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第6回は告原道江(つげはらみちえ)さん (2004/6/15)
アーティスト
アーティスト:告原道江

 フランス語でアートを勉強する上で、困難を伴ったのは言葉の持つニュアンスである。 日本語でも外来語は多く使われるが、その多くは自分たちの解釈に沿った独自のニュアンスを持っており、本来の言葉とは少し意味合いが変わってくる。

 Baccalaureatの一年目に彫刻のクラスの中で交わした会話がずっと記憶に残っている。私達はクラスが終わった後もobjetsculptureの違いについて教授と話していた。主題はobjetsculptureから次第に何がアートで何がアートではないかというものに変わって行き、どんどん複雑になって行った。そこで私が業を煮やし、「では、アーティストのアイディアを認めればその作品はアートとなり、認めなければゴミと同じような価値でしかなくなるのか?」と質問すると、その教授は「そうだな、そうなるかもね。」と答えた。アートとは何かというのは誰もが考え、答えを出せない問いである。私にとって、アートは生活の全てであると思う。私がアートに求める物は、ユーモアのセンスと一目見て心を捕らえてしまうような衝撃性。ユーモアのセンスと言うのは非常に大事な物であると思う。これはアートに限らず、人生においても同じである。 私はよく日常に溢れる素材を作品に使う。アイディアのヒントは生活の中にあり、素材は回りに溢れている。その事からも私は自分の作品を言葉遊びも交えて≪la plus belle poubelle≫(最も美しいゴミ)と呼ぶ。

  アートは生活の全てと深い関わりが有る。アートは哲学、社会学、建築学、歴史、伝統、文化、政治、心理、流行、感情、その他全てを含んでいる。だからアートは難しく、また興味深い。アートを勉強すると言う事は、自分自信を見つめる事、生きる意義を見つける事、生活を豊かにする事。自分が自分らしくいる為に私はアートをするのだと思っている。私という存在を主張する為にアートをする。

 「美術はわからないから…」と敬遠する人が多いのはとても悲しい。確かに美術は難しい。分り難い作品も沢山ある。でも、理解しようとしなくて良いのだ。 観て、何か感じるだけで良いのだ。何も感じなければそれで良い。良い作品と言うのは何も説明しなくても心の中にスーッと染み込んで行く。そんな作品に出会った時はとっも得した気分で一日を過ごせるものだ。だから私は誰にでも分りやすい作品を作りたい。アートは一部の知識人の為の物ではなく、全ての人と分かち合う物だからだ。

 アートには人種の違いも国境も無い。私は海外に出てアートを勉強できた事を嬉しく思う。両親に感謝しつつ、これを人生の大きな区切りとしてこれから少しづつ自分の道を切り開いて行けるように努力して行きたい。そしてもっと国際的にアーティストのつながりを広げて行きたい。

  ≪迷ってみてはじめて、世界を失ってみてはじめて、われわれは自分というものを見付け始める。 一体自分たちがどこにいるのか、そして人間のいろいろな関係が無限の広がりを持っていることに気がつくのである。≫
Henry David Thorau

 私はカナダで生活して、外側から改めて見ることによって今まで気が付かなかった日本と日本の伝統文化を再発見し、改めてその素晴らしさを知った。多分それが一番の収穫かもしれない。

 mouvementBOOBOOISME≫ 美術史の中にはいろいろなmouvementがあり、現代のアートはいつも過去のmouvementと比較される。私達には私達のスタイルがあるはず。独自に新しいmouvementを作っても良いはずだ!そこで私は必要不可欠であるオリジナリティを体現する為に、自分のアートスタイルをBOOBOOISMEと名付けた。

 BOOBOOISMEの精神とは…

*アートは精神の食べ物である:精神にエネルギーを与え、生活を豊かにするものである。

*アートは万人のものである:皆に分りやすく、誰もが楽しめるものである。知識人や、金持ちの収集家が独占する 物ではない。

Cheap Art:アートは売る為の物ではなく、表現する物である。生活の中にそのヒントは有り、材料は身の回りに溢れている。

*アートに国境は無い:アートは世界の共通語である。どんな文化にも興味を持ち、視野を広げ、相互理解を惜しまない広い心を持つ。

 物を大切にしない人が多い。クリエイティヴな仕事をする人達はよく「何も無い所から自分のイメージを作り出して行く」と言うけれど、私は無駄な物、人がゴミだと思うものから物を作り出して行きたい。世の中には無駄な物が多すぎる。本当は無駄な物は無い。発想を変えればみんな役に立つ。ゴミを減らそうとするならもっと物を大切にするべきだ...という私のささやかなメッセージに見る人が思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアをのせた作品を作って行きたい。

 この精神を持って今後アート活動をするにあたり、6月29日から7月5日まで、Plateau-Mont-Royalにあるギャラリー ≪le 1040≫ にて初の個展を開催します。 地下スペースではモントリオールの情報誌ブレテンにて活躍中のイラストレーター、青木よしのさんによるスケッチブック展「CAN - sketchbook」も開催されます。是非観にいらして下さい。

作品・文:告原 道江
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