衷の教会に驚きながらもその先にある祭壇にあがると、壁には誰もが1度はどこかで見たことがある有名な絵のコピーが飾ってあった。その有名な絵とはイタリア、ミラノのサンタマリアデレ グラツィエ教会の食堂に飾ってあるレオナルド ダヴィンチの‘最後の晩餐’のコピーである。18世紀のカナダ人画家Poade Drakeによって描かれたこの絵は、オリジナルのような繊細さはないにしろ、絵の持つ独特な暗さがあった。(単に古いだけかもしれない。。)元々はノートルダム通りにあった教会に飾られていたものだった。1856年の冬に火災がおこり、燃え盛る教会堂の中、ある軍人が額からキャンバスだけ切り取りなんとか絵だけは焼失をまぬがれ、現在の教会に置かれたそうだ。

 教会から出ると、Fが「あれは犬、いや、サルか? 」と教会正面扉の装飾ガーゴイル(Gargoyle)を指差した。ガーゴイルとは主にゴシック様式などの中世の教会にみられる魔よけの怪獣の形をした彫刻で、屋根の四隅、窓枠に置かれ、その口から雨が流れる雨桶の役目になっていたりする。「犬というより沖縄のシーサーに似ているね」とFが言った。確かにその外観も役目も似ている。ふと上を見ると教会の屋根全体にこの魔よけのシーサー、ガーゴイルがいたるところに飾られてあり、その不気味さに2人で唖然とした。いったいこれだけのガーゴイル達がどんな魔から教会を守るのだろうか?教会的にみると、ここでの魔は地下アンダーグラウンドシティにあふれる人間の疲れ、世俗なのかもしれない。そんな勝手な想像を膨らまし、教会を後にして我々もアンダーグラウンドへ降りていった。今日もアンダーグラウンドから吐き出された買い物途中の人達や周辺高層ビルに疲れた人々がこのChrist Church Cathedral の中庭でつかの間の休息をとっていることだろう。

-Christ Church Cathedral
463 Sainte-Catherine Ouest


取材・文:りさ
協力:F.山下
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